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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ521

「ちょっと無理なんじゃあないか」「だよな、いくらロシアが血気にはやっても中国は乗らないだろう。アメリカを参戦させるための口実なのは見え見えだ」ニューヨークの自衛隊の非合法で必要最小限の情報機関では国務省で入手した情報について議論していた。防衛駐在官の帖佐将補もペンタゴンの友人からから耳打ちされたが「有難いこってす」と日本語で答えて苦笑したそうだ。
アメリカのマスコミは日本のように中立中道を標榜しながらイメージで偏向した政治主張を流布するのではなく共和党と民主党の支持政党や主戦と反戦の政治的立ち位置を明確にしている。そのため2023年に開催されたG7広島サミットでも原爆資料館に展示されている被爆直後の惨状を単に「原子爆弾の威力」として紹介したマスコミも多く、広島市が画策していた「罪の意識」をアメリカ国民に植え付けることはしなかった。そのため「核兵器はカミの正義を実現するために選ばれた国家のアメリカに与えられた偉大な力」と言う認識に変わりはなく、ロシアや中国が不正に核兵器を使用すれば懲罰を加えるのが今も変わらぬ国是だ。問題はG7広島サミットに出席しないで密室での議論を聞いていなかったロシアや中国が西側で核兵器を保有しているアメリカやイギリス、フランスが日本のマスコミが喧伝するように核兵器を人類の罪悪と信じ込んで「使用を放棄した」と誤解することだがそこまで愚かではないはずだ。
「それでもハワイでは日系移民の団体が日米安保条約の即時発動を要求する集会とデモを開催してかなり参加者が増えているようです。それがアメリカ本土で報道されないのが不思議ですが」杉本と岡倉の意見に松本が補足した。新潟出身の杉本は情報収集に全力を傾注して自宅でも陸上自衛隊輸送幹部の妻・本間郁子と独自の新潟奪還作戦・ベンセイシュクシュク2X(西暦の下二桁)の立案に励んでいる。作戦名としてはやや長い「ベンセイシュクシュク」が頼山陽が川中島の合戦で武田軍の奇襲を察知した上杉謙信が暗夜に妻女山を出て犀川を渡り、武田信玄の本陣前に進撃した故事を詠った「鞭声粛粛夜過河 暁見千兵擁大牙 遺恨千年磨一剣 流星光底逸長蛇」に由来することは言うまでもない。杉本は幼い頃、酔った祖父が呻るのを聞いて漢文は知らなくても詩吟として憶えていた。一方、松本はハワイの中国系移民の動向を探るため妻のユキエの家へ頻繁に帰るようになっていて陸上自衛隊を退役したモリヤ佳織将補がノザキ姓になってハワイの日系人協会の理事に就任して以来、これまで中国系や半島系の移民団体による反日集会に黙っていた日系移民に韓国と中国が日本に加えている武力行使と被害、現在のロシアの侵略の裏では中国が糸を引いていることを訴えて日米安全保障条約の発動に踏み切らないアメリカ政府に対する抗議運動を主導しているのを見ている。岡倉も前川原の同期である当時の伊藤佳織候補生を支援するため松本に全面協力していた。
「そうだな。アメリカ本土のマスコミに火を点ける方が現実的だろう。幸いイギリスの三流紙が新潟の現状を伝えた上、記者を殺害されている。この小さな怒りの火に油を注げば高齢化で思考が鈍っている大統領も流石に身の危険を感じるはずだ」「先ずは中国の支配下にあるサンフランシスコからだな」杉本の意見に岡倉が同調した。2人は世界の紛争地帯で一緒に危険を搔い潜ってきたイギリスの防諜機関・MI5と諜報機関・MI6の戦友のジェームスとイリヤが現役を引退して管理職兼教官になってからも交流を持っていて今回のブリティッシュ・ライフ紙の取材活動に関与したことを聞いている。このマスコミを利用した世論工作もイギリス直伝だった。
「それじゃあジュウゾーは杉本、リンゾーは杉村(岡倉の偽名)に付いて業務の実習と人脈の継承に当たれ。今田(こんだ=本間の偽名)は引き続き台湾情報、松本はハワイの情報だが日系人の動向にも目を配ってくれ」ここで妻の裕美1曹(最近、防衛駐在官を通じて昇任の連絡が入った)が淹れたコーヒーを飲みながら新聞を読んでいる振りをして議論を聞いていた松山1佐が総括した。本間は日本への侵攻が頓挫した中国が矛先を自分に向けてくるのではないかと危惧する台湾の実情を探るため我が子・景虎を連れて旅行者を演じて渡航している。裕美1曹はニューヨークに駆け落ちした皇女を強制性交の動画を撮影するために襲撃した中国系移民の暴漢を撃退させた実績からオランダに逃亡した皇后母子の護衛を打診されたが、自衛官として国を捨てたことが許せず断固拒否した。唐突な昇任は命令拒否を処遇の不満が理由と解釈した陸上自衛隊の上層部らしい対応だった。とは言え1等陸曹の階級章は届かないので2曹の階級章にマジックで線を入れただけでは興覚めだ。それでも久しぶりに制服を着て記念写真を撮った。
「日本のニーガタに取材に行くことになったんだがお前は詳しいか」岡倉がこの任務について最初に韓国語を学ぶために滞在したサンフランシスコにリンゾーを連れて赴くと杉本のスマートホンにニューヨークの大手新聞社の記者の友人から電話が入った。正に渡りに船だ。
「新潟は俺の出身地だ。何でも訊いてくれ」「オー、サンク・グッドネス(有難い)。お前を同行させるように編集部に申し入れよう」話が飛躍し過ぎた。これでは渡る船は競艇用のボート=ハイドロプレーンになってしまう。しかし、杉本には東北地区太平洋沖地震の自衛隊の活動を取材する外国記者団に潜入していた中国軍の諜報要員を監視するため本間と2人で帰国した実績がある。
  1. 2023/06/16(金) 15:12:31|
  2. 夜の連続小説9
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