fc2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ562

「戦闘行動としては敵を殺傷するのは当然としても自衛隊はあくまでも治安出動の警察権の行使として武器を使用しているのですから不法入国と食料を奪った窃盗の罪で射殺するのは私が提訴された刑法199条の殺人罪とは言わないまでも刑法195条の特別公務員暴行凌辱罪が成立する可能性は十分にありますね」演習場での空襲による損害の確認を終えた私たちは遠軽駐屯地に向かって第25普通科連隊と第3地対艦ミサイル連隊の関係者から戦況と損害の説明を受けた。すると2日前に視察に訪れた陸上総隊幕僚長さま御一行に披露した戦果報告を流用したようで説明する第25普通科連隊の3科長はロシア軍に占領された網走市内に潜入した隊員が食料を求めてスーパーマーケットやコンビニエンスストアに押し入ったロシア兵を射殺したことを誇らしげに紹介した。その表情に昭和の軍人に通じる傲慢さを感じた私はあえて冷水を浴びせた。敗戦後から現代までの日本の戦争映画やドラマでは帝国陸軍の軍人を腹黒く功名心に逸って無謀な戦闘を繰り広げた極悪人として描いているが、そのような役者の演技でなくても本人の肖像写真を見ると好戦的で権謀術数にだけ長けた雰囲気の俗物が多い。それは帝国海軍も同様でこちらは紳士気取りの遊び人風だ。その癖、映画では海軍ばかりが英雄扱いなのは偏見だろう。
「そうなると終戦後にはウチの隊員、我々を含めて我が連隊の人間は戦犯として逮捕されるのかね」「戦争法違反の戦犯と言うよりも日本の刑法犯でしょう。それは帰国者の私よりも警務隊長の方が専門です」いきなり話を振られた警務隊長は出席者に視線を浴びせられて口を「へ」の字に曲げて押し黙った。
「それでは我々が大型フェリーを撃沈して乗っていた1000人を超えるロシア軍将兵を殺したのも犯罪になりますか」私の指摘に隣りの席の第3地対艦ミサイル連隊の3科長が重い口調で質問してきた。先ほども現地説明に来た3科の運用訓練幕僚も似たような不安を口にしたので、これは部隊で共有している加害者意識なのかも知れない。
「日清戦争中の明治27年7月25日に東郷平八郎少将は黄海の豊島沖で清国艦隊を発見して攻撃しましたが、降伏勧告を受けたイギリス船籍の貨物船の高陞が『乗っている清国兵の脅迫を受けて降伏できない』と回答したので撃沈したんです。その時、イギリス人の乗組員は救助しても清国兵1100名の大半は死亡しました。その時、イギリスの顔色を窺う日本政府とマスコミは東郷少将を解任して軍法会議にかけようとしましたが、イギリスの国際法の権威が東郷少将の措置の適法性を説明して極東の日本にも国際法が周知されていることが判って感激したと賞賛したんです。日本ではウォー・ロー(戦争法)を戦時国際法と呼んでいますが適用されるのは戦時だけではない。海上では国際法が優先されることが多いが日本国内では戦時規定を持たない国内法になる。そこが難しいところだ」折角、冷水を浴びせて反省させている第25普通科連隊の出席者の中途半端な助け舟にならないように後半の解説を付け加えた。
「私の経験上、マスコミの取材には要注意ですな。マスコミが犯罪者扱いして報道すれば現場での発生経緯は無視してそれが事実になってしまう。それを政治的に利用しようと虎視眈々と狙っている奴はどこにでも潜んでいるんだ」「モリヤ2佐の時は徳島水子でしたね」「今なら湧水元太かも知れないな」私の助言に黙っていた第25普通科連隊の出席者たちが同調した。確かに私を殺人犯として告発したのは人権派弁護士でもある社人党の徳島水子党首だった。しかし、立権民衆党の湧水代表は京都の名門大学の法学部卒でも弁護士の経験はないはずなので司法を政治利用するかは未知数だ。
「実は道(北海道庁)から在札幌のマスコミ各社の記者団の取材を受け入れて欲しいと言う要請が入っていて連隊としては応じるつもりなんですが」ここで第25普通科連隊の1科長の3佐が部外者である私に不可解な説明をしてきた。私としては責任ある回答はできないが北キボールPKOでの刑事訴訟、さらにイージス護衛艦と漁船の衝突事故の海難訴訟でマスコミと全面対決してきた経験で助言はできる。
「最初に自衛官が犠牲になった現場を自衛官の案内で取材させることです。本当は航空自衛隊の高射群が全滅した根室から始めるのが効果的ですが」「北方は2師団からと言っているので・・・」所詮、専門外の部外者の助言は却下された。
  1. 2023/07/30(日) 13:57:29|
  2. 夜の連続小説9
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<太陰暦の7月晦日=末日・妖怪・不知火が現れる日 | ホーム | 7月30日・偉大なる鉄血宰相・ビスマルク宰相の命日>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/8580-0d13b0f6
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)