fc2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ520

「しかし、使いようによってはアメリカ政府に米日安全保障条約を発動させる口実になるぞ」日米の憲兵士官の間でマーガリン中尉の評価が定まったところで憲兵隊長が思いついたように発言した。通訳はこの政治色を帯びた発言を部外者のエレナに聞かせることは控えたようで警務官の2尉に歩み寄って小声で翻訳した。
「確かに中国とロシアの核攻撃の脅威が迫っているとなれば在日アメリカ軍は反撃能力を保持しなければならない。自衛隊に核兵器を渡せない以上、我がアメリカ軍が介入するしかなくなる」すると次級者の少佐の憲兵士官が補足した。やはり日米安全保障条約に基づいて駐留している在日アメリカ軍の軍人としては盟友である自衛隊が日本国内で侵略軍と戦火を交えているのを傍観していなければならないのは耐え難い苦痛であり、屈辱なのだ。
「問題はこの耳よりな朗報をどのようにワシントンに伝えるかですね」「トウキョー・トゥー(東京にもです)」「そうか、横田にも報告しなければいけないな」警務官の2尉が相槌のように同調すると憲兵隊長は妙なボケをかました。確かに東京の横田基地にある在日アメリカ軍司令部にも報告しなければならないが、警務官の2尉にとっては市ヶ谷の警務隊本部を通じて防衛省、さらに首相官邸を意味していることは明らかだ。これがジョークなのか本気の勘違いなのかは判らない。ジョークであれば笑うのがマナーだが誰も反応しないので勘違いらしい。
「中国とロシアが核弾頭の弾道ミサイルと射ってくるってか」「目標も特定しています。選定基準は在日米軍基地がない大都市、北から札幌、仙台、名古屋、京都、大阪、広島、北九州、熊本・・・」「在日米軍はこれを日米安全保障条約を発動させる理由として利用するつもりらしい」その日の夜、海上自衛隊岩国警務隊から捕虜尋問調書が市ヶ谷基地の警務隊本部に届き、指揮所で目を通した釜田防衛大臣が首相官邸に赴いて立野官房長官と双木外務大臣に見せた。岩国警務隊は電子メールでの調書とは別に電話でアメリカ海兵隊岩国憲兵隊の見解を説明していてそれは各担当者が伝達ゲームしてきた。
「在日アメリカ軍の地上基地には核兵器用の弾薬庫は設置していない。持ち込める核兵器は空母に搭載している艦載機用ミサイルと戦略潜水艦のSLBMくらいだ」「爆撃機に搭載したまま上空待機と言う手もあるぞ」元防衛大臣の双木外務大臣と釜田防衛大臣の対談を立野官房長官は渋い顔で聞いていた。最近の石田首相は条件付き降伏と言う形での停戦を模索していて広島サミットで面識を得たG7以外の新興経済大国の首脳に公邸から個人的に電話をかけて仲介を要望していることを公邸の通信電波を監督している警備担当者から聞いている。そこに「広島が核攻撃の目標に入っている」と知れば無条件降伏を宣言しかねない。それだけでなく宮内庁長官からは天皇もオランダから皇后が送ってきたポール・マッキイトニー記者とオリビア・エルトンジョン記者の記事が載ったブリティッシュ・ライフ紙で破壊された新潟の写真を見て衝撃を受け、「新潟は先祖が眠る特別な土地だ」と早期停戦を求める皇后の訴えに応じて世界各国の王族に仲介を依頼していると報告されていた。つまり在日アメリカ軍にとっては在アメリカ中国系移民=華僑の政治工作によって阻止されている日米安全保障条約の発動を無理やり促す切り札も日本の国内事情では防衛努力を上部から崩壊させる不吉なカードと言われるスペードのエース、ババ抜きならジョーカーになりかねない。
「防衛省・自衛隊としてはそのマーガリン中尉とか言うパイロットの身柄はどうするつもりなのかね」「当初、アメリカ軍は言っていることは虚偽であり、特に軍事情報を持っている様子はないから不法入国者として文民警察に引き渡せと言っていたそうですが、日米安保を発動させる道具に使えるとなれば亡命希望者として在日米軍が引き受けると前言訂正したようです。おそらく同じようにペンタゴンに打診しているんでしょう」立野官房長官の質問に答えた釜田防衛大臣は父親似の悪人顔に複雑な表情を浮かべた。日米安全保障条約が発動されることへの期待と同時に万事アメリカまかせの無力感、政治・軍事の道具に使われることになった亡命者・ユーリイ・マーガリン中尉への同情も少しは混じっている。
「これだけ戦争として実態が拡散すればおそらくアメリカのマスコミも記者を派遣してくるでしょう。フリーの連中も大挙して押し寄せるはずです。自衛隊には戦況を悪化させないように奮戦を命じるべきです」「そうだな。ロシア軍の圧倒的戦力にウクライナ軍が怯むことなく徹底抗戦したから欧米が積極的に支援して反転攻勢に成功したんだ。自衛隊にも踏ん張ってもらわないといかん」「第1次日露戦争のように宣伝戦でも勝たなければいけません。それはお2人にまかせましたよ」日頃はオチをつけられている釜田防衛大臣が双木外務大臣、立野官房長官のお株を奪った。これこそ反転攻勢だった。日露戦争ではヨーロッパの軍事大国の帝政ロシアにアジアの近代化に着手して40年に満たない日本が勝てると思っている欧米のマスコミは皆無で、初戦の辛勝もロシア軍側の弁明だけを採用して、それが戦費の原資である戦時公債の売り上げに直結したのだ。今回は日本のマスコミに事実を報道させることから始めなければならないが、国内向けの宣伝戦は普通の国では必要ないから参考にする前例が見つからない。
  1. 2023/06/15(木) 13:54:08|
  2. 夜の連続小説9
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<埼玉県のアイドル水着撮影会の中止に見る少数派の増長! | ホーム | 続・振り向けばイエスタディ519>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/8492-4d6ad2ea
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)