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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ441

「拙い、やはり数が違い過ぎる」「築城、全機スクランブル」「築城には1個飛行隊しか残っていません。韓国軍に備えて待機させています」「新田原は」「プラム(梅・第5航空団のコールサイン=仮称)は中国対処です」中部航空方面隊指揮所は小松基地のFー15の2個飛行隊に三沢基地から展開してきたFー35の2個飛行隊を加えた過去に経験がない大編隊でロシア軍を迎撃しているが相手はそれ以上の戦闘機を揃えている。東西冷戦末期にはアメリカとソビエト連邦では工業技術に大きな格差が生じていてミグやスホーイはFー15やFー16、Fー18の敵ではなくなっていた。ところがロシアはソビエト連邦時代に兵器を押しつけた東欧や中東の空軍が設計思想が全く違うアメリカ製の軍用機を使いこなせず、整備に使用する機材どころか工具まで買い揃えなければならないことを嫌ってロシアに開発を要求するようになり、中国の財政支援=先行投資を受けて次々に新型機をデビューさせるようになった。そのため現在のスホーイ35やミグ35はFー15と遜色はない。かつて航空自衛隊が空中戦訓練で仮想敵を勤める飛行教導隊・アグレッサーにスホーイ27を導入しようとしたが、あの時点でも「性能に大差がない」と言われていたから今では「凌駕している」可能性もある。下手すればナンバー35シリーズのFー35と同格のライバルではないだろうか。
「それでは先制攻撃しかないな。9X(AAMー9Xサイドワインダー)はR73よりも射程距離が1キロ長いはずだろう」「R73は正確な数値が公表されていないから実戦の検証で推定しているだけです」こちらでも指揮を委任されている中部航空方面隊司令部の防衛部長の苦し紛れの発案に戦闘機パイロットの運用幕僚が冷静に反論した。ロシアは熱心な売り込みにも関わらず西側諸国が決して導入しないため買い手の東欧や中東諸国への信頼確保として機体や搭載兵器の性能などは非公開にしている。
「しかし、防衛出動が下令されていませんから先制攻撃は警察権を超えてしまいます。その場合、攻撃命令の発令者の部長よりも実行したパイロットの方が重大な犯罪責任を問われることになります」続いて兵器管制幹部の運用幕僚が異論を挟んだ。昨日、樺太で地上部隊を乗船させてオホーツク海を南下していたロシアの大型フェリーの船団=艦隊を攻撃しようとしたタンゴのFー2が護衛のロシア軍戦闘機に全滅させられた。その結果、フェリーの船団は網走港に接岸して地上部隊を上陸させて無人の市内は占領された。当然、航空自衛隊が制空権を奪還したのを受けて陸上自衛隊の攻撃ヘリが攻撃を加え、夜間には遠軽と美幌演習場に潜伏している普通科連隊が夜襲をかけたが、この事態に至っても石田首相は防衛出動を決断していない。つまりタンゴのFー2が攻撃に成功していれば自衛隊法の武器の不正使用、刑法の大量殺人、船舶法、海上交通安全法その他諸々の法律違反で北部航空方面隊司令官以下が逮捕されることになった。ここまで深く考えるのは戦闘機パイロットにはできない兵器管制幹部の特性だ。
「そんなことを言っている・・・考えている場合じゃあない。殺るべき時に殺るのが航空作戦の鉄則だ。全弾命中させても敵機の半分しか落とせないんだ。それで編隊を崩せばミサイルのロックオンを外すことが出来るかも知れない。先ずは殺る」「よし、腹は切ってやる」「お前も一緒に3人で腹を切ろう」防衛部長の声が大きくなると背後から航空方面隊司令官と幕僚長が声をかけた。沖縄戦では第32軍司令官の牛島満大将と参謀長の長勇中将は自刃したが、高級参謀の八原博通大佐は「参謀は責任を負うべき立場ではない」「大本営に報告するのが責務である」と司令部壕を脱出して通信施設を探している間にアメリカ軍に捕獲された。その意味では防衛部長まで集団自決に加えた幕僚長は認識不足だ。
「ドラゴン、ゴールデン(6空団のコールサイン=仮称)、フロッグ、テイル(蛙、尾っぽ・F―35の飛行隊のコールサイン=仮称)、ファイヤー・ミッソール(ミサイルを発射せよ)」防衛部長は中部航空方面隊指揮所にあるレーダー・コンソールの席に着くと頭にヘッド・セットをはめてマイク・レシーバーを口に合せた。そして深く息を吸うと一気に命令を伝えた。
「ラージャ、ドラゴン・リーダー」「ラージャ、ゴールデン・リーダー」「ラージャ、フロッグ・リーダー」「ラージャ、テイル・リーダー」すると各編隊長は待ちかねていたかのように返事してきた。各編隊長も昨日のオホーツク海での惨劇の原因が空対空ミサイルを搭載せずに戦闘機に空中戦を臨み、先制攻撃を受けたことなのはヘッド(Fー2の飛行隊のコールサイン=仮称)のパイロットから聞いて知っている。そのため若しも中部航空方面隊指揮所が発射命令を下さなければ独断でミサイルを射たせるつもりだったのだ。
「オール・ドラゴン、ロックオンでき次第9Xを発射する」「ドラゴン002、ナンバー2ターゲットをロックオン」やはりパイロットたちもそのつもりだったようだ。自衛官たる者、戦いに臨んで「死にたくない」とは言わないがやはり「無駄死にはしたくない」。
  1. 2023/03/28(火) 14:22:10|
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