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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ438

「続いて射て」「はい、各中隊、次弾発射準備、レーダー装置(捜索・標定レーダー装置=JTPSーP15)は目標の現在地を各中隊に通報せよ」想定外の事態にも第3地対艦ミサイル連隊の対応は迅速だった。88式地対艦誘導弾の発射機の車両には6発の発射筒(現在は12式地対艦誘導弾の規格変更に合わせて断面は四角形)が搭載されていて連続発射が可能だ。
「探知位置1・2キロ直進」「データー入力完了、発射できます」「発射要領は前回と同じ。1中隊から5秒間隔、初弾発射5秒前、4、3・・・」3科長は運用訓練幹部と各中隊のやり取りを腕組みして聞いていたが、発射指令になると身をかがめて運用訓練幹部の前の映像画面に見入った。すると海上の目標を探知するため海岸近くに出ている捜索・標定レーダー装置の2代目73式小型トラック=パジェロから通報が入った。
「敵機来襲。北から戦闘機が14機、空自機を撃墜した編隊の半数と思われます」これはレーダーで捕捉したのではなく上空を通過する敵機を目撃しながらの通報らしい。つまり艦隊の攻撃に向かう第3航空団のタンゴを全滅させたロシア軍の戦闘機の編隊が地対艦ミサイルの発射を受けて展開地を特定し、破壊しようと来襲したのだ。
「構わん、射て」「初弾、秒読み続行、3、2、1、撃て」3科長の命令で運用訓練幹部は発射を指令した。同時に先程と同じ発射音が聞こえたが5秒後の続きはなかった。
「敵機接近」「銃撃を開始しました」「機銃掃射を受けています」通報を聞くまでもなく外からは聞き覚えがないジェット音と何度か聞いた航空自衛隊のバルカン砲とは違う普通の機関銃の発射音が響いていた。タンゴは空対艦ミサイルを搭載していたためロシア軍の空対空ミサイルに対抗できなかったが、こちらは空対空ミサイルを搭載しているので地上への攻撃は機関砲になる。ロシア軍の戦闘機の機関砲は西側の6本の銃身が回転しながら1分間に6000発の銃弾を発射するバルカン砲方式ではなく水冷式銃身1本の30ミリ機関砲なのだ。そのため発射音も陸上自衛官には聞き慣れているような気がする。
ババババ・・・ズーン、ズーン。無線の連絡が途絶えると外からは銃声と凄まじい爆発音が聞こえてきた。第3地対艦ミサイル連隊は陸上自衛隊なので航空自衛隊の高射群のようにミサイルに偽装網のバラキューダをかけるだけで本体を露出させておくような安易なことはせず、展開時には大型車体を埋設する壕を掘って念入りに偽装を施している。それでもミサイルが被弾して爆発すれば炸薬量は地対空ミサイルのPAC3の比ではないだけに無事では済まない。展開地全体に被害が及ばなかったのは車体を埋設して誘爆を防いだおかげだった。
「発射可能な中隊はあるか」「3中隊は予備ミサイル・装填機がやられただけで残り5発は発射できます」「そうか、速やかに機材を点検して報告しろ」運用訓練幹部の指示に3科長はうなずいたが、隣りで報告を受けている陸曹が声をかけてきた。
「2中隊は射撃統制装置が被弾して中隊長以下が戦死した模様です。4中隊はミサイル発射機が被弾して5発全弾が爆発、1中隊は連絡がつきません。おそらく・・・」「14機が何度も機銃掃射を繰り返した割には被害が少なかったな。これも陣地構築と偽装を念入りに実施した成果だ」陸曹の沈痛な顔を見ながら3科長は強がりにも聞える評価を下した。
「発射した1発はやはり同様に誤誘導されました」「そうなるとウチのミサイルのレーダー波の周波数がロシアに漏れた経緯を究明しなければならないな。ロシアが知っているなら中国も知っているはずだ」「12式は妨害対策を強化していますからこの程度では支障なく命中するんじゃあないですか」運用訓練幹部の報告に3科長は問題の本質を口にしたが返事は意外にお気楽だった。88式地対艦ミサイルと12式地対艦ミサイルはミサイル本体に大差はないが電子装置は大幅に改良されている。3科長は富士学校特科教導隊に納品した製造メーカーの説明を聞いたが今回のような妨害を識別して目標を見失わない対策には絶大な自信を持っていた。
「まてよ・・・民政党政権の時に『12式は88式のようにロシアの脅威にならないのか』と言って内局の官僚に秘密資料を提出させたと聞いたことがあるぞ。ついでに比較するためと88式の資料も持ってこさせれば北方と西方の地対艦ミサイルの秘密情報が手に入る」「空自のレーダーの情報も中国に漏れて弱点を確認する飛行を繰り返していると聞いたことがあります。あり得ますね」妙な話題で盛り上がってところに3中隊から報告が入った。
「3中隊、機材点検完了、発射可能・・・人員は予備ミサイル・装填機に乗っていた2名が戦死しました」「3中隊発射準備」定型通り「人員機材異常なし」と報告できなかった中隊長の声もやはり沈痛だった。運用訓練幹部はそれを励ますように発射を指示した。
「準備よし」「秒読み開始、5、4、3、2、1、撃て」やはりこの1発も誤誘導された。それでも我が方の抵抗力が残存していることをロシア艦隊に知らしめることはできた。
  1. 2023/03/25(土) 13:08:31|
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