fc2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ504

セルゲイ道路=国道7号線の市境付近で北朝鮮軍が壊滅状態に陥っているのを確認するように三沢基地のFー2戦闘機が低高度で通過した。ついでにバルカン砲を掃射していけば第30普通科連隊遊撃隊の仕事は終わるのだが、陽動は長引かせる方が効果的な場合もある。
「あれが目標の小学校だな。灯りが見えるから残留している人間がいるらしい」「ラージャ、交戦を覚悟して着陸しよう」Fー2は百里基地を発進したUHー60救難ヘリコプターに現地の状況を伝達した。新潟のロシア軍の自走式地対空ミサイル・9K37は日本海でロシア軍の輸送艦や輸送機を攻撃する海上自衛隊と航空自衛隊にとっても脅威であり、富士普通科教導連隊と第30普通科連隊には戦車以上の優先度で攻撃・破壊が命じられていた。本来であればFー2やAHー1に殺らせれば手っ取り早いのだが、国内メーカーの空対地ミサイルの製造が進まず、アメリカからも届かない中、残弾数を気にしながらでは陸上自衛隊の携帯式対戦車ミサイルに期待するしかなかった。
「携SAMを射ってきた。フレアーを噴射する」「ラージャ」「ドンと出た花火が、綺麗だな」Fー2が低空を維持しながら新潟市内を一周すると各宿営地で銃の発砲焔が点滅しているのが見えた。陸上自衛隊には1度目の通過で退避するように連絡している。すると二周目でそのうちの一箇所から携帯式地対空ミサイルが発射されてオレンジ色の光の線を引き始めた。携帯式地対空ミサイルは初速が遅いため低空飛行で距離が近くても加速するまでの数秒間に対処できる。これも飛行目的だったF-2は入間基地の防空指令所に通知しながら用意していた射出式熱源のフレアをばら撒いて夜空に不思議な花火を咲かせた。パイロットの鼻歌も理解できる。
「携SAMは引っ掛かった」「ラージャ」「シューティング・ポイント(発射地点)特定。ブロー(射撃)する」「ラージャ、どうぞ」兵器指令官の返事を聞くまでもなくパイロットは日本海上空で反転して攻撃を受けた宿営地に戻り、フレアが消えた暗い空から黒い点を2個落とし、今度は地上で爆発の炎を光らせた。流石に陸上自衛隊の無事を確認することはできなかったが。
「あれが目標の小学校だ」「本当に田圃の真ん中なんですね」校庭に着陸するUHー60は側面ドアを開け放ち、機上整備員が銃架に設置した機関銃を構えていた。その奥で救出に向かうメディックの空曹3人が最終確認していた。
「1階で灯りが点いているのは職員室、その隣の面接室にオリビア記者は閉じ込められている」「中央玄関からだと保健室の前の廊下を通過しなければならない。だから窓から突入するんでしたね」「校舎の外壁には耐弾性がないそうだから援護射撃も面接室は外せ」「分かりました」百里救難隊には山形県地方協力本部が県内庄内地区に避難している小学校関係者から聞き出した校舎の間取りと構造が届いていて統合幕僚監部が入手したGPSの位置情報と照合した結果、オリビア・エルトンジョン記者が1階の面接室に監禁されていると特定していた。
「高度2メートル、停止」「了解、行くぞ」「レスキュー」機長が振り返って声をかけるとメディック3人は高度2メートルで停止している機体から飛び降りて校舎に向かってダッシュした。機上整備員は機関銃を向けながら装着している暗視眼鏡で校舎の窓を確認したが職員室の灯かりも消えて人影はなかった。しかし、住宅街が隣接しているので逃げ込まれれば厄介だ。
ガッシャーン、「ウンジキジマダ(朝鮮語の「動くな」)」3人は校舎への段差で拾ったブロックで窓を叩き割って統合幕僚監部から教えられた朝鮮語で声をかけた。メディックも日米協同演習の救難訓練では英語で「フリーズ」と声をかけることがあるが、考えてみれば相手は敵なのだからロシア語や中国語、朝鮮語でなければ実戦の役に立たない。
「ジャパン・ジエータイ・・・」メディックの暗視眼鏡に床で身を起こす全裸の女性が映った。暗視眼鏡では明るい部分は黄緑色、暗い部分は黒の2色画像になるため髪の色は判らないが、統合幕僚監部から届いた顔写真のオリビア・エルトンジョン記者のようだ。この様子では部隊が出動してからも残留した兵士に性行為を強要されていたらしい。それにしても狭い室内には尿と便の悪臭が充満している。この部屋でその気になる北朝鮮軍には呆れを通り越して感心してしまう。
「ケイム・トゥ・ヘルプ・ミー(助けに来てくれたのね)」「はい、イギリスに帰りましょう」エルトンジョン記者は意外にシッカリとした動作で立ち上がると窓際で短機関銃を構える1人と床に伏せて開けたドアから廊下を確認した1人を見てから下半身の下着を差し出しているメディックに呟いた。これから下着と衣類を順番に手渡して身に着けさせる。本来は懐中電灯を点けるべきだが煙草の火を狙って狙撃を受ける危険性は夜間行動で習う教訓の代表なのでここでも控えた。
「ポールも連れて帰って」「ポール・マッキイトニー記者ですか。どこに」「あそこに・・・」廊下と階段に人影がないことを確認して中央玄関から校庭に出ると上昇していたUHー60が今度は着陸した。銃架とは反対側の側面ドアから乗り込んだエルトンジョン記者は懇願するように声をかけた。
エルトンジョン記者が指差した外柵沿いの並木の下には倒れ伏せた男性の遺骸が見えた。
「捨てて行く訳にはいかないな。機長、もう少し待って下さい」「何時ものように頼むよ」「レスキュー」指揮官のメディックは機長の許可を得るとマッキイトニー記者の遺骸に駆け寄って若いメディックに背負わせて戻ってきた。救出作戦は成功した。
  1. 2023/05/30(火) 14:40:11|
  2. 夜の連続小説9
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<5月31日・理解できないが天才なのは判る。ガロアの命日 | ホーム | 5月30日・コスモ・スポーツが発売された。>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/8459-8b5bdf83
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)