fc2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ443

同じ頃、北海道の網走では大型フェリーから上陸したロシア軍と陸上自衛隊の地上戦が始まっていた。前日、陸上自衛隊はロシア軍の輸送船団=艦隊を取り囲むように航行していた漁船からの同一周波数のレーダー波の放射と言う想定外の妨害によってオホーツク海上で撃沈することができず接岸させてしまった。するとロシアは迅速に戦車を上陸させて住民が避難して無人になっている網走市街の要所に配置した。一方、陸上自衛隊は空対空ミサイルに武装転換を終えたFー2が三沢基地を発進したのを受けて帯広駐屯地から北部方面航空隊第1対戦車ヘリコプター隊のAHー1を出撃させた。西部方面航空隊の第1戦闘ヘリコプター隊(部隊名が微妙に違う)は呂論島でも活躍したAH―64を運用している。このことでも陸上自衛隊が装備の優先順位を北部方面隊から西部方面隊に移したことが判る。
AH―1は網走港の沖に停泊していた妨害電波を発出する漁船団を全滅させ、返す刀で市内の戦車を次々に撃破していった。続いて遠軽演習場から第3地対艦ミサイル連隊が発射可能な88式地対艦誘導弾で攻撃して大型フェリーも全滅させた。しかし、ロシア軍は2隻目までの地上部隊を上陸させていて沖で撃沈された大型フェリーの兵士たちの大半も武装したまま泳いで陸に辿りついた。これが戦史でも度々感嘆されるロシア人の肉体の頑強さだった。
「よしよし、この袋詰めの菓子なら食べられるだろう」「缶詰があったが俺たちの缶切りで開けれらるかな」「今時の携行食はパック式だから缶切りなんて持っているのか」ロシア軍は撃沈された3隻目と4隻目に武器、弾薬、食料を積んでいたため輸送ヘリコプターによる補給を要請して到着を待ちかねていた。しかし、航空自衛隊が迅速に千歳基地の滑走路を修復したのでオホーツク海南部空域の制空権を奪い返されている。そのため前回の侵攻作戦で大多数を失った輸送ヘリコプターが危険を冒してまで投入される可能性は低い。つまり兵士たちはモスクワで大統領の「戦争の主導権を奪え」と言う政治的命令を受けた将軍たちが地図上で立てた作戦の陽動として北海道に送り込まれたが上陸しただけで目標は達成されたことになり、軍首脳の関心は日本海を超えて本州に侵攻する主力に移っているのだ。かつて日本海軍はミッドウェイ作戦に合わせて「アメリカ本土に侵攻する」と言う名目でアリューシャン列島のアッツ島とキスカ島を占領して陸海軍の守備隊を配置した。ところがミッドウェイ作戦が失敗すると海軍の軍令部や連合艦隊の関心は劣勢挽回と太平洋全域に及んでいた離島防衛に向かいアリューシャン列島の守備隊のことは忘れ去られた。今回の兵士たちも全滅を玉砕と言い替えて軍神・英雄に祀り上げられたアッツ島守備隊のような運命を辿るのかも知れない。
パーン、パーン、空腹に耐えかねて数少ないコンビニエンス・ストアで棚に放置してある商品の缶詰や菓子類を奪った兵士たちはガラスを割ったドアを出たところで狙撃された。網走市の市街地を包囲していた遠軽駐屯地の第25普通科連隊がロシア軍の地上部隊を攻撃し始めたのだ。網走市は全域が住宅地で駅前にも商店街と呼べるような地区はない。そのため食料を略奪しようにも住宅には残されておらず、仮に有っても腐っているので狙うのはスーパー・マーケットやコンビニエンスストアになる。したがって狙撃兵はそこで待っていれば葱を背負った鴨が現れると言う寸法だ。陸上自衛隊の戦闘はアメリカ軍のように連射で弾幕を張るのではなく精密照準による狙撃に近い。ロシア軍も広大な平原での防戦だった独ソ戦の前半には狙撃兵を重用したが、攻勢に転じたベルリンへの東部戦線では戦車による縦深突破戦術に徹していた。むしろ第2次世界大戦中2度のフィンランド侵攻では公認戦果だけでも542人を射殺したシモ・ヘイヘ少尉に代表される狙撃兵から多大な損害を受けている。
「これではウクライナの二の舞じゃあないか」「日本軍はひ弱なお坊ちゃまの寄せ集めだから2、3人殺せば逃げ出すって言ったのは誰だ」倒れた2人は胸部を射たれて即死していた。それを確認した兵士たちは吐き出すように出撃前に訓示した指揮官を罵り合った。
ロシアでは日露戦争を敗戦とは認めておらず、クロパトキン極東軍司令官が考えていたナポレオンを壊滅させた大陸奥部に引き込んでの焦土作戦に日本軍が乗らなかったため不利な条件で停戦・講和したと教えている。したがって日本軍の強さは教材になっていない。逆に終戦間際にソビエト連邦軍が満洲に侵攻すると日本陸軍最強と自称していた関東軍は日本人開拓民を捨てて敗走し、捕虜としてシベリアに抑留しても反抗することもなく家畜のように酷使されて多くが死んだ。これこそがロシア兵が習う日本軍の兵士=自衛官だった。
「そう言えば日本軍は全滅するまで突撃してくるんだろう。銃を構えておかないと危ないな」兵士の1人が聞きかじりの戦史の知識を持ち出した。乃木愚将が指揮した日露戦争の旅順要塞攻囲戦での反復突撃による正面攻撃は全滅しても補充して繰り返したが、今回は陸上幕僚長の指導によって持久戦術を採用しているので得意技の万歳突撃は実施しない。
  1. 2023/03/30(木) 14:32:55|
  2. 夜の連続小説9
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<3月31日・日本政府が「人口が1億人を突破した」と発表した。 | ホーム | 続・振り向けばイエスタディ442>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/8325-b6f88530
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)