fc2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ467

「コイツは俺が射ったんだよな」北海道規格の馬鈴薯畑1つ分、約100メートルの境界線の土手に潜伏していた2小隊は横一線に広がった隊形を維持したまま銃を構えて前進を始めた。すると迫撃砲の砲撃が始まって逃げようとして射殺された若いロシア兵たちの遺骸が前のめりに横たわっていた。至近距離からの命中弾なので迷彩服の背中には貫通した穴が開き、噴き出した血で赤く染まっている。この位置に穴が開いていると言うことは胸部に命中させたことになり射撃検定では中央の最高得点を獲得できるが喜ぶ気分にはならなかった。
「背中に破片を浴びてちゃあ助からないな」「81ミリでもこんなに威力があるんだな」少し近づくと今度は背中に爆発した迫撃砲弾の無数の破片が刺さった穴が開いた兵士の遺骸になった。こちらの背中は火焔で焦げて血の色は判らなかった。
「生存者はいないか」「1名、息があります」「こっちにも1人、意識もあります」「よし、鈴木士長は残って監視しろ」「逃走すれば発砲しても良いですか」「それは無理だろう」分隊長の1曹は先に報告した陸士長に指示を与えたが確認には別の3曹が答えた。それでも分隊長は「許す」と答えて分隊を前進させた。
「酷ェなァ、人間の形をしてないぞ」辿りついた国道272号線のアスファルトで舗装された路面にはL16・81ミリ迫撃砲の砲弾が直撃して抉れた爆発孔と衝撃で浮き上った割れ目、ヒビが広がっていた。その爆発孔の周囲には千切れた手足が飛び散り、腹が裂けて内臓がはみ出した胴体が散乱していた。滴り落ちた血が路面のヒビに沁み込んでいる。それでも2小隊の隊員たちはここまでに逃げながら射殺された兵士に始まり、転がっている首など次第に凄惨になっていく遺骸を見て来たので意外に冷静だった。ただ硝煙と加熱された血が入り混じった地獄の底から漂ってくるような臭気には吐き気を催してしまう。
「200名位いただろう。全滅したのかな」「隊列は前後1メートルとすれば単純計算で200メートルになる。2基の迫撃砲で両側から攻撃したから中央付近の兵隊は逃げられたはずだ」その200メートの幅に広がって散乱している遺骸を踏まないように捜索している隊員を指揮している陸曹2人が声をかけ合った。
「手榴弾だ」「こっちもだ」「こっちにも」「その場に伏せーッ」その時、対向2車線の道路を横切りかけた数人の隊員が叫び声を上げ、分隊長が条件反射的に号令をかけた。その声を聞いて隊員たちも条件反射的にその場に伏せた。この動作の早さは目にした外国軍を驚かせているが何名かは4秒の爆発までに間に合わなかった。ロシア軍のPGD5手榴弾の改良型の信管は0秒から13秒まで作動時間を調整できるが、これが3・2秒から4秒の固定式の標準型なのかは判らない。ちなみに0秒でセットするのはブービー・トラップとして使用する場合だ。
バーン、報告して伏せた隊員のすぐ脇でレモン大の手榴弾が爆発した。手榴弾は地面で爆発すると空気圧が上方に流れるため破片は緩やかな弧を描いて飛散する。したがって至近距離で爆発すればかえって伏せている兵士は助かる可能性がある。その一方で日本軍では戦友に被害を広げないため上に蔽いかぶさって伏せた美談が教育されたためそれを実践する兵士が続出した。今回の隊員たちはそんな昔話は聞いていなかったので基本動作通りに左脇から半身になって横たわり、両足を開きながら伏せる前に足元に投げ込まれた手榴弾が爆発した。
「ギャーッ」「グォーッ」「ギェーッ」伏せ遅れて破片を浴びてしまった隊員たちは絶叫した。ロシア軍のPGD5手榴弾は1954年にソビエト連邦軍が採用した旧式だが言い換えればロングセラーになる。その理由は1発の価格が5アメリカ・ドルと極めて安価なことにある。それでも爆発すれば350個の破片に分裂して25メートル以内であれば致命傷を与えられるので費用対効果は十分なのだ。報告した隊員も上になっていた右足の膝から先が吹き飛ばされていた。伏せ遅れたのは周囲の隊員が伏せたのを確認していた陸曹が多かった。
パパパパパ・・・、そこに道路脇から銃撃が始まった。銃弾は損害を受けた分隊に両脇から駆け寄っていた隊員たちに浴びせられた。一度は降伏したロシア兵たちは2小隊からの銃撃に続いて迫撃砲弾の着弾が始まった時に反対側の道路脇の段差に退避して反撃の機会を伺っていたらしい。ロシア兵は鬱憤晴らしのように連射で銃撃してくるが2小隊としては兵士が士官を射殺した光景を見ていなかった隊員が発砲と判断して応射したのだった。
パン、パン、パン・・・、すると今度は100メートルほど離れた木立の中で閃光が点滅し、1秒おかずに銃弾が道路脇のコンクリート製の段差に当たり始めた。それは1小隊だった。1小隊は路上の2小隊に損害を与えないように精密照準による単射で発砲している。身を乗り出して路上に弾丸をばら撒いていたロシア兵は1小隊の存在に気づく以前に予想もしていなかったようで応戦もせずに小銃を放り出して両手を上げた。
  1. 2023/04/23(日) 15:11:58|
  2. 夜の連続小説9
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<続・振り向けばイエスタディ468 | ホーム | 続・振り向けばイエスタディ466>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/8374-b10362b2
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)