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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ449

中部航空方面隊がロシア軍のフレア(熱源)を放射する妨害ミサイルによってAAMー9Xサイドワインダーを封じられたF―35とFー15を退避させて山形上空で空中給油を終えたF―2と合流させた時、レーダー画面から日本海上の日本とロシアの航跡が消滅する異常事態が発生した。ロシア軍は航空自衛隊の2個飛行隊の空対空ミサイルの先制的一斉発射を受けて退避行動を取り、同時に航空自衛隊と同数の戦闘機がエンジンの噴射焔と同程度に高温のフレアを大量に放射する妨害ミサイルを発射した。これに幻惑されたAAMー9Xサイドワインダーの全弾が外れると空対空ミサイルを搭載している戦闘機が前に出た編隊を組み直して艦隊の上空を固めていた。その探知情報が消滅したのだ。
「ロシア軍がシベリアから空対地ミサイルを発射しました。小松基地、Yビーム(経ヶ岬のコールサイン=仮称)、マーケット(市場・輪島の同前)、タブ(たらい・佐渡の同前)に着弾しました。超高速度ミサイルのようです」「キルジョイか・・・」モニター・スクリーンの映像では数分前にバイカル湖の北岸方向、おそらくベラヤ基地から発進してシベリアを飛行してくる数機の航跡を捕捉したばかりだった。その航跡が超高速度を意味する演習のシュミレーションでも見ない長さのミサイルを発射したのをスクリーンの映像で見ていた司令官は重い口調で呟いた。ロシア軍のKhー47M2キンジャールはNATOではASー24キルジョイと呼んでいる超高速度空対地ミサイルだ。2022年のウクライナ侵攻で地下壕を破壊するために使用されてレーダーで捕捉していたNATO軍はマッハ10以上、射程距離2000キロ程度と発表した。搭載する航空機はミグ25を改修したミグ31とツボレフ22バックファイヤでロシア西部と南部でこの機種を運用している基地にのみ配備されているとされていた。射程距離2000キロであれば日本海に出なくてもシベリアからで十分届き、マッハ10の超高速度ではイージス艦でも対処できない。一方、ロシア極東軍の戦闘機はスホーイが中心でミグは1976年9月6日の函館空港へのミグ25亡命事件でビクトル・ベレンコ中尉が発進したチュクエフカ基地だけと見られているので現実の脅威とは考えていなかった。両者は設計思想が異なるため部品などの互換性に欠けるので基地ごとにシリーズ化するらしい。
「これで日本海側は航跡情報の空白状態になります」「AWACSを新潟方面に指向する。アグレッサーを護衛に付けてくれ」中部航空方面隊の防衛部長が司令官に戦況を説明した時、総隊指揮所から連絡が入った。航空自衛隊はボーイング767を改造したAWACSを4機保有していて3個レーダーサイトを破壊された北部航空方面隊と地理的な理由で作戦空域に探知距離を確保できない南西航空方面隊に配置しているが、新たに1機を中部航空方面隊に配置することになった。しかし、ロシア軍の艦対空ミサイルに撃墜されれば後がないので日本海上に出すことは控えるようだ。陸上自衛隊は帝国陸軍が日本の国土の特性を考慮することなく大陸で戦うヨーロッパ式の正規軍を模倣した兵科を踏襲しているが人員・装備共に数量不足で正規軍の縮小版に過ぎない。同様に航空自衛隊も実戦の消耗には耐えられないのだ。
「佐渡に脱出のヘリを飛ばす。新潟上空のアグレッサーにはそちらも護衛させろ」「ラージャ」総隊指揮所からの追加の指示に中部航空方面司令部の防衛部長が応えた。佐渡島分屯基地の人員の撤収はロシア軍の新潟上陸が現実の問題として研究が始まった時からの既定の対応だ。これまでに地対地ミサイルで破壊された海栗島や稚内、根室のレーダー・サイトと今回の超高速空対地ミサイルの威力と損害にどの程度の違いがあるのか不明だが、標高1042メートルの妙見山の山頂にあるレーダー地区と中腹の510メートルの両尾山の庁舎地区が同時に破壊された可能性は低い。それでも警戒管制通信網が不通になっているのでレーダーだけでなく峰続きの無線アンテナも破壊されたと考えるべきだ。防衛回線の電話まで不通になっている理由は判らない。
「ロシア艦隊がADIZを超えました」「小松基地の4高群から連絡、展開している4高群は人員、装備異常なし。発射可能です」「ラージャ、AAMを持っているロシア機はPAC2で落とそう」「警戒管制の情報なしの単独戦闘か・・・」溺れていて差し出された藁のような連絡に防衛部長は意外な戦術を示したが高射幹部の運用幕僚は不安そうに呟いた。AWACSと接続を終えたモニター画面には先ほどと同じようにロシア軍と航空自衛隊の編隊の航跡が映るようになっているが、高射群のECS(射撃管制装置)がどこまで同期できるかが不安なようだ。
航空自衛隊の高射群のペトリオットやPAC2、PAC3はアメリカ軍では陸軍が保有・運用している野戦用なので警戒管制からの広域情報や指揮・統制を受けることなく単独で防空戦闘を実施する。その点、日本ではナイキJの時代には防空体制に組み込まれて戦闘機の緊急発進が間に合わない時に発射する実戦待機をしていたため(現在は訓練としての待機)警戒管制との一体運用が沁み込んでいて訓練や演習でも単独で戦闘する状況は経験していない。
  1. 2023/04/05(水) 16:13:25|
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