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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ490

「ニンジンさんがシベリアに幽閉されていたことはニュースで見て心配していましたが・・・」「テレビや新聞は日本人を見捨てて1人だけ脱出したって言っていたけどニンジンさんのことを知っている人たちは何か考えがあるに違いないって信じてましたよ」住職とはオランダに赴任してからは年賀状と暑中見舞いで時候の挨拶程度しか交していなかったので日本で名前を報じられたこのニュースを話題にせざるを得なかった。妻の遠慮のない補足説明については佳織や淳之介から聞いているが、安堵するはずの愛知県からは何も言ってこなかったのでやはり私を非難する声が世間に広まっていたようだ。
「私としてはロシア軍の戦争犯罪を国際刑事裁判所で提訴しようと決意していたんですが、証言以外の物的証拠が入手できないので立件できず断念せざるを得ませんでした」「やはりロシア軍は戦争犯罪を犯していましたか」「はい、正当な理由もなく民間旅客機を強制着陸させて文民である乗客を拘束したこと自体が戦争犯罪ですが、それに加えて奥さんの前では言えないような性犯罪を繰り返していました。それで日本人の客室乗務員が自死してしまったんです」「それって小森希恵って言う人じゃないの。一時期、ネットで情報が拡散していたわ」私の説明に住職の妻が答えた。相変わらず妻はインターネットに励んでいるらしい。住職の妻は檀家に限らず訪ねてくる多くの人たちとの世間話も仕事なので幅広い情報収集が必要なのだ。
「小森さんの恋人はオランダ航空の整備員で貨物として連れ帰った棺の遺骸と対面して号泣するのを見たのは辛かったです」ここでは綺麗事を口にしたが実際の私は検察官として数少ない物的証拠である小森希恵の遺骸を最大限に活用することこそが供養と考えていて腹の中では検屍で複数のロシア兵の体液が採取されて輪姦が成立するのを期待していた。
「それでも残った日本人たちはロシア軍の飛行機に乗せられて全員死んでしまったんです」「私たちは蓮床さんに自衛隊が落とさなければ日本の都市が爆弾で破壊されて兵隊に占領されたって聞いて本質を理解しましたが、マスコミは自衛隊が日本人を殺したって大々的に宣伝していましたよ」その宣伝の記事の冒頭に「国際刑事裁判所の元自衛官の検察官が見捨てた」と断り書きしていたことも佳織と淳之介から聞いているが、佳織は新聞社に抗議したらしい。
「それはオランダでも報じられていましたが流石にロシアの文民を人質にする非人道的行為を批判するだけで自衛隊の防空措置は常識として日本の批判報道に疑問を呈していました」「ウチでも蓮床さんが元自衛隊って知っている檀家さんが『人殺しのお経は有り難くない』って法事を断ってきたから(法然)上人は9歳の時に父の漆間時国が襲撃されて弓を取って戦った。その殺生の大罪を直視して阿弥陀如来の念佛によるお救いにすがる境地に至られたんだと説明して蓮床さんに行かせたんだよ」「大体、蓮床と言う僧名は熊谷次郎直実さんからもらったんでしょう。実に良い僧名だ」「あれは自分で選んだんだ。どうしてもって言い張るから許したけど知らない人には西方浄土の池の蓮の上に眠ると説明しているみたいだね」話は有り難い方向に反れたが梢は私から聞いているので黙って聞いていた。熊谷次郎直実は平家物語の一ノ谷の合戦で平敦盛を討った段で有名だが実際に京都へ戻った時、法然上人を訪ねて教えを受けている。ただし、出家したのは壇ノ浦の戦いから8年後だった。梢に語ってきた出家後の逸話としては法然上人の墓所が比叡山や南都の僧兵に破壊されると遺骸を運び出して火葬したことや美作国の生誕地、京都の初法転輪(初めての説法)の地などの足跡に寺院を建立したこと、高野山に建立された法然上人の墓所を守るように分骨が埋葬されていることなど数多いが、私が好きなのは坂東に帰る時、西方浄土におられる阿弥陀如来に尻を向けることはできないと馬に後ろ向きに乗った言う如何にも坂東武者らしい逸話だ。
「今、新潟にロシア軍が上陸しているでしょう。次は東京に攻めて来るのかしら」「そうなると東京が空襲されて戦時中みたいな焼け野原になるんじゃないかね」住職夫婦は私と同世代で昭和の教育を受けているだけに空襲と言うと東京大空襲や敗戦時の風景写真を思い浮かべるようだ。しかし、アメリカ軍の都市空襲はヨーロッパ各国が第1次世界大戦で多大な戦功を上げた航空部隊を空軍に独立させたのに対して主に地上部隊を参戦させたアメリカでは陸軍航空軍団に留められたため第2次世界大戦で海軍や海兵隊、陸軍地上部隊以上の戦果としてより多くの日本人を殺害する必要があった。そこで戦争法に空軍規則がないことを利用して徹底的な殺戮を繰り広げたのだ。ベトナム戦争でも北爆と呼ばれる都市空襲を行ったが現代戦では精密誘導のミサイル攻撃が中心なので無差別爆撃のイメージは的外れだ。
「ないとは言えませんがロシア軍はウクライナで消耗し切っていますからどの程度の戦力を海を越えて投入できるかでしょう」「確かに蓮床さんも日本海で阻止できるって言ってますね」住職の安堵した顔には「戦時下」と言う現実味は感じなかった。
  1. 2023/05/16(火) 21:40:58|
  2. 夜の連続小説9
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