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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ473

「今日は01式の弾体を40発だそうです」「今回は10師団からかァ。新発田の30普連(第30普通科連隊)まで届けてもらいたいものだな」「流石に戦場に配達にいく勇気はありませんよ」群馬県と新潟県の県境の湯沢町に配置されている安川和也1尉は運送業者や宅配便の運転手の有志の勇士たちが大型トラックで運んでくる食料や消耗品、武器と弾薬を受けつけ、自衛隊の車両で滝ヶ原駐屯地から魚沼市と南魚沼市内に展開している富士普通科教導連隊に届けていた。新発田市内の第30普通科連隊は郡山市と会津若松市経由で補給を受けているが、山岳地帯の出口が新潟市になるためロシア軍の監視が厳しく武器・弾薬だけでなく食料や医薬品も欠乏しつつあるらしい。この中継所では当初は同じ東部方面隊の1師団で首都圏の治安の維持に当たっている各部隊が中心だったが、最近は名古屋地域の第10師団になっている。第10師団でも金沢駐屯地の第14普通科連隊や三重県の久居駐屯地から北陸に移動した第33普通科連隊は高田駐屯地の第2普通科連隊に供与しているかも知れないが、富山県と新潟県の県境には古くからの交通の難所・親不知の海岸があるので陸路の輸送は難しいはずだ。
「これって対戦車ミサイルですよね。昔の戦争映画でバズーカ砲ってロケット弾を見たことがありますけど違うんですか」「あれは先祖なんだよ。今はかなり発達してるぞ」若い運転手は軍事物資を運搬すれば戦争法の文民保護の権利を失うことを承知した上で母国を防衛する自衛隊に協力することを志願しただけに戦争に関する勉強にも励んでいるらしい。
バズーカ砲が登場する戦争映画となると第2次世界大戦のヨーロッパ戦線(日本軍の戦車の装甲は重機関銃でも貫通した)や朝鮮戦争、ベトナム戦争が舞台の作品になるが、朝鮮戦争の映画は余りないのでおそらくベトナム戦争だろう。バズーカ砲は日本の真珠湾攻撃を口実にして第2次世界大戦に参戦したアメリカが北アフリカ戦線でナチス・ドイツの戦車の脅威に直面し、1942年に開発に着手した対戦車兵器だ。その最大の特徴は弾体に推進薬を搭載させたため砲身に火薬の爆発に耐える強度が不要になり、重量6キロと小銃並みの軽量にできたことだ。また一般的な対戦車砲が砲弾の衝突と炸裂で戦車の装甲を貫通していたのに対してバズーカ砲では弾頭内の炸薬を逆円錐形に凹ませることで発火熱量を一点に集中させるモンロー効果を採用していることも画期的だった。ただし、初速が遅く直進性が低い射ち放しの上、有効射程が150ヤード=137・16メートルと極めて短く、戦車に随伴している歩兵によって射手が危険に晒されることが欠点だった。そのため第4次中東戦争でエジプト軍がソビエト連邦製で射程3キロのATー3対戦車ミサイルでイスラエル軍の戦車部隊を撃破して以降は東西両陣営で精密誘導式の対戦車ミサイルの開発合戦が始まって現在も続いている。
「安全運転でクロネコ佐川のペリカン便に行ってこい」「40発あれば1個歩兵連隊を壊滅できるでしょう。装甲車から逃げ出せば小銃で狙い射ちですわ」日没後、安川1尉は宿営地で今日の運搬車両を見送った。安川1尉はこの山岳レンジャー部隊の指揮官なので配達は陸曹2名に任せることになる。有志の勇士たちが躊躇する戦場を一目で軍用車両と判る自衛隊のトラックで配達するのだから当然、夜間に無灯火で走行しなければならない。それでも暗視眼鏡を装着していれば視界は前照灯よりもかなり広く、野性動物が平気で前を横切ることを除けば安全性は十分に確保できる。仮に敵の監視要員が配置されていても街灯が消えた暗闇の道路を黒い車体が移動しているのはエンジン音以外に察知する術はない。
「語り継ぐ人もなく 吹きすさぶ風の中へ 紛れ散らばる星の名は 忘れられても ヘッドライト・テイルライト 旅はまだ終わらない・・・」安川1尉に敬礼して運転席に乗り込んだ陸曹は暗視眼鏡を装着すると助手席の若い陸曹に「行くぞ」と声をかけて鼻歌を唄いながら車両を出発させた。この歌は国営放送の「プロジェクトX・挑戦者たち」の中島みゆきの主題歌「地上の星」のB面「ヘッドライト・テイルライト」でエンディング・テーマだった。無灯火で走行するには不似合いだが気分は理解できる。過去にも新発田への運搬車両がロシア軍の攻撃を受けて運転手と助手が戦死した。JR東日本の有志の勇士の運転手は避難者を運ぶために上越新幹線を運行していたがロシア軍の弾道ミサイルが新潟駅に着弾したのに巻き込まれて死亡した。JR北海道でも日本人工作員が破壊した線路で列車が事故を起こして運転手と避難者多数が死亡している。そのためJR北海道の有志の勇士が申し入れていた前線への補給物資の運搬列車の運行は中止になってしまった。一方、陸空自衛隊の輸送ヘリコプターもロシア軍の携帯式地対空ミサイルで半数が撃墜されて離島防衛用として西部方面隊に集中配備されている。
「・・・称える歌は 英雄のために過ぎても ヘッドライト・テイルライト 旅はまだ終わらない・・・」宿営地を出たトラックが幹線道路に出る前に一時停止して点灯した赤色灯を見て安川1尉も続きを口ずさんでみた。確かに胸に染み入ってくる。
  1. 2023/04/29(土) 15:18:44|
  2. 夜の連続小説9
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