6月6日にウクライナ南部のドニエプル川の巨大ダムが破壊されて下流域では大規模な水害が発生していますが日本のマスコミはソビエト連邦時代からの報道姿勢=日本版プラウダ路線を継続しているのか妙にロシア寄りで、「被害を受けているのはロシア軍の支配地域なのでウクライナ軍が破壊した可能性も否定できない」とおそらくロシアと共産党中国以外では見られない論評を展開しています。一方、愛国的=保守系と言われる某民放の報道バラエティー番組では「世界有数の穀倉地帯が打撃を受ければ小麦の価格が上昇して家計を直撃する」と国際問題とは次元が違う指摘で主婦層の不安を煽っていました。
しかし、「今回の決壊はダム内部で起きた爆発が原因」との証言がある以上、常識的に考えてこの地域を占領しているロシア軍が最も疑わしく、ウクライナ軍の反転攻勢が始まったためこれを阻止するべく洪水を起こし、しかも国際連合や人権団体などが救援に入れば武力行使は大幅に制約を受けて「被占領地域の奪還」が不可能になる勝算が高まります。
さらにダムから取水しているザポロジエ原子力発電所の冷却水が滞れば東北地区太平洋沖地震の津波で崩壊した福島第1原子力発電所と同様の事態に陥り、放射能防護衣を着用しなければウクライナ軍も立ち入ることができなくなります。
このような卑劣な軍事行動を国際社会は絶対に許してはなりませんが、残念ながら西側の常任理事国のイギリスには前科があります(協同で軍事行動を取っていたアメリカも共犯)。それはライン川のナチス・ドイツの工業地帯への取水系統を破壊し、併せて下流域を水害で壊滅させることを目的に1943年5月17日に実施したチャスタイズ作戦でした。
イギリス軍は当初、ダム湖に魚雷を投下してダムを破壊する計画でしたがナチス・ドイツ軍は艦船が停泊中に展張する防護ネットを設置していたため断念、続いて10トン爆弾を投下して破壊することを検討しましたが開発中の重爆撃機・ウィンザーでも最大搭載重量は3.63トンだったので却下、そこで採用したのがドラム缶型で地上や水面を跳ねながら直進し、最終跳躍の後に水没して湖底で爆発するバウンシング・ボンブ=跳躍爆弾でした。
作戦はアルプス山脈の雪解けでダムの湖水が増える5月とされ、攻撃目標としてはライン川からルール工業地帯に水を供給しているメーネダム、ゾルぺダムと全長27キロのエーダーゼー貯水湖を作っているエーテルダムが選ばれました。
攻撃はランカスター爆撃機を第1編隊9機、第2編隊5機、予備編隊4機で編成し、ナチス・ドイツ軍のレーダー網を避けるため高度50メートル以下の超低空を飛行しましたが、跳躍爆弾が重い上、固定が不十分なため高射砲に対する回避行動が困難になり出撃した133人中53人が戦死しました。
この攻撃の結果、メーネダムとエーデルダムが決壊して3億3千万トンの水が80キロにわたって氾濫して東部戦線から収監されていたウクライナ軍捕虜を含む1249名が犠牲になり、家畜6500頭が死亡し、3000ヘクタールの農地が耕作不能になりました。前科としてはかなり悪質ですが空戦法が存在しないため戦争犯罪にはなりません。
- 2023/06/11(日) 14:37:34|
- 時事阿呆談
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