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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ533

「フィリピンと台湾の義勇隊員は良かぞッ、お前のところにも回してもらえるように上に掛け合ってみろ」建軍駐屯地の義勇兵激励会を終えて田原坂の激戦地跡の自宅までタクシーで帰った山中元3佐は日付がまだ変わっていないことを確認すると下甑島分屯基地に警備隊長として赴任している息子の山中1尉のスマートホンに電話した。
山中1尉は中学時代を全国有数の教育劣等県である沖縄で過ごすことになり、本土で受けた高校受験では私立の高校しか受け入れてもらえなかった。ところがその高校はサッカーの名門校で父親譲りの運動神経と指揮能力を発揮して頭角を現したが、当時はJリーグの創設期で高校も宣伝になるプロ選手を送り出そうと躍起になっていて大学志望の山中選手は放置されて受験に失敗、保険代りに受けていた航空自衛隊の新隊員課程に入ることになった。山中3佐としては自分と同じ航空機整備員にしたいと願っていた。(2度目の)ところがサッカーとラグビーを隔年で行う航空自衛隊球技大会での戦績不振の打開策として
航空教育隊がこれまでは野球一辺倒だった教育職の空士に両競技の経験者を採用することになって残されてしまったのだ。山中3佐は当然反対したが東京に単身赴任していたので声は届かず班長連中の巧みな勧誘に籠絡されて教育職になってしまった。すると部内幹部候補生を受験する時も教育職に指定されてそのまま父親の気も知らぬ後継ぎになると一時期、森田敬作3佐が第3術科学校で開講した警備課程に強い関心を持って幹部課程への入校を希望したことがある。その話を聞いた定年直前の山中3佐は「本気で戦争をする気か」と頭に冷水を浴びせた。航空機整備員にとっては整備するのが戦闘機、練習機、輸送機、救難機の何であっても航空機であれば仕事の相手であって操縦するパイロットと地上の住民の安全=生命を守るために万全を尽くすのが職務であって「我が国の平和と独立を守る」などと言う謳い文句は仕事の結果に過ぎない。それが今では息子の方が正解になってしまっている。下甑島は平時の自衛隊による対処の限界を世に示した1997年2月3日の中国人漁民不法侵入事件の舞台だけに慎重に対応しているようだ。
「フィリピンも使い物になりそうね。台湾人は日本人と変わらないだろうけど南洋の人間は今一つ信用できないんだよな」山中1尉からは警備の強化が長期化して隊員の疲労が深刻になっていると愚痴をこぼされているが、まだ隊員としての資質を気にするようなら大丈夫そうだ。それにしてもこの南洋人に対する不信感は沖縄の中学校での経験が原因なのかも知れない。山中元3佐は南西航空警戒管制隊本部で勤務していたから若い頃に本土の部隊で鍛えられた沖縄出身の空曹たちの郷土愛と後輩育成に取り組む熱意には感服していたが、中学校の教師たちは復帰時に本土から指導員として派遣されて来た教職員組合の活動家たちに当時の本土で吹き荒れていた受験戦争の不条理を吹き込まれて特別な受験勉強を否定していた。その癖、反戦平和に名を借りた反アメリカ軍反自衛隊と日本軍を断罪する洗脳教育には熱意を注ぎ山中少年には不信感しか与えなかったのだ。
「フィリピンは2011年の超大型台風の時に自衛隊の災害派遣に救われた恩返しがしたいって言う若者が多くて士気は高いな。英語は台湾人よりも得意みたいだ」「そりゃあ元はアメリカの植民地だからね」山中元3佐は自分では英語を話さなかったが、通訳しているフィリピン人の妻が現地語のタガログ語よりも主に英語を話していることは理解していた。その点、次に話した台湾人たちは中国語=広東語だった。
「今のところ外人部隊は陸上自衛隊が後方業務で使う予定みたいだけどウチの警備の維持のために必要だって言えば何とかなるかも知れんたい」「まてよ・・・」山中元3佐は山中1尉が前向きな反応を示すと逆に今日の宴席で西部方面総監部の幕僚たちから聞いた問題を思い出した。山中元3佐は陸上自衛隊の現在の制服、特に幹部のズボンと袖の金線が西南戦争の時の政府軍に見えて、そんな呪われた服装の人間と飲んで家に帰ると田原坂で亡霊たちが怒り狂っているように思えてならなかった。ところが今回は西部方面総監以下、フィリピン人や台湾人の義勇隊員たちも階級章を着けていない迷彩服だった。そんな快適な宴席で幕僚たちは石田内閣が外国人に武器を使用させる=戦闘に参加させることを否定しているため後方支援連隊で現在は予備自衛官に担当させている土木工事や資材管理、トラック輸送の補助などに当たらせると言っていた。
  1. 2023/07/01(土) 12:42:08|
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