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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ529

「末広くん、北海道制圧作戦は順調なようだね」「これは統合幕僚長閣下自ら何事ですか」網走地区、道東地域のロシア軍の捜索と捕獲が順調に進んでいる中、北部方面総監に統合幕僚長から電話が入った。勿論、秘匿装置を介している。統合幕僚長は北部方面総監から陸上総隊司令官、陸上幕僚長を経由しての昇格だから旧知の仲ではあるが、防衛大学校の学閥に属さない東京大学卒なので特に親しい訳ではなかった。
「ロシア軍は極東方面の揚陸艦、輸送艦の大半を中国に売却した上、ウクライナ侵攻で輸送機、輸送ヘリを大量に失っているから2正面での上陸作戦は無理なんだ。その後もヨーロッパ方面から移動させている形跡はない」「おかげで助かっています」返事をしながら北部方面総監はウクライナ侵攻の緒戦でクリミア半島の軍港に停泊していたロシア海軍黒海艦隊の輸送艦がウクライナ軍のミサイル攻撃で撃沈されたニュースを思い出した。第1次日露戦争の時でさえロシア軍は北欧のバルト海からユーラシアとアフリカ大陸を周回させて極東までバルチック艦隊を増援に向かわせているのだから輸送艦が足らないとなれば派遣してくる可能性はあった。ところが北欧では隣国のフィンランドと対岸のスウェーデンがNATOに加盟して敵対国に加わったため黒海艦隊と同様にバルト海の艦隊を割くことはできず窮余の策としてオホーツク海航路のフェリーや千島離島航路の連絡船を徴用したようだ。ヘリコプターと輸送機は緒戦に投入しただけで在庫一掃だったらしい。
「それで君が持っている陸上自衛隊最強の戦力も温存される形になったんだが・・・」「そうなんです。私としては我が国への脅威を根絶するために敵の根拠地を占領したいと考えています」北部方面総監は統合幕僚長の言葉を遮って持論を披瀝した。すると統合幕僚長が電話口で苦笑した鼻息が聞えた。この様子では北方領土奪還作戦・アタッテクダケロ2×の存在を知っているのかも知れない。かつて自衛隊生徒から防衛大学校に進学した志賀北部方面総監が陸曹が陸士よりも多い階級構成が指揮系統を阻害すると決めつけて曹候補士の終身雇用契約を無視して一律に退職させた不当人事については緘口令が徹底していて他の方面隊の人事担当者でさえ知らなかった。それを思うと作戦計画の秘密保全が甘いようだが北部方面総監の思いつきによる研究に過ぎないので正式な防衛秘密には指定していない。
「末広くんは鹿児島出身だったよな。まるで山口県人のような発想をするんだな」「山口県とは薩長同盟を結びましたが仲良くはないですよ。あれは土佐の武器商人が商売のために内戦を起こそうと仲介しただけで鹿児島には足手まといでした」北部方面総監の返答に江戸っ子の統合幕僚長は苦笑の鼻息を繰り返した。確かに山口県=毛利藩は討幕派と佐幕派が藩内抗争を繰り広げた上、粛清と内乱まで起こしているので有能な人材は残っておらず、人脈で明治政府の中枢の座を占めると職権乱用を常習化して新国家を混乱させた。その点が島津斉彬が発掘して教育した人材を島津久光が政争の渦中に投入して実践経験を積ませた鹿児島県=島津藩とは違う。
「山口陸軍閥の長岡外史中将は日露戦争の時、日本の優勢が固まるとロシアが停戦交渉に応じると表明したのにつけ入って屯田兵で南樺太を占領したんだ。正規軍の第7師団は旅順要塞攻城戦に投入されてそのまま奉天会戦に転用されていたからその留守番まで使って侵略を拡大した。強烈な野心には恐れ入るよ」「あの時の第7師団長は薩摩っぽの大迫尚敏中将でした。優れた漢詩人で息子さんを旅順戦で亡くされ、学習院の院長を務めて全てにおいて乃木の上をいっておられるのですがネットなんかで『薩摩の乃木』と呼ばれているのを見ると腹が立ちます」日本陸軍の北海道の第7師団は屯田兵本部長・司令官から就任した初代師団長の永山武四郎中将も鹿児島県人なので熱い郷土愛が沸き起こってくるのかも知れない。
「君の職責を担えば北方領土を占領して脅威を根絶すると言う発想になることは理解するが、我が自衛隊の戦力はそこまで潤沢じゃあない」「と仰いますと」統合幕僚長の口調が業務用になったので北部方面総監は席に座ったまま姿勢を正した。
「現在の第7師団を新潟に派遣してもらいたい。青函フェリーで苫小牧港から酒田港まで輸送してそこからは自走で南下する」「青函フェリーには国後島まで運搬させるつもりでしたが」「国後島に近づけば地対艦ミサイルの標的になる。航空に事前に叩いてもらうつもりだったか」統合幕僚長は腹の中を見透かしているようだ。若しかすると次第に話が具体的になってきて困惑した北部航空方面隊司令官が東京の上層部に相談して、それを聞いた統合幕僚長が「これは好都合」とばかりに乗り出してきた可能性もある。まさしく「渡りに船」だろう。
「現在の青函フェリー5隻で運べる戦車は100両程度です。つまり7師団の保有数の半分しか運べません。離島の制圧には十分でもロシアが全力を挙げて増強してくる新潟では焼け石に水なんでは」「今後はロシアに日本海を横断させないから大丈夫だ」北部方面総監の遠回しの反論に統合幕僚長は自信をもって即答した。これは参戦した方が良さそうだ。
  1. 2023/06/24(土) 15:13:32|
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