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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ530

「日本軍が反転攻勢の準備を進めている」新潟のロシア軍の司令官・ステセリフ少将が極東軍管区司令部に悲痛な声で連絡してきた。ロシア軍ではウクライナ侵攻において絶大な威力を発揮した対人地雷・POM3を北海道東岸でも大量に散布していたが、緒戦では知識不足の陸上自衛隊に損害を与えてウクライナ軍と同様の効果があったものの制空権を確保している自衛隊はヘリコプターや無人偵察機に高精度の金属探知機を搭載して進軍経路を確認し始めた。そして金属製のPOM3を発見すると何故か起爆させずに接近して迅速に排除している。このため網走に続いて道東でもロシア軍地上部隊は風前の灯火になっていた。
「北海道から戦車100両を山形に上陸させて南下を開始した。どうして艦艇で阻止してくれなかったんだ」「日本海軍は主力艦を太平洋航路に派遣していて周辺海域には海防艦(地方隊所属の近海用護衛艦)しかいなかった。しかし、イギリス海軍が日本海に空母艦隊を派遣して日本海軍と協同で示威行動を開始している。だから我が軍の艦艇の行動も制約を受けているんだ。イギリスを怒らせたのは君たちだろう」「北朝鮮だ・・・」ステセリフ少将の批判に極東軍管区司令部の高級参謀は説明しながら反論した。ウクライナ侵攻の支援疲れで日本を巡る武力紛争には関心を示さなかったNATO諸国の中でイギリスが単独で本格的介入に踏み切ったのは現地取材に入っていた新聞記者2名のうち男性が対人地雷で死亡し、女性が拘束されて性的暴行を受けたことが世論に火を点けたからだ。2人が取材のために潜入したのは派遣されている新潟市郊外にある北朝鮮軍の宿営地の小学校だった。しかし、この口調では必ずしも同盟軍として一体化している訳ではないようだ。その点はウクライナ侵攻において常に危険な任務を命じられながら弾薬や食料の補給は後回しにされ、負傷しても衛生隊に無視・放置されたと言う民間傭兵会社に近く、自国民に代わって国家の軍事行動を担う英雄的恩人として国民の絶大な尊敬を集めているフランス外人部隊とは真逆だ。7月14日の革命記念日の軍事パレードで外人部隊が最後尾を歩くのも部隊の序列とは別に観衆が取り囲んで感謝の意を表するため隊列が維持できないことが大きい。
「それじゃあ戦力の増強も輸送機に限定されるんだな」「輸送機も日本空軍に撃墜されて機数が減っているから食料と弾薬が滞らないだけでも有り難いと思ってくれ」高級参謀の恩着せがましい言い方にステセリフ少将は怒りながらも補給が途絶えて悲惨な状況に陥っていたと聞いている北海道の上陸部隊を思って口にはしなかった。極東軍管区では中国の要請を受けて介入した日本への侵攻の「主導権を握れ」と言うモスクワからの内命を受けて本州の中央部の新潟に主力部隊を上陸させたが、日本海の制空・制海権を奪取した時点で増強するはずの後続部隊は弾道ミサイルが海上自衛隊のイージス護衛艦によって次々に撃破されて航空基地を破壊できずいまだに派遣できていない。それでも食料と弾薬だけは輸送機で新潟空港まで届いているが、陸上自衛隊の携帯式地対空ミサイルも加わって撃墜が相次ぎ、着陸を避けて上空からの物資投下でつないでいる状況だ。北海道では畑の馬鈴薯や玉蜀黍を収穫して飢えをしのいだらしいが、刈り残してあった新潟の米は広大な稲田で立ち枯れして朽ちていくのを放置していた。
「日本陸軍歩兵部隊のゲリラ戦によって我が軍の戦車や装甲車両の半数は破壊されている。稼働両数で言えばすでに新潟地域に展開している戦車連隊と互角だ。ここに北海道から増強されれば倍数の戦車と交戦することになる。そもそも我が軍の戦車はソビエト連邦時代のT-80だ。日本陸軍の90式や10式に比べれば1世代古い」「しかし、日本陸軍の戦車は実戦経験を持たないがTー80は歴戦の傑作戦車だ。日本軍の国産兵器は海軍のゼロ(零式艦上戦闘機)の時代から机上の論理で設計されているから数字上の性能は優れていても完成度では劣るのは知っているだろう。74式は油圧サスペンションで姿勢を自在に変えられるのが自慢だったが、キャタビラの脱落が頻発して自慢の機能は封印していた。その程度の高級戦車が幾らあっても車体、乗員共に実戦で鍛えられた我が軍の敵ではない」高級参謀の見解に知日派のステセリフ少将は半分は納得せざるを得なかった。帝国海軍の零式艦上戦闘機は敗戦後も日本では傑作機扱いされているが、海軍が要求した無理難題に等しい飛行速度や航続距離、運動性を実現するため設計技師の堀越二郎は軍用機には必要不可欠の防弾性を無視して機体を軽量化した。ただし、ソビエト連邦軍が仮想敵として研究していたのは満州の関東軍が運用していた中島飛行機の糸山英夫が設計した1式戦闘機・隼なので軍用機としての完成度は高い。つまりこれも机上で勉強した知識だった。
「せめてカモフ52を可能な限り配備してくれ。ウクライナでも威力を発揮しただろう」「カモフはそのウクライナで消耗した上、我が軍管区の手持ちは北海道で使い切ってしまった」ステセリフ少将の懇願も高級参謀は即座に拒否した。この調子では兵隊に続いて攻撃ヘリコプターまで北朝鮮からデビューしてから半世紀のミル24を派遣すると言い出しかねない。それでも映画「レッド・ダウン(邦題『若き勇者たち』)」や「ランボー3・怒りのアフガン」で有名になったミル24は強力な攻撃力に最小限の人員輸送力も兼ね備えた多用途機なので支障なく飛ばせる機体であれば使い道がないことはない。とは言え北朝鮮では日本で最低水準の島根県と大差がない国家予算の大半を弾道ミサイルと核兵器の開発に注ぎ込んでいるので整備に必要な部品を調達しているとも思えない。
  1. 2023/06/25(日) 14:49:41|
  2. 夜の連続小説9
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