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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ456

「随分と装甲車が多いですね」観測員は退避する前にロシア軍が揚陸している装備を確認することにした。柏崎市には空海自衛隊の空からの攻撃を掻い潜った大型の揚陸艦4隻が着岸しているが全長112メートル、内部甲板の床面積650平方メートルのロプーチャ級なので相当数の兵器が海岸に並んでいる。それを見た陸曹は呆れたように呟いた。
「ソ連軍はアフガニスタンのゲリラ戦で甚大な損害を受けたから歩兵も移動は装甲車に乗せることにしたんだ。だから装甲車の両数で上陸した歩兵の人数も計算できる。1両あたり7名のはずだぞ」観測員が富士学校と訓練教範・演習対抗部隊甲で仕入れた知識を説明すると陸曹は何かを考えながらうなずいた。日本ではマスコミ各社が視聴者=国民に宗主国の悪事を知らせないため1979年12月24日にソビエト連邦軍がアフガニスタンへ侵攻したニュースはクリスマスと新年の特番で隠蔽して大きくは報道しないで、むしろアメリカに同調して翌年のモスクワ・オリンピックをボイコットしたことを批判していた。そのため若くはない陸曹もアフガニスタンと言えばアメリカの2代目ブッシュ政権が犯した2001年の対イスラム戦争での侵攻になる。どちらもゲリラ戦に敗退しているが。
「自走砲もかなり陸揚げしてますよ」「あれも砲手が狙撃で殺られてしまうから装甲化してるんだ。それに戦車に随伴して攻撃地点を砲撃する目的もある」この補足説明は富士学校で習ったが、特科教導隊で99式自走榴弾砲を保有しているのは3中隊だけで1、2中隊は通常のFH70・155ミリ榴弾砲、4中隊はトラックに搭載した19式車載自走155ミリ榴弾砲、5中隊は多連装ロケット・MLRS、6中隊は88式と12式地対艦誘導弾なので「戦車に随伴して」と言う教官の解説を実際に見て納得するには数が不足していた。
「航空自衛隊は対地攻撃しないんですかね。このままでは柏崎市を占領されてしまいますよ。原発を人質を取られるようなものでしょう」「確かにウクライナの二の舞だな。おそらく航空自衛隊は昨日、日本海でロシアの艦隊を攻撃した時に大損害を被ったんだ。海上自衛隊も同様だろう。ロシア軍は北海道にも侵攻してるらしいからそちらに対処してるのかも知れん」観測員の説明にラジオでニュースを聴いていた陸曹もうなずいた。通信衛星が破壊されてスマートホンは視聴できなくなったがラジオなら受信できるのだ。実際、昨日の空中戦では日露双方の戦闘機が大損害を出したが救助に向かった航空救難隊の捜索機も撃墜されたため海上自衛隊の護衛艦と海上保安庁の巡視船が赤十字旗を掲げて捜索と救助に当たった。戦争法=戦時国際法には空戦法がないため人道的救命活動を攻撃対象にしても違法ではないが、海上を航行する艦船と海面に着水したパイロットには海戦法が適用されるのでこのような対応になったようだ。そのため日本側には多数のロシア軍捕虜が発生していた。
「ウチの対戦車ヘリは木更津だけでしたっけ」「うん、東方(東部方面隊)は4対戦車ヘリ隊の8機だけだよ」「8機かァ・・・昔、戦車を買う予算でAHー1を買えって意見がありましたよね」眼下にロシア軍の強力な兵器が勢揃いしているのを眺めながらも2人の会話は雑談になってきた。日本のマスコミの戦争報道では戦車が走り、火砲や銃を発射する場面と破壊された街の情景だけで砲弾が爆発し、銃弾が飛んできて人命が奪われる瞬間や血塗れになった遺骸は視聴者に心的外傷後ストレス障害を与えると自主規制されて目にすることがない。そのため自衛官でも恐怖を実感できないのかも知れない。その点、昭和の時代のベトナム戦争の報道写真は正視できないほど残酷だったが、組合員の教師は反戦平和教育として小学生にも見せていた。それで何人が心的外傷後ストレス障害を発症したのだろうか。
「AHー1は1機40億円で90式戦車は8億円だから5両で1機買えるな。問題は戦車の大特(大型特殊免許)とヘリコプターの航空操縦免許じゃあ要員の確保が比べ物にならないだろう。それに・・・」非常に判り易い説明を区切って観測員は立てた腕を伸ばして人差し指で海岸を示した。そこには移動を始めた戦車や自走榴弾砲、装甲車とは違う車体の上部に兵器を搭載したキャタピラ式の装甲車があった。
「あれは自走対空砲のパーンツィリSー2だ。あれも戦車に随伴するんだ。アフガニスタンではゲリラ側はヘリを持っていなかったが、歩兵が身体を露出することを徹底的に解消するために作った装備だ。火器管制装置と対空ミサイルが12基も載っているから下手に近づくとAH―1の8機くらいは一瞬で全滅だぞ」これでロシア軍が揚陸した兵器の種類と数は確認できた。やはり戦車を主力として自衛隊を制圧しながら占領地域を拡大していく戦術のようだ。柏崎市にある刈羽原原子力発電所は県民の疎開=避難によって電力需要が低下したのに合わせて発電を停止して職員は退避しているが、核燃料は原子炉内に残置している。ロシア軍が多くの装甲車両を揚陸したのが放射能に対する防護も目的だとすれば危険極まりない。
  1. 2023/04/12(水) 15:08:17|
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