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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ446

「要するに総理は降伏の決定を陛下に仰いで敗戦の責任を回避したいんですね」「どのように受け取ってもらっても構わない。ただ私は帰省する度に平和公園の原爆慰霊碑に参って三度目の核兵器の使用を絶対に阻止すると誓っている。そしてウクライナでロシア軍に虐殺された多くの人々の冥福を祈ってきた。だから日本で同じ惨劇を繰り返させることはできないんだ」立野官房長官が「皇后と娘をオランダに亡命させたい」と言う天皇の意向を伝えると閣僚たちは失望をアカラサマにして石田首相の御前会議の提案にまで皮肉を浴びせ始めた。敗戦時の首相は日露戦争の日本海海戦で駆逐隊司令として日中の砲撃戦で損害を受けたバルチック艦隊の火焔を目標に夜襲を加えて多くを撃沈し、侍従長だった時に発生した2・26事件では反乱部隊に襲撃されて重傷を負った鈴木貫太郎大将だった。鈴木大将は日米開戦後の3人の首相の東條英機大将が死刑、小磯国昭大将が終身刑で獄死しているのに対して極東軍事裁判で訴追されていない。尤も鈴木大将は現在も破られていない首相就任時の最高齢記録の保持者であり、慶応3年=江戸時代に生まれた最後の首相だったので昭和23年に80歳で亡くなっている。
「総理の政治的美意識を批判する気はありませんが、我が国が何の違法行為も犯していないにも関わらず韓国の前政権が武力を行使してきたのを発端として、中国が常任理事国による懲罰と称して参戦してきてロシアも同調した。我が国が降伏すればこの不正行為を受け容れることになり、任務に殉じて戦死した自衛官、警察官、海上保安官、消防官たちを冒涜することに他なりません」「カソリックの本嶋等長崎市長は『原爆を投下されたのは日本が罪を犯したからカミが罰を下したからだ』と言いましたが広島の総理も同じお考えなんですか」閣議は官房長官が司会進行を担当するが実際は自由討議に近く、双木外務大臣の発言に画面の中の釜田防衛大臣が同調した。同じ反核運動でも「怒りのヒロシマ、祈りのナガサキ」と呼ばれているように両者の表現・発信手法はかなり違う。8月6日の広島では教職員組合が推し進める児童・生徒の反核=反米教育と市民団体の集会やデモ行進を前面に出して闘争の熱気を沸き立たせているが、8月9日の長崎では実際は少数派に過ぎないカソリックの信者たちが聖堂のミサで犠牲者の冥福を祈っている情景がテレビの視聴者の感動と同情を誘う。しかし、カミが長崎に加えた罰としのプロトニウム爆弾はカソリックの浦上天主堂の真上で炸裂している。
「陛下にはオンラインで御臨席を仰ぎましょう。私も閣議の場としてはこの官邸でなければ中央指揮所の方が相応しいと考えます」「それならオンラインでの御臨席を実現するように宮内庁長官に手配してくれ」「それではこの臨時閣議の目的である通信衛星の破壊についての対応に移りたいと思います。先ず所管の立本総務大臣が説明します」石田首相の提案は先細りになって立野官房長官に揉み消されてようやく本題に移った。その議論の間も釜田防衛大臣が網走上空を通過した戦闘機が確認したロシアの大型フェリーから上陸した地上部隊の動きと陸上自衛隊のAHー1攻撃ヘリコプターと88式地対艦誘導弾による攻撃、第28普通科連隊の地上戦闘などの説明が続いたため、結局は前回の通信破壊への対応を経験している総務省への一任と言うことで散会になるはずだった。
「中国政府が東シナ海での大型フェリー沈没に関する記者会見を始めました」何時になく疲れ切った様子の閣僚たちに女性職員がコーヒーを配り始めると男性職員が駆け込んできて立野官房長官に声をかけた。コーヒーを口にしていた石田首相にも聞えたので飲むことができなくなって困った顔で顎を上げて喉に流し込んだ。
「在中日本人を帰国させるために乗せていた大型フェリーを海上自衛隊が撃沈・・・釜田大臣、そんなことをやらせたのか」「その大型フェリーには中国軍の地上部隊が乗っているとアメリカ軍の偵察機が確認しています」この記者会見の映像は日本の通信衛星が破壊されているため韓国経由で受信しているようでハングル文字の字幕が入り日本語は音声の同時通訳だった。
「外務省にもそのような連絡は入っていません」石田首相が険しい顔で釜田防衛大臣を詰問すると双木外務大臣は先に説明した。どうやら石田首相は自衛隊の防衛行動が現場の論理で突き進み、文民統制が機能しなくなっていることに不信感を抱いているらしい。しかし、その原因と責任は事態の深刻さを理解せずにマスコミの反応ばかりを気にして必要な対応を怠ってきた石田首相や取り巻きの内局の官僚の口車に乗せられていた以前の釜田防衛大臣にある。
「昔から『中国人は息をするように嘘をつく』と言いますから今回も自分の軍の損害を利用して我が方の対処に制約を加えるつもりなんでしょう。そうなると明日当たりにロシア軍の主力が侵攻してきますね」「早く官房長官の記者会見を開いて否定しないと海外にこの虚偽が拡散してしまいますよ」閣僚たちの発言に立野官房長官は「放送法は政治的公平性を義務づけているんだよな」と口の中で呟いたが放送法には悩まされた経験があるので声にはしなかった。
  1. 2023/04/02(日) 14:36:36|
  2. 夜の連続小説9
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