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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ475

「2発目、目標右から3両目、発射準備完了」ロシア軍が宿営地にしているらしい公共施設には灯りが点き、出入口から小銃を持った兵士たちが駈け出してきた。すると数名が指揮官の「誘爆を回避せよ」と言う命令を受けたようで爆発を繰り返している2S35コアリツ自走152ミリ榴弾砲の周囲の車両に乗り込んだ。次弾はその自走榴弾砲の1両を狙っている。
「射撃用意」「射撃用意」「撃て」「撃て」プシューッ。今度も先任の陸曹の射撃命令を受けて射手になった陸曹が発射機を操作すると射ち空になっていた発射筒に先任の陸曹が装填してきた予備弾がガスと炎を噴出して水田の上にほぼ同じ弾道を描いて飛んでいった。しかし、ロシア兵たちは炎上しながら爆発を続ける自走榴弾砲に気を取られて何も反応しない。
ズーン、ズバーン。2発目も自走榴弾砲の巨大な回旋式砲塔に命中した。弾体は砲塔内で爆発して上部ハッチを吹き飛ばして炎が噴き上がった。先ほど乗り込んだ操縦手はエンジンを始動する間もなく戦死したはずだ。
「2発目だ」「どこから射ったんだ」車内の砲弾の誘爆で砲塔を吹き飛ばされてからも1発1発が爆発を続け、タンクの燃料が炎上し続ける1両目を間近に見ているロシア兵たちは冷静に状況を分析した。その時、爆発音の合間に「ヴォス・タム(あっちだ)」と言う叫び声が聞こえた。最初に発砲してきた警備兵のようだ。
「あっちだ。射て」「車載の機関銃を使え」攻撃している2人はロシア語が理解できないが大声で騒ぎながら発射焔の数が一気に倍増したことで推理はできた。それでも所詮は曳光弾も用いない盲撃ちであって数十丁のAK12小銃を横に連射してきても危険な位置に飛んでくるのは滅多にない。先任者は再び予備弾を小銃のように両手で支えながら第4匍匐で発射筒に向かうと装填して戻ってきた。そこで射手が待ちかねたように声を掛けた。
「残り1発も射ちますか。ロ助もこちらに注意を向けています」「我が社の補給は心細い。逃げるにも使い捨てにはできない。荷物を軽くするためにも撃とう」先任者の返事は言い訳めいている。確かに弾体を使い切れば携帯するのは13キロ弱の発射機と発射筒だけになり、手分けすれば身軽に逃げることできる。2人は他の2組の隊員たちと魚沼市の陣地から柏崎市の郊外まで小型車両で潜入して来ているのでそこまでは徒歩で移動しなければならない。しかし、それ以上に身を危険に晒しても攻撃できる敵は漏らさず撃破する使命感の方が本音だった。同じ普通科教導連隊の陸曹である射手にも異存はなかった。
「射ったら即座に退避する。今度は一番左だ」「銃座の機関銃を向けてる奴ですね。射撃準備よし」射手は照準スコープで炎に照らされた自走榴弾砲の砲塔の上部の銃座の機関銃を後方に向けているロシア兵を確認して発射機を準備した。
「射撃用意」「射撃用意」「射て」「射て」プシュ、パパパパパ・・・。3発目の弾体が発射されるのと同時に目標になっている自走榴弾砲の銃座で発射焔の点滅が始まった。一瞬遅れて空気を引き裂いて飛んでくる多くの銃弾が発射筒の周囲の水田の泥を跳ね上げ、その後、銃声が響いてきた。おそらく自走榴弾砲の銃座に登ったロシア兵は3発目が発射されることを見越して射撃準備を整えていたのだ。その自分に向かって推進焔を吹きながら飛んでくる01式対戦車ミサイルはどのように映るのか。噴出焔の光は弾頭に遮られるのでオレンジ色の光の固まりの中央に実寸直径140ミリの黒い円ができる。おぞらく始めはオレンジ色の光の点だった弾体が自分の正面に迫ってくればそんな光景が目に飛び込んでくるはずだ。されも数秒のことだった。3発目も正確に命中し、同じように装甲を貫通して中で爆発した瞬間に車内にあるロシア兵の腰から下は吹き飛び、開けていたハッチから吹き上がった誘爆した砲弾の火焔が機関銃の握把を掴んでいた上半身も吹き飛ばした。
「発射筒を取ってきます」「あれだけ集中弾を受けたんだ使用不能だろう。お前は発射機を抱えて走れ。俺が後方を警戒する」全弾を射ち尽くした2人は退避を始めた。若い射手が離れた位置に設置してある発射筒を取りに行こうとするのを先任の陸曹が制止した。ロシア軍は3両の自走榴弾砲の爆発によって間に停めてあった自走榴弾砲も走行不能に陥ったが、歩兵用の装甲車は稼働状態にあり、公共施設の駐車場から水田を横切って追跡を始めた。
ギュルルル・・・。「装甲車が田圃の泥濘(ぬかるみ)にハマりましたよ」「小麦畑と水田では耕している深さが違うからな」先を走る射手だった陸曹が異様な音に振り替えると3両の装輪式のBTR80装甲車が水田の中央でタイヤを空回りさせて動けなくなっていた。日本の水田はヨーロッパやアメリカの小麦畑とは比較にならないほど手を掛け尽くしているので大陸の感覚で重い装甲車を乗り入れれば土に沈んでしまうのは当然だ。米どころ新潟の農家の真面目な仕事のおかげで2人は無事に逃げ延びることができた。
  1. 2023/05/01(月) 15:23:27|
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