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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ436

「空自北空司令官の山藤です。ご無沙汰しています」「佐藤だ。本当に久しぶりだな。千歳が閉鎖になったと言う速報が入った後、ウチのPー3を三沢のFー2と交代させると言う連絡も入って状況が見えなくなっているよ」北部航空方面隊司令官にとって自衛艦隊司令官は防衛大学校の部活動の先輩の旧知の仲で、それだけに会話も単刀直入だった。
「千歳のFー15にエスコートさせようと思ったところにコリアンの旅客機の爆発で滑走路閉鎖になったので三沢のFー2を発進させました。するとパイロットから対艦攻撃の武装をしているんだからこのまま攻撃させろと意見具申がありまして、それを採用したんです」「それは拙くないか」自衛艦隊司令官の口調が部活動で技を指導している時のように厳しくなった。
「Fー2が対艦攻撃の武装をしているのならロシア軍の戦闘機に対処できないだろう。ASMー3じゃあミグ35やスホーイ35を落とせないぞ」「それはそうですがCAPしているFー15は4機だけなのでこれは国後からのヘリに対処させなければなりません」戦術判断の理由を説明しながら北部航空方面隊司令官はどちらが空将なのか判らなくなってきた。航空自衛隊の空中戦の訓練では操縦技量と体力や耐久力の限界を追及するように苛酷な旋回を繰り返しながら相手を捕捉してバルカン砲のトリガーを引く修練を繰り返している。これは陸上自衛隊が射撃よりも銃剣道を重要視する帝国陸軍の悪しき伝統から脱却できないのと共通しているが、その点、海上自衛隊は万事をアメリカ海軍式に改めているので空母艦載機の運用を通じて空中戦は空対空ミサイルの発射可能な位置を占めることから始まると認識しているようだ。
「相手は速度が遅い大型フェリーだ。Pー3を上空待機させて武装変換させたFー2を発進させても間に合うはずだ。根室のヘリについては陸の高射特科もいるのだから4機のFー15を付けてもらう手もある。手遅れになる前に指示するべきだろう」「はい、ご助言有り難うございました」自衛艦隊司令官の指導を助言と言い替えながら北部航空方面隊司令官がスクリーンの映像を見ると北海道上空で編隊を組んだFー2はオホーツク海に入ってロシア軍の戦闘機と交戦を開始する直前だった。階下の防空指令所からはガラス越しに兵器指令官たちが担当するパイロットにロシア軍の戦闘機の位置と距離を伝えている声が聞こえてくる。
「ロシアン・ターゲット(ロシア軍機目標)、AAM(空対空ミサイル)発射」「同じく」「同じく」「回避しろ」「逃げろ」「ベイル・アウト(緊急脱出)だ」次の瞬間、悲鳴のような報告が聞えてきた。自衛艦隊司令官が危惧したようにロシア軍は先ず空対空ミサイルを一斉発射してきたのだ。ロシア軍の空対空ミサイルの射程はR―60で8キロ、Rー73なら20キロから30キロと言われているので航空自衛隊が04式と呼んでいる最新型サイドワインダー・AAM9Xなら十分対抗できる。しかし、空対艦ミサイルのASMー3ではどうしようもない。
「タンゴ001、シンボル・ロスト(航跡喪失)」「タンゴ008もロスト」「タンゴ012もロスト」声で報告するまでもなく映像からFー2の航跡は消えていた。これでは昭和19年6月19日と20日のマリアナ沖海戦で日本海軍の艦載機を手当たり次第に撃墜した大戦果をアメリカ海軍が誇示した「マリアナの七面鳥撃ち」ならぬ「オホーツクの黒猫皆殺し(3空団の尾翼マークは黒豹)」だ。東シナ海で海上自衛隊がマレー沖海戦を再現したのとは逆の敗戦に北部航空方面隊指揮所は沈痛な空気が充満したが、それ以上に防空指令所ではAAMの発射を受けて急旋回や急降下によって必死に回避しようとするパイロットたちの唸り声と絶叫を聞いていた兵器指令官たちの悲嘆が深く機能停止しそうだ。そんな中で日頃から失意泰然・得意淡然を心がけている司令官だけは平静を保っていた。
「3高群に発射準備を指示しろ」「PAC2で何を」「ロシア軍機が射程距離内に入れば撃墜させろ。陸にもSSM(地対艦ミサイル)の発射準備を連絡しろ」「はい」北部航空方面隊司令官は茫然自失している幕僚たちに矢継ぎ早に指示を与え始めた。陸上自衛隊の第1特科団は88式地対艦誘導弾を装備していてオホーツク海方面からの侵攻に対処できる場所に展開している。惜しむらくは陸上自衛隊が北方重視と言うよりも偏重を転換して最新式の12式地対艦誘導弾を九州と沖縄に配備していることだ。
「ベイル・アウトしたのは何人だ」「現在確認できているのは5名、引き続き確認しています」「千歳救難隊からヘリなら発進可能なので救助に向かいたいと言ってきています」「CAP中のFー15をエスコートさせて捜索に当たらせろ」日露戦争で満洲軍総司令官の大山巌元帥は作戦指導は全て児玉源太郎総参謀長に任せて茫洋とした態度で過ごしていたが、児玉大将が同郷の乃木希典の窮地を救うために旅順に赴くと別人のように厳正な指揮を執り、周囲は日頃の態度が演技であることを思い知ったと言う。北部航空方面隊司令官はWAFたちが憧れるイケメンで温和な紳士だが、それも演技なのかも知れない。
  1. 2023/03/23(木) 14:30:59|
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