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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ542

「お待ちどうさま」夕食を終えて梢の食器の洗い上げと着替えが終わると2人揃って夜の散歩に出かける。Ⅰ型糖尿病を患っている私にとって散歩は摂取カロリーの消費を促す必要不可欠な生活習慣なので止めることはできない。一方、梢はオランダで入籍して以来、妙に落ちついてしまって初々しさが薄れ、妻と言うよりも沖縄のオカア路線を着実に進んでいて、本人はそれを体形の変化が原因と解釈してオランダの頃以上に積極的に歩く距離を伸ばしている。今では一周14キロの横田基地を回るのが定期コースだ。
「足首回し20回」「開脚跳躍30秒」帝国陸軍で言う「急歩」で15キロ弱の散歩だが一応は準備運動を実施する。これは自衛隊体育学校で習った必要最小限の準備運動で、練習や試合の前に地面に立てた爪先を支点にして踵を20回回転させるとアキレス腱を切らないらしい。足を開閉しながら両手を頭上で合わせる跳躍を30秒間であらゆる運動を実施するのに必要な心拍数と全身の関節の柔軟性が確保できるそうだ。
「出発」「前に進め、道足(足を揃えないで可)」自衛隊の号令は梢がかけた。本当は歩調を合わせる速足にしたいのだが自衛隊でも男子75センチ、女子70センチと歩幅が違っているので無理はさせられない。それでも手をつないで歩いていれば歩幅と歩調は自然に揃う。
「失礼」2人並んで歩いていると歩道を塞いでしまうようでジョギングに励んでいる同世代の男性が声をかけて追い抜いた。それが罵声でないところが日本らしいが歩道を歩いていて障害物扱いされるのは心外だ。これではヨーロッパ的な建物が不規則に並ぶ住宅街を抜けて店の灯りが消えた人気がない海岸通りを寄り添って歩いたスケベニンゲン=スヘフェニンゲンでの散歩の気分を再現できそうもない。あそこで毎晩のように出会ったベテランの警察官には婚姻届けを提出する時の立会人を頼んだが時差から見て今は昼飯時だ。
「私たちもジョギングにしようか」次に抜いた10歳ほど若そうな女性の背中を見送りながら梢が唐突に提案してきた。私のⅠ型糖尿病のカロリー消費は運動量が過剰になると低血糖を起こす惧れがあり、単独でのジョギングは控えなければならない。むしろ梢のダイエットには効果が高いはずだ。しかし、私は若い頃から梢の柔らかい肉饅のような乳房と極端にくびれていない豊かな腰が大好きなので女性なのに体脂肪が消滅した鶏ガラのような長距離走のランナーにするつもりはない。その一方で筋骨隆々で逆三角形になる水泳も御免こうむる。どちらの種目も美人選手がヌードになっても女性の色香を感じさせることはできないだろう。
「二足歩行の人間の足腰の骨格は舗装した道路への長時間の着地の衝撃に耐えられるだけの強度はないんだ。だから足腰を故障してないマラソンランナーは滅多にいない。ところが競歩は体重の移動が円滑だから衝撃を筋肉が解消することができる。従って競歩の選手に故障持ちはほとんどいない」これは自衛隊体育学校に入校した時に親しくなったの研究班の航空自衛隊の幹部から聞いた豆知識だ。要するに人間は近代的な都市の成立に合わせて進化していないことになる。
「でも明るい間はフェンスの中をアメリカ軍や自衛隊の隊員が大勢走っているわよ。貴方だって那覇基地の頃、いつも走っていたじゃない」「ワシの場合は『走って行くから走行生(=曹候生)』だったからな。それでも帝国陸軍は長距離の急歩で足腰を鍛錬したんだぞ。それも連隊長以下が馬で前を行くのを兵隊が徒歩で追いかけたんだ。これは江戸時代の武士の鍛錬方法を踏襲したらしい」このネタは何度も披露した記憶があるが相手は多分、佳織だろう。佳織とは前川原で出会って以来、同期=戦友として勉強と運動で鍛え合ってきたのだから。
最近の映画やドラマの合戦シーンでは騎馬武者のすぐ後ろを槍を持った雑兵たちが全力疾走で追いかける場面が迫力を生んでいるが、実際の槍は鋼製の穂先と硬い材質の木製の竿が重く、構えたまま疾走することは困難だった。そのため槍隊は構えて横一線に穂先を並べた状態で徒歩で前進して阻止線を作り、その後、敵の槍隊と対峙して何度か突き合いを交わした後、混戦=斬り合いに移行したようだ。
「ワシとの散歩を長く続けるつもりならワォーキングにしておけ」「そうね。私たちは石垣島でも一緒に海岸を歩くのよ。そして海に沈む夕陽に手を合わせてニライカナイにも一緒に往かせてって祈るの。ジョギングじゃあ手が汗になっちゃうわ」どうやら梢も納得してくれたようだ。結婚以来、さらに固く結ばれている魂で感じる本心では梢も首里のマンションに行って義母の生活を支えながら石垣島にも足を運んで家と弁護士事務所を探し、義父の遺言通りに亀甲墓を建てる手配をして、余裕があれば首里のマンションの退去と那覇市の公営墓苑の解約も書類を提出するだけで済むように準備を進めたいらしい。勿論、石垣島では淳之介が下調べを始めているが、私たちが用意している予算を教えていないので住宅情報の収集に留まっている。ここだけの話、私たちは自衛隊法63条の他の職又は事業の関与制限=副業の禁止によって国際刑事裁判所からの給与は国庫に振り込まれていてそれが返却された上、退職金にも手をつけていないので極めてリッチなのだ。ただし、淳之介に当てにされては困るので2人が死んで遺産相続の時に驚かすことにしている。
※落雷による不具合でした。アシカラズ
  1. 2023/07/10(月) 15:39:55|
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