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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ453

「築城はFー2の武装を対空ミサイルから対地ミサイルと爆弾に転換中です。韓国軍の動向が不明なので全機と言う訳にはいきません」「AAMを搭載しているFー2に護衛させれば良いだろう」「そうですね」閣議室ではモニター画面に映っている防衛省中央指揮所の統合幕僚長と陸海空幕僚長、陸上総隊、自衛艦隊、航空総隊の幕僚長のやり取りを視聴していた。
「折角、ロシアの艦砲射撃を免れたんだ。柏崎を爆撃してはいかん」「上陸中の敵を攻撃するのは軍事の常識です。橋頭堡を確保されてからでは手遅れになります」唐突に石田首相が口を挟んだ。中央指揮所のスクリーンには閣議室の全景が映っているため一番奥の席の石田首相の表情は不鮮明でスピーカーから声だけが聞えた。ロシア軍は揚陸艦を接岸に先立って柏崎市と上越市に護衛の巡洋艦が艦対地ミサイルと艦砲による攻撃を加えてきた。それはアメリカ軍ほど徹底的な制圧ではなかったが上越市の火力発電所が破壊された。一方、柏崎市の原子力発電所は上陸部隊の活動に支障が出るためなのか攻撃から外れていた。
「帝国陸軍は海岸線に砲列を並べて上陸を阻止しようとして艦砲射撃で全滅しましたが、掘将補の作戦指導を受けたペリリュー島や硫黄島では上陸中に猛攻を加えて多大な損傷を与えています。幸い新潟は県民の大半が避難したため無人になった地域に部隊を配置できています。東特2大(東部方面特科連隊第2大隊)も柏崎市郊外で攻撃準備を整えています」石田首相の発言が命令になる前に陸上総隊の幕僚長が軍事常識を解説した。しかし、「帝国陸軍に掘栄三陸将補が作戦指導した」と言われても素人には難しいかも知れない。掘陸将補は戦時中、大本営陸軍部の情報を担当する第2部で勤務していてアメリカ軍の作戦の基本原則や指揮官の思考方法などを分析・体系化した読本「敵軍戦法早わかり」を出版して配布した。それを熟読した中堅士官たちは実戦でのアメリカ軍の戦術を見事に言い当てているため「マックアーサーの参謀として本人が作戦を立案しているに違いない」と感嘆した。それでも沖縄戦では掘中佐の作戦指導を実践していた第32軍の八原博通作戦参謀の持久戦術を大本営が消極的と批判し、同様の不満を抱いていた長勇参謀長が無謀な攻勢への転換を強制したため貴重な戦力を消耗した。掘陸将補は敗戦後には自衛隊に入隊して情報機関を指導している。
「陸上の火砲と航空のミサイル、爆弾では誤爆の危険性はどっちが高いんだ」ここで画面の中で釜田防衛大臣が質問した。こちらの画面は釜田防衛大臣の顔と指揮所の全景、戦況の表示が並んでいるので表情も判るが、妙にお気楽で興味本位な質問に見える。
「火砲は観測所で着弾点を修正することで命中精度を確保します。したがって初弾必中と言う訳には行きません。勿論、計算と経験値でも近距離に着弾させるだけの練度は有しています」「しかし、2大隊は宇都宮の元12特(第12特科連隊)だろう。富士特科教導隊と同格とは言えないんじゃあないか」陸上総隊の幕僚長の説明に統合幕僚長が現実を指摘した。東部方面特科連隊は軍縮ブームの中で部隊の実情を見直した結果、バブル狂乱景気による募集難で充足率が極めて低く連隊の規模を維持できていないことが判明して2001年に第1師団と第12師団の特科連隊が特科隊に縮小された。さらに2023年に統合されて北富士駐屯地に本部と第1大隊を置き、2大隊は宇都宮駐屯地に残した変則的な特科連隊になっている。この机上の帳尻合わせによる変則的な組織編成は陸空が受けた損傷のようなものだ。その点、海上自衛隊は艦橋だけを別にすることはできないので自衛艦隊司令部が旗艦から横須賀基地の陸の上に移動したくらいだ。その司令部の表札は海軍兵学校が勝海舟の筆跡を組み合わせて作ったように東郷平八郎元帥の筆跡を画像処理している。
「空対地ミサイルは空対艦ミサイルのASMー3の転用です。したがって精密なデーターで誘導しますから停止目標への命中精度はメートル単位でしょう。ただし、護衛の艦隊と上陸部隊からの対空攻撃があると操縦が不安定になり、しかも電子的妨害を加えられると誤誘導する可能性は否定できません。爆弾についても上陸地点と刈羽原発の距離くらいはFー2なら瞬間の移動距離ですから敵の攻撃を回避しながらの投下では命中は保証できません」「やはり危険だ。若狭湾の二の舞を踏むことはできない」陸上総隊と航空総隊の幕僚長の意外に弱気な説明に石田首相は妙に強気になって作戦に制限を加えた。こうしている間にも揚陸艦からは戦車と人員が上陸し、本州の中央部まで退避したAWACSの航跡情報では日本海上でロシア軍の戦闘機の編隊がすれ違って新手の航空戦力が投入されるようだ。迎え討つ航空自衛隊は生き残ったFー35を百里基地、Fー15を浜松基地に着陸させたが、浜松基地では岐阜基地の第2補給処から輸送機で届いたばかりの弾薬とミサイルを練習機の整備員たちが第1術科学校の武器弾薬課程の教官の指導を受けながら戦闘機に搭載している。戦闘航空団であればアーマメント・ヘルパー(武器補助員)の教育を受けているがTー4練習機には武装がない。
  1. 2023/04/09(日) 14:50:16|
  2. 夜の連続小説9
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