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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ450

「本日の閣議は総理のたっての意向で陛下にもオンラインで御臨席を仰ぎました」翌日の閣議は石田首相の熱望=命令を実現して皇居とオンラインで結んだ御前会議になった。当然、天皇の閣議への参加は徹底的に隠蔽している。流石に宮殿内での閣議は宮内庁が拒否し、釜田防衛大臣が提案し、立野官房長官も同調した防衛省の中央指揮所もロシア軍の主力の侵攻への対処を指揮する中枢機関に余計な負担をかけることに気づいて撤回した。
「今朝、ロシア軍の主力艦隊が日本海を南東方向に進行していてその上空を100機以上の戦闘機の大編隊が護衛しています。これに対して防衛省、自衛隊は4個飛行隊の約100機で迎撃しましたが先制攻撃は回避されました」今回の閣議では立野官房長官がスクリーンの天皇に戦状を説明することから始まった。すると天皇が顔をしかめた。
「陛下、何か疑問でも・・・この閣議は外部には秘匿されていますからご心配なくお質(ただ)し下さい」自分の説明が宸襟(しんきん=天皇の心象)を悩ましたと惧れ慄いた立野官房長官に視線で促された石田首相が天皇の映像に声をかけた。
「それでは1つ、我が国は日本国憲法第9条2項で国の交戦権は認められていないと思うのですが自衛隊は該当しないんですか」平成の天皇は「日本国憲法を守り」が口癖で、中学時代に占領軍が派遣したアメリカ人女性の家庭教師から「反日的反戦平和」の洗脳教育を受けたので戦前の日本を戦争犯罪国と決めつけて海外には謝罪、戦没者と遺族には戦争の犠牲者として同情の意を表していた。そのため護憲政党を自称するようになっている日本共産党が「象徴」として絶大な支持を公言していたのだ。今の天皇も即位した時には父親の事績を継承すると宣言しているので共産党好みの護憲派なのかも知れない。
「陛下の仰せ(おおせ)の通り私も憲法第9条で放棄している国権の発動たる戦争を避けて防衛出動を発令していません。武力の行使も正当防衛や緊急避難に限定させています」保守派にとっては最強の援軍を得た石田首相は妙に熱弁を奮い始めた。石田首相が師と仰ぐ宮谷喜市首相は湾岸戦争後のペルシャ湾の機雷除去任務を終えて帰国した海上自衛隊の掃海隊を出迎える式典で行進曲「軍艦」の演奏を禁止した。そのためアメリカ海軍の音楽隊が代わって演奏した。そんな宮谷首相は石田首相と同じ広島県人なのだ。
「それでは陛下は今、現実に起こっている中国とロシアの侵略に対して我々にどうしろとお考えなのでしょうか」自民党でも国家神道の復活を画策する宗教的政治団体の支持を受けている議員は天皇を国家元首の現人神(あらひとがみ)として仰ぎ奉らなければならないが、そうではない議員にとっては単なる「象徴」に過ぎず、質問するにも惧れ畏まる必要はない。そんな数少ない閣僚が極めて率直な質問を投げかけると天皇は表情を変えることなく答えた。
「私は昭和58年から2年間イギリスに留学しました。そこで前年のフォークランド紛争にヘリコプター・パイロットとして参戦されたアンドルー王子から体験談を聞くことができたのです。王子は王室のために生命を賭けて任務を遂行したことを誇りにされていましたが、人と人が殺し合う戦争の是非については考えておられないようでした。私は祖父が立憲君主の立場を守って政府が上奏した開戦を阻止できなかったことを後悔されていたのを知っています。我が国は戦争に敗れてもそれ以前よりも発展を遂げた歴史を有しています。あれは奇跡ではなく国民の努力の結果でしょう。ならばもう一度同じことを願っても良いのではないですか」「つまり戦争には反対だと言うことですね」石田首相の確認に天皇は表情を変えずに黙っていた。宮殿のモニターには石田首相の「我が意を得たり」と言わんばかりの顔が映っているので政治的に利用される危険を察知したのだろう。
「ロシア軍の編隊が海上自衛隊の護衛艦の対空誘導弾の射程に入りました。発射します。目標、編隊前部の戦闘機」その時、今日もモニターで参加している釜田防衛大臣の画面から市ヶ谷地区の中央指揮所が接続している自衛艦隊司令部の音声が流れた。
「ロシア軍機4機撃墜」「次弾発射」「4機撃墜」「次弾発射」「4機撃墜」「次弾発射」・・・「これでAAMを搭載した戦闘機は除去できたと思います」「Fー2、アタック(攻撃)」「ラージャ」日本海で活動している4隻の通常型護衛艦が中距離戦闘用の艦対空ミサイルを1艦1発ずつ4回連続発射した。したがって全弾命中すれば16機を撃墜したことになり、AAMミサイルを搭載した戦闘機は除去できたと見て間違いないだろう。ここで護衛のFー35とFー15が機関砲での空中戦を挑みかかり、空対艦ミサイルを搭載したFー2が突入した。
ここでコンピューター専門の職員が宮殿のモニターにも市ヶ谷地区からの戦闘映像を接続すると天皇が顔を強張らせて注視しているのが映った。額には汗がにじんでいる。間もなく横から現れた宮内庁長官が退席を勧め、画面に向かって「ここまでだ」と怒りを露わにした。
  1. 2023/04/06(木) 15:51:03|
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