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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ543

「北海道に現地調査に行きたいので協力と手配をお願いできませんか」数日後、私は法務省最高検察庁の関係上司の許可を得ると統合幕僚監部で北海道での現地調査に対する協力と手配を依頼した。本来であれば他の省庁の職員が業務を依頼する場合、窓口と担当は内局なのだが法務省からの要請・打診を受けてすでに定年退官していた私の国際刑事裁判所の次席検察官としての職務を停止させて帰国させた今回の異例な人事に内局が関与したとの疑いを抱いているので接触したくなかった。私が国際刑事裁判所に赴任した時も当時の民政党政権でも保守派の閣僚が靖国に参拝していることにマスコミの取材を受けた私が個人的に疑問を呈した報道に過剰反応した内局が、アメリカ軍が私を国際刑事裁判所の次席検察官に押しているとの情報を外務省から受けて厄介払いに利用したのだった。尤も、私は必死に勉強して合格した海上自衛隊生徒の合格通知を父親に破り捨てられた挙句に強要されて入学した蒲郡高校では生徒会長を務めるなど他では得難い高校生活を満喫することができた。オランダの国際刑事裁判所でも梢との幸せな生活が始まり、日本では見えない国際情勢の渦中に飛び込んで泳ぎまくり、2等陸佐の法務幹部では経験できない自衛隊生活を送ることが出来た。その意味ではあの人事に関しては内局も父親と同様に許してやっても良いのかも知れない。
「北海道への移動は入間からの輸送機ですね。奥さんと一緒なら中支飛(中部航空方面隊司令部支援飛行隊)のUー4を飛ばしましょう」「妻はアフガニスタンの時と同様に秘書兼通訳として同行させます。どちらにしろ2人とも部外者ですから搭乗目的は体験搭乗でしょう。したがって貨物を運ぶC-1に便乗でお願いします」私の申し出を受けて航空自衛隊と陸上自衛隊の担当者が相手になったが出だしは木の枝の鳥の古巣の方からだった。陸上自衛隊は地面に掘ってある巣穴になる。
Uー4は私が久居駐屯地の教育大隊で勤務した頃に導入されたアメリカのガルフストリーム社製のビジネスジェットだ。多くの航空会社が競合するアメリカで陸海空軍海兵隊が要人輸送用機として採用しているので乗り心地は最高なはずだ。それでも航空燃料は作戦機を優先しなければならない戦時に国の公務とは言え部外者を北海道まで連れていくために入間基地から千歳空港まで飛ばさせては申し訳ない。やはり航空自衛隊ファンの梢にはCー1の窓がない薄暗い貨物室のハンモックのような座席に揺られる空の旅を体験させたい。
「千歳から札幌までは陸のランクルと空の業務車1号(大型ライトバン)のどちらにしましょう」次は車両での移動になる。梢に自衛隊式を体験させるなら当然、73式小型トラック2型・パジェロだが慣れないCー1のハンモック座席で腰が痛くなっていては業務車1号の方が無難そうだ。入間基地からUー2にすれば旭川空港まで飛んでもらって第2師団司令部へ向かえるが、こちらがCー1の貨物便を希望した以上、千歳基地に下りる理由を作らなければならない。そこで札幌駐屯地の北部方面総監部に寄って先に戦況の報告文書を確認することにした。ところがパジェロを断られた陸上の担当者が余計な情報を口にした。
「そう言えばモリヤ2佐は前川原の部外70期でしたよね。防大なら33期に相当する。ならば末広総監とは同期じゃあないですか」「ゲッ・・・札幌へは行きたくないな。業1(業務車1号)で旭川まで送ってもらうのは無理かな」私は前川原の幹部候補生学校では紛れ込んだ異端者扱いで防衛大学校出身者たちには相手にされていなかった。逆に才色兼備の伊藤佳織候補生は絶大な人気で、そのマドンナが憧れているのが異端者だと知られると勝手に敵視されるようになった。それに任官後の出来ちゃった婚が追い討ちをかけている上、退官後に離婚したとなると梢を連れて面会するのは剣呑だ。やはり君子危うきに近づかずだろう。
「だったらやっぱりUー2を旭川まで飛ばしましょう。大丈夫、陸幕や陸の総隊司(司令部)の幕僚が現地視察に行く調整を入れていますから同乗になります」公務に私的事情を持ち込むのは幹部自衛官には許されない態度だが、私は日本の検察官としての分別をまだ自己に確立していなかった。
「今回、現地で確認したいのは旭川と帯広の警務隊の捕虜尋問調書の原本と捕虜収容所の建物と生活環境、可能であれば捕虜とも面談したい。その後は稚内と遠軽、網走と道東全域の戦場に行って戦闘の様相をこの目で確かめたい。そして戦死者の埋葬地にも参って自衛隊が実施した追悼儀礼についても実施者の話を聞きたい」「モリヤ2佐なら法要も勤めていただけそうですね」私は東北地区太平洋沖地震で災害派遣された自衛隊が運ばれる犠牲者の遺骸に手を合わせている場面が新聞に載り、それをキリスト教の牧師が「公的機関による宗教行為=憲法違反だ」と非難したことを受けて民政党の缶政権が遺骸安置所で線香を焚くことさえも禁止したのを無視して供養の読経を勤めて回った。その行動が10年以上経過した現在も語り継がれているとは思えないが、陸上自衛隊の担当者は意外な期待を表明した。それはおそらく作務衣に威儀細を掛けている私を坊主と認めたのだろう。しかし、現在の私は陸上幕僚監部法務官室で勤務していた頃の弁護士資格を有する2等陸佐の気分に戻っていて、作務衣よりも迷彩服の方が似合うかも知れない。
  1. 2023/07/11(火) 15:26:56|
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