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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ477

その頃、東京大学卒の陸上幕僚長が統合幕僚長に就任した将官人事の中でモリヤ佳織陸将補が勧奨退官してハワイに移住していた。佳織は退官後、アメリカ国籍を取得するに当たり、オランダのモリヤ元2佐に離婚届を送るように要求し、自分で手続きを終えた。同時にモリヤ元2佐は雲島の淳之介に梢との婚姻届を送り、石垣市役所に代理提出させた。
「本日、日本国陸上自衛隊を退役して新たなハワイ州日系人協会理事に就任したエクス・メジャー・ジェネラル(元陸将補)・カオリ・ノザキがパンチ・ボールの第442戦闘団の墓所に参拝しました。なお、ノザキ元陸将補の祖父も442戦闘団の軍曹としてヨーロッパ戦線に出征して戦死しています」ハワイで予定通り州の日系人協会の理事に就任した佳織はその日のうちにホノルル市郊外の太平洋地域戦没者墓苑・パンチボールの一角にある日系2世部隊・第442戦闘団の墓所に参拝した。第442戦闘団は第2次世界大戦時に創設されて単一部隊としてはアメリカ陸軍史上最多の個人勲章と部隊賞状を受けた。佛教式に拝礼を終えた佳織はハワイのローカル・マスコミだけでなくアメリカ軍のニュース局の記者の囲み取材を受けた。
「ジェネラス・ノザキ、着任おめでとうございます。今のお気持ちは」今日の佳織は母・典子の形見の黒い和装の喪服を着ている。佳織自身としては陸将補の礼装で儀礼刀を提げて参拝したかったのだが、日本では身分を失った退官者の制服着用は軽犯罪法第1条15項の標章等窃用に該当するため避けたのだ。軍暦に絶大な敬意を表するアメリカでは不名誉除隊でない限り儀式などでOB・OGが軍服を着用することは一般的だが、自衛隊に悪意を持つ日本のマスコミが知れば攻撃材料に使われかねない。
「日本国は現在、中国とロシアの侵略を受けています。私は陸上自衛官としてもう一つの母国である日本を防衛するために働かなければなりませんでした。しかし、組織に退役を命ぜられて生まれ育ったハワイ州に帰ることになりました。祖父は442戦闘団の兵士として1943年9月にイタリアのサレルノ海岸に上陸して以来、イタリアに駐留するナチス・ドイツ軍との戦闘からフランス戦線でのブリュイエール解放やテキサス大隊救出作戦に参加して軍曹にまで昇任しました。そして442戦闘団が2943名の兵員のうち193名が戦死、約2000名が負傷したため任務を解かれた後も負傷していなかった祖父はバッファロー・ソールジャー(アフリカ系の部隊)の一員としてイタリアの残敵掃討作戦に従軍し、さらにドイツ戦線のミュンヘン近くにあったダッハウ・ユダヤ人強制収容所を解放する戦闘で戦死したのです。父のヤスト・ノザキ中佐はこの日系人の魂を受け継いでアメリカ空軍のパイロットとして国家のために任務を遂行し、弟のマサト・ノザキ少尉は戦闘機パイロットとしての訓練中に殉職しました。娘も現在、アメリカ海軍の対潜哨戒機のパイロットとして日本への侵略に対処しています。私はユニホーム(制服)を脱いでも日系人の魂を胸に宿して2つの母国のために身命を賭する覚悟をしています」佳織は元将官に相応しい堂々たる熱弁を揮った。すると海兵隊曹長の軍服を着た記者が握ったマイクを並んだマイクから1本だけ突き出すようにして質問した。日本の囲み取材のようにスマートホンでないところが画面構成として適切だ。
「ホワイトハウスはいまだに日米安全保障条約を発動していませんがこれについてどう思われますか」アメリカ軍が東海岸からアラスカやハワイ、グアムまでの全米各地で勤務する軍人や家族向けに放送しているニュース番組は海外駐留部隊向けのAFNを通じて世界中に配信される。中でもペンタゴン=国防総省では間違いなく見るはずだ。
「日系人たちはアメリカ合衆国を第2の母国としてアメリカ人社会に同化するように努め、国家の危機には身命を捧げて多大な貢献をしてきました。ところが中国人華僑たちはアメリカ国内にチャイナタウンを作ってそこを北京の出先機関、毛沢東主義を拡散する拠点にしています。そして宇宙開発や核兵器の最先端技術を盗み出してソ連に売り渡す一方で技術者を招聘して自国も核武装し、宇宙空間の支配を着実に進めています。このまま中国とロシアが日本を奪えば自由主義国家の太平洋の防波堤が崩壊し、すでに中国の属国になっている朝鮮半島の統一国家と共に太平洋全域の支配に乗り出すのは間違いありません。先ずはグアム、次はハワイに白と赤のストライプを紅く塗りつぶした旗がたなびく日が来るのです」アメリカ軍の実力を熟知する佳織としてはロシアと中国が軍事的に合体しても太平洋全域の支配権を奪取する危険性は低いと見ているが、現在の日本への軍事支援に消極的な態度を国民に問題提起するためには警鐘を打ち鳴らすしかない。それも教会の鐘ではなく火の見櫓の半鐘の連打だ。
「日本はどうして戦時体制に移行しないのですか」「日本の交戦権を奪った日本国憲法をダグラス・マックアーサー元帥は時限爆弾と言っています」これが異例の新統合幕僚長=前陸上幕僚長への申告だけで退官行事もなく送り出されたノザキ佳織元陸将補の防衛出動だった。
ん5・ノザキ佳織イメージ画像
  1. 2023/05/03(水) 15:25:31|
  2. 夜の連続小説9
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