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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ523

「ロシア軍の新潟侵攻は失敗だったな」「輸送力の維持を甘く見ていたんでしょう」防衛駐在官にサニーパイル記者に同行しての帰国を禁じられても杉本は「予想された結果」と言う様子で雑談を続けた。杉本も松山1佐を通じて日本海での海上自衛隊や航空自衛隊の戦況と北海道と新潟での陸上自衛隊の奮戦の様子は具体的かつ詳細に聞いているが、信頼するに足る情報なのであえて乗り込む必要性は感じていなかった。
開戦前の日ロの戦力比較ではロシア軍が本格的に介入すれば数日で航空自衛隊と日本海に配備されている海上自衛隊は全滅し、制空・制海権を確保したロシア軍は海空の経路で地上部隊を運搬・揚陸するはずだった。それからは戦車が広大な越後平野を縦横無尽に走り回って本州の中央山脈を突破して関東地方・首都圏に雪崩れ込むのも時間の問題だと思われていた。ところがロシア軍ではウクライナ侵攻で戦力の大半を消耗して軍備の回復に全力を注ぎ込んできたが、本来は中国との攻防戦を目的にしていた極東軍管区は関係改善を受けて後回しになっていた。さらに海上自衛隊の戦闘能力は神業の域に達していて日本人を恐怖に陥らせて戦意を喪失させるために射ち込んだ中距離弾道ミサイルはイージス護衛艦隊によって全弾撃破され、続いて爆撃機も全滅した。航空自衛隊も機数では圧倒的に不利だったもののロシア軍は熟練パイロットをヨーロッパ方面に優先配置していて低練度のパイロットしかいない上、部品の供給が滞って飛行訓練が不十分で互角以上の戦果を上げている。そして全力を投入して上陸させた地上部隊も補給が続かず、陸上自衛隊普通科部隊のゲリラ攻撃にアフガニスタンやウクライナの悪夢が甦っていた。ただし、アメリカではベトナム戦争での恐怖体験は映画やドラマで反戦運動に利用されたがロシアでは陸軍が教訓にした以外は封殺されている。
「自衛隊が反転攻勢に出ると言っても物不足、弾不足、油不足は深刻でしょう。何よりも人不足は何ともならない」「それが難題なんだよ」杉本のこの見解は輸送幹部の妻・本間の請け売りだ。普通科の松山1佐は兎も角として特科の杉本、高射特科の岡倉では整備や補給、輸送、糧食などの弱点を見逃しがちだが輸送幹部の本間は後方からの視点で分析するので、杉本が夫婦の雑談で学ぶことは多い。ところで新米のジュウゾーとリンゾーの陸上自衛隊での職種はまだ推理できていない。最近は戦時に普通科連隊を中核として特科大隊や施設中隊などを加えて編成する戦闘団を常態化した機動連隊が増えているので以前のように職種が個性にはならないのかも知れない。唯一の航空自衛隊の松本からは「空曹時代は飛行管理だった」と聞いた気がするが陸上自衛隊組には何をする職種なのか想像もできない。
「北海道に一極集中させている戦車を本州に返さないんですか」「それは幕(陸上幕僚監部)や総隊(陸上総隊)でも検討しているんだが青函連絡船以外に輸送手段がないから青森から陸路で南下させなければならない。それに要する燃料と時間を考えると北海道で最大限に活躍させる以外の選択肢はないようだ」「青函連絡船で新潟港に運ぶ、新幹線の輸送用車両を作って運搬すると言う奥手はありませんか」これも本間の意見の盗作だ。本間は航空自衛隊の第3術科学校輸送幹部課程に留学した経験がある下西教官にトラック輸送中心の陸上自衛隊輸送の枠に捉われない奇想天外な発想を教えられた。下西教官は国鉄の大規模ストが頻発した昭和35年から41年に陸上自衛隊第101施設大隊に実在した鉄道部隊の復活が持論だった。これも航空自衛隊の同期の「高射隊はナチス・ドイツ軍の列車砲のように鉄道で機動するべきだ」と言う意見を聞いて戦時輸送で鉄道が果たす役割を考えるようになったそうだが、これが実現していれば大型戦車の輸送が迅速になり、戦時の現在も物資の輸送量は十分に確保できる。その下西2佐は東北地区太平洋沖地震でも東北方面隊が単独で対処していた当初に「仙台空港の機能回復を最優先するべきだ」と強硬に主張したため道路網の尺取り虫のような土木工事による復旧以外の発想を持たない幕僚たちに嫌われて2佐で定年退官したらしい。
「石田政権は防衛産業の国営化などの施策を講じようとしたんだが、A日新聞が主導するマスコミが日本の軍国化と反対キャンペーンを展開して(アメリカのタイムズ誌の石田首相のインタビュー記事の見出しを誤訳させている)、それを立権民衆党の湧水が国会に持ち込むから支持率低下に悩む石田首相としては強行することができなかったんだ」「それで手遅れになったと言うことですね。弾薬庫と燃料タンクの増設や保管量の倍増は内局の職務怠慢で遅滞して手遅れ・・・自衛隊は足を引っ張られ放しですね」「大体、必要最小限にも届いていなかった防衛力を周辺国が軍拡を進めている中で軍縮したんだから試合放棄しても文句を言われる筋合いはありませんよ」経緯を日本で見ていた帖佐将補の解説に客観的傍観者の松山1佐と杉本が同調した。現在の自衛隊が直面している最大の問題は武器と弾薬の不足で、平時の調達分しか製造力を持たない納入企業は緊急調達の大幅増の発注を受けても原材料を輸入している海外の企業が増産に応じるはずもなく、在庫は経営上の損益になるため最小限しか確保しておらず戦闘による急激で膨大な消耗に追いつくはずがなかった。その点、海上自衛隊だけはアメリカ海軍から洋上で共通化が完璧な装備品の融通を受けている。
  1. 2023/06/18(日) 15:32:06|
  2. 夜の連続小説9
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