小庵では亡き妻の魂を宿しているとしか思えなかった聡明で上品な黒猫の音子(ねこ)が愛娘の若緒(にゃお)の後を追うように2020年11月9日に交通事故で急逝してからは個人で野良猫の保護活動をやっている小母さんが捨てに来た寿来(じゅらい)が1匹娘状態になり、それを土間で三食寝床付きで居候している野良爺さんが静かに見守る寂しくも穏やかな猫社会が始まりました。
ところが昨年の灌佛会=4月8日に高齢猫の野良爺さんが急性心不全で死亡すると寿来は避妊手術を受けているため発情期もなく孤独を噛み締めるような風情で毎日、当て所もなく近所をさまよって過ごすようになっていました。それを見かねて近所に住みついていた黒猫の子猫を捕獲して伽羅(きゃら)と名づけて飼うことにしたのですが、餌を与えても全く馴れずやがて寿来が追い出してしまいました。
そんな寂しい生活を送りながら年末を迎えると飼い主の友人が務めるリゾート・ホタルの駐車場に黒猫の子猫が2匹住みついていて「冬を越せそうもないから引き取ってくれ」との依頼を受けて拾って来たのが世果報(ゆがふ)でした。すると世果報は雄だけに自由奔放で箱入り娘になっていた寿来を苛めるようになり、それを恐れた寿来は夕方に餌を食べに帰る以外は戻らない半ば家出状態になってしまいました。おまけに世果報は雌の野良の子猫を連れ込んで野良嬢さん(同居人が沙羅沙と名前をつけた)にしたのです。
こうして大混乱していた小庵の猫社会に更なる火種が舞い込みました。それは4月上旬に雹(ひょう)や霰(あられ)が降る異常な寒波の中、1匹のやせ細ったキジ虎の子猫が「ミャー、ミャー」とか弱く鳴きながらヨロヨロと歩いて来たのです。よく見ると片目に眼球がなく、額と足首には骨が露出しているような小さくても深い傷があり、「どちらにしても長くは生きられない」と思い安楽な死に場所を与えるために保護しました。ところが消化の好い牛乳をかけた餌を与え、傷口に人間用の化膿止めの軟膏を塗って休ませたところ翌朝には生気が戻り、寿来の餌を勝手に食べて部屋の中を歩き回るまで回復しました。その頃は世果報が野良嬢さん=沙羅沙を苛めるようになっていたので心配したのですが、逆に父性本能が芽生えたかのように非常に優しく接しました。
考えてみると暖かくなってからは日中の大半を野良爺さんの墓の横で過ごすようになっているので魂が憑り移ったのかも知れません。そう言えば小庵に来た頃は細身だった世果報が妙に丸くなり、黒い野良爺さんのようになっています。
一方、意外なことに寿来は食事のために帰ってきて子猫を見ると怯えたように逃げ出し、しばらく帰ってきませんでした。その異常な態度を見て寿来には同じキジ虎の兄弟姉妹がいて一緒に保護活動の小母さんの家に引き取られた時、集団苛めに遭ったのではないかと推察しました(音子との初対面の時は極端に攻撃的だった)。
そんな訳で現在は夘月(うづき)と名づけた子猫と世果報はかつての野良爺さんと寿来のような微笑ましい関係になりましたが、寿来は世果報とは互いに無視し合えるようになっていても夘月は相変わらず敬遠して近づこうとしません。

卯月

墓守中の世果報
- 2023/05/02(火) 15:34:09|
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