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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ532

「我が国の防衛のために身命を賭して参戦してくれた勇士たちに敬意と感謝を表して・・・乾杯」「乾杯」「カンペイ(中国語の発音)」「ターガイ(フィリピンのタガログ語)」台湾人とフィリピン人の義勇兵たちの短期集中式新隊員課程が本格化する前、健軍駐屯地では西部方面総監の指示で激励会が開催された。ところが会話は英語とこれも西部方面総監の発案で招待された熊本市内在住の台湾人とフィリピン人の妻たちの通訳を介さなければならなかった。
「山中さんは航空の教育幹部でしたよね。だったら英語は得意でしょう」「何ば言っちょると。俺は肥後弁と標準語の二刀流たい」激励会には熊本県隊友会の実務責任者である山中元3佐も招待されていた。陸上自衛隊でも日米協同訓練やPKOなどで英語を使う機会は増えているが、パイロットと管制官の会話や飛行機の部品から整備機材と工具まで全て横文字の「航空自衛隊のようにはいかない」と言う自覚があるので半ば嫌味を込めて敬意を表してくる。下手すれば航空自衛隊の基本教練はアメリカ軍式に英語の号令をかけていると思っているのかも知れない。
山中元3佐は空曹時代は航空機整備員でアメリカ空軍の技術指令書=テクニカル・オーダー=TOの英文の単語を片仮名にしただけの直訳のJTOを使って仕事をしていた。おまけに容姿端麗なのでブルー・インパルスの列線整備員に抜擢されてウォークダウンと呼ばれる入場整列からプリタクシーチェックと言う機体の前で航空機整備員たちは蛸踊りと自嘲する手足と指を使った飛行前点検=ランナップの動作と敬礼で見送る誘導路へのタクシーアウトまでを披露していた。
当然、アメリカ空軍のサンダーバーズ、海軍と海兵隊のブルーエンジェルスの記録・広報映画を見て研究していたが解説はパイロットが翻訳していた。それでもパイロットにとって飛行中の英語は業務用語に過ぎず、会話は苦手な者が呆れるほど多い。ある日米協同訓練の時、Fー104でFー15に圧勝した防衛大学校卒の飛行隊長がアメリカ空軍の飛行隊長に「お前のFー15は猫に小判だな」と言ってやろうと「ユア・Fー15・イズ・キャット・ハズ・ゴールドマネー」と言ったが意味が通じなかったと言う逸話がある。構文の前にFー15を「エフ・ジューゴ」と言ったそうなので完全に意味不明だったはずだ。他のパイロットたちもアメリカ空軍のパイロットが「イーゴー」と言っているのがFー15の「イーグル」のことだと理解するのに時間を要したらしい。
「あんた若いね。幾つだい」「24歳だそうです」背広を着た隊友会の出席者たちが通訳を介する会話に疲れたのか知り合い同士で車座を作り始めたのを見て山中元3佐は逆に積極的に声をかけ始めた。こんな席でも隊友会として義勇兵を激励する任務を遂行しようとするところが山中元3佐らしい。勿論、英語ではなく通訳の名札を付けた人妻を介している。
「どうして日本を守るために義勇隊員を志願したんだね」義勇兵を義勇隊員と呼んだのは山中元3佐ならではのこだわりだが、熊本市内でも郊外の農家に嫁いでいるらしいフィリピン人の妻は違和感なく通訳したようで真顔になって山中元3佐が付けている英文の名札の「フォーマー・メジャー・オブ・JASDF(元航空自衛隊3佐)」と言う肩書を見ると姿勢を正した。
「子供の頃にナバオ市でペドリングに遭って日本のジエータイに救われました。それでジエータイに興味を持って調べ始めたら日本の女性の駐在武官に会って話をきくことができました。ペドリングと言うのは2011年の超大型台風17号のことです」妻の通訳を聞いて山中元3佐は少し酒で痺れた頭で記憶を呼び起こした。2011年であれば熊本地震の5年前だが、加倍政権がフィリピンの超大型台風に自衛隊の大部隊を派遣したことが思い出された。その時、普天間基地のVー22アスプレイが大活躍したことは小牧基地の第1輸送航空隊で勤務していた息子の山中1尉から聞いていたので熊本震災でも大いに期待していたのだ。
「フィリピンの女の駐在武官と言うと・・・モリヤ将補、元へ1佐のことか」「そうです。カーネル・カオリ・モリヤです」山中元3佐の中で意外な人脈がつながった。山中元3佐はモリヤ夫婦が離婚したことは知らないので教え子の妻と言うことになる。
「彼女は私の教え子の妻で帰国後は久留米市にある陸の幹部候補生学校の校長をしていたから見学に行って会ったことがあるよ。アイツには勿体ない美人だったが、頭も上だったようで妻は陸将補、アイツは2佐までだった」山中元3佐としては自分も定年2佐とは言え曹候学生の教え子のモリヤが部外課程で陸上自衛隊に転換して司法試験にまで合格しながら2佐で終わったことが残念でならず、現役中にはエリート・コースを歩んでいる妻と比較されて悔しい思いをしているのではないかと心配していた。それも亭主関白の肥後モッコスらしい気遣いではある。
「それって国際刑事裁判所の検察官のルテナンカーネル(2佐)・モリヤのことですか」「知ってるのかね」「はい、ズテルデ大統領がナバオ市長の頃、ヨーロッパの人権団体がデス・スクワットの麻薬組織の殺害を刑事告発しようとしてモリヤ検察官が現地調査に来たんですが必要な措置として告発見送りにしたそうです。僕たちは告発に反対する生徒のデモを計画したんですが、モリヤ検察官と会ったズテルデ市長が必要ない、勉強に励めと止めさせたんです」「アイツも大した仕事をやってたんだな」山中元3佐は嬉しくなって乾杯すると教育幹部に戻って談笑を続けた。
  1. 2023/06/27(火) 14:40:35|
  2. 夜の連続小説9
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