fc2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ445

「今、入った続報です。樺太を出航したロシアの大型フェリーが網走港に接岸しました」監視衛星と通信衛星の破壊を受けて招集された臨時閣議は「中央指揮所を離れられない」とオンラインでの出席になった釜田防衛大臣からの「オーツク海で1個飛行隊がほぼ全滅した」「中国の舟山軍港から出航した大型フェリー4隻が東シナ海で沈没した。原因不明」との戦況報告が続き、張り詰めた空気が充満していた。
「総理、現実はすでに戦争状態に入っているんです。防衛出動を発令して下さい」双木外務大臣が決断を迫ると立野官房長官も深くうなずいた。双木外務大臣は派閥の長である石田首相に決断を迫っていることを自民党内では「背信行為」「下剋上」と批判されていて後継者、次の首相としての立場を危うくしているが国家存亡の危機への対処を優先している。一方、健康上の理由で退任した浜防衛大臣と交代した頃には前回の在任中に祟神航空幕僚長の作文問題で煮え湯を飲まさせられたため内局の官僚に取り巻かれて職責を放棄しているかのような言動を弄していた釜田防衛大臣も事態が重大な局面に立ち至っていることを認識してからは双木外務大臣と立野官房長官と共にロシアの「核兵器を広島に射ち込む」との脅しに怯え切っている石田首相に決断を迫るようになっている。
「おそらく北海道は陽動でしょう。今、監視衛星を破壊したと言うことはウラジオストックの揚陸艦隊の出撃準備が完了していよいよ主力が侵攻してくるんです」「現在、航空自衛隊のグローバルホークを三沢、小松、那覇に配置していてオホーツク海、日本海、東シナ海の監視に当たらせています。本来であれば美保にも1機配置できれば日本海を完全に網羅できるんですが」「何故、そうしない」釜田防衛大臣の補足説明に閣僚から揶揄する声が聞こえてきた。
「航空自衛隊はグローバルホークは3機しか保有していないんです」「あれだけ防衛予算を増額しても買えないほど高価なのか」「防衛予算は岩場・・・元防衛大臣が下らないことに浪費させましたから」「やっぱりアイツは中国の回し者だ」立野官房長官の説明に閣僚たちは批判の矛先を岩場元防衛大臣に向けた。岩場元防衛大臣は軍事オタクであることをマスコミが防衛通と脚色しているので国会でも防衛問題に言及することが多い。そんな石場元防衛大臣は2023年度予算の防衛費の大幅増額を審議していた衆議院予算委員会で「若者のニーズに応えて隊舎の増改築で個室化を推進するべきだ」と主張してかなりの額を流用させた。石場が防衛大臣時代の中国訪問でハニートラップに掛かったことは自民党内では有名な陰口だが、所詮は防衛問題に関する見識などは持たない単なる軍事オタクなのだ。
「総理、今のままでは自衛隊の戦闘は警察権の行使の範疇を超えて停戦後に隊員だけでなく釜田大臣まで刑事責任を問われることになりかねません」「防衛大臣の私が戦争で犯罪人になることは政治的必然性があるのかも知れませんが、身命を賭して任務を遂行している隊員たちが罪に問われることには納得できません。どうしても決断できないと仰るなら閣議をこの中央指揮所で開いて下さい。ここにいればロシア軍機に撃墜されたパイロットたちの断末魔を聞くことになります」説明しながら釜田防衛大臣は唇を震わせて鼻をすすった。釜田防衛大臣の席には航空幕僚監部が用意した先ほど戦死したタンゴのパイロットたちの身上票のコピーが届いていて否応なしに一番上の飛行隊長の顔写真が目に入るのだ。間もなく陸上幕僚監部からも遠軽演習場で戦死した第3地対艦ミサイル連隊の隊員たちの同じ書類が届くはずだ。
「そうか・・・折角の釜田大臣の提案だから閣議の場所を移そうだ。ただし、行き先は宮中だ」「はァ・・・」唐突な石田首相の発案に立野官房長官ほかの閣僚たちは唖然として返事ができなかった。画面の中の釜田防衛大臣も口を開けて動かない。
「それは御前会議と言うことですか」「国家の最重大事を議論するんだ。陛下の御前で行うのが適当だろう」「しかし、陛下の政治利用は憲法で・・・」意表を突かれて頭が機能停止している閣僚たちの中で何とか才藤法務大臣が言葉を発した。
「日本国憲法第7条の8項では『批准書その他法律が定める外公文書を確認すること』も陛下の国事行為としている。その国事行為は内閣の助言と承認によって行うんだ」どうやら石田首相はこの奥の手を以前から考えていて秘かに研究していたようだ。この流れから見ると昭和の陛下の御聖断によってポツダム宣言の受諾が決まったように本格的な戦争に突入して広島が二度目の被爆地・ヒロシマになる前に降伏するつもりらしい。
「本当は議事が終わる時に申し上げようと思っていたのですが、実は宮内庁長官から陛下の皇后陛下と内親王殿下をオランダへ亡命させたいとの御内意がございました」ここで立野官房長官が石田首相も愕然とするような奥の手を返した。そもそもこの閣議では通信衛星の破壊によって先端高度通信機能が不通になった対策を話し合うはずだった。
  1. 2023/04/01(土) 15:31:08|
  2. 夜の連続小説9
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<第124回月刊「宗教」講座・精進料理教室8時間目 | ホーム | 4月1日・今年は知名度が上がった蒲郡市の市制記念日>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/8329-66ea9dd2
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)