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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ567

「ロシア軍は航空自衛隊が防空体制を再編してからはヘリによる空輸は諦めて離島航路の連絡船や漁船を使っての人員や弾薬、食料の補給に切り替えました。したがって第6即応起動連隊は知床半島から北の海岸線防備と道東からの侵入者の警戒と阻止戦闘に当たっていました。ここが当時の配置場所です」翌朝は第6即応起動連隊の幕僚による戦況説明になった。これには第121地区警務隊長の伊倉2佐だけでなく第119地区警務隊長の増田2佐も旭川への出発を後らせて参加していた。それにしても遠軽駐屯地の第25普通科連隊と第3地対艦ミサイル連隊も2佐の副連隊長と各科長を出席させても1佐の連隊長が顔を出さなかった。これは両警務隊長だけでなく私も元2佐なので陸上自衛隊式に「格下相手の説明会に出席する必要はない」と考えたのかも知れない。しかし、現在の私は最高検察庁に所属する検事の資格で現地調査しているのであり、元2佐は過去の話だ。
「道東地区で対人地雷POM3がヘリによって大量に散布されたため甚大な損害が出ているように承知していますが、航空自衛隊はこの攻撃ヘリを見逃したのですか」「カモフ52攻撃ヘリは釧路演習場に展開している移動警戒隊のレーダーが捕捉できない海面ギリギリの超低空を飛行してきて5旅団の主力が展開している別海町以南に敷き詰めました。それも5旅団が携SAM(携帯式地対空誘導弾)でかなり撃墜しましたから開戦初頭だけです」第6即応起動連隊の幕僚も第5旅団司令部から詳細に説明を受けているようで陸上自衛隊ではあまり聞かない航空自衛隊の防空戦闘を具体的に解説した。
「網走では上陸部隊が飢餓状態に陥って戦死した同僚の遺骸を食べる惨劇が起こりましたが、斜里から網走は40キロ程度だから漁船で物資を運べるなら食料を届けるべきでしょう。それはなかったのですか」「第5旅団はロシア軍が連絡船による戦車部隊の揚陸を断念してからは海岸線に戦車を配置して沖を通過する船舶を砲撃しました。さらに自走榴弾砲を配備したため防御は強力になって海上輸送も不可能になりました」「それでもロシア軍は道東の農家の耕作地の作物で喰いつないでいましたから網走のような事態にはならなかったようです」私の質問には3科長と1科長が答えた。
稚内から遠軽に向かう車内で増田2佐に聞いた話では第2師団も樺太からの漁船による斥候や工作員の潜入を察知して戦車と自走榴弾砲を海岸線に配置しただけでなく下志津駐屯地の高射学校=高射教導連隊と土浦駐屯地の武器学校以外では第7師団と第2師団しか保有していない87式自走高射機関砲も要点配備したため漁船とヘリコプターは完璧に遮断されていた。それも網走の惨状の理由の1つだろう。
「それで道東地区からの侵入者はどのくらいいたのですか」「標津と中標津での捜索と制圧が本格化すると漁港に残置している漁船を奪って逃走を図る者が続出しましたが、海岸線の戦車に撃沈されたため内陸部へ逃亡するようになったんです。奴らは阿寒湖や摩周湖の湖岸にある観光ホテルを狙っていたようですが移動手段が徒歩だったので辿り着く前に発見されて抵抗した28名は射殺、72名は負傷、53名が投降しました」「この他に会戦後の捜索で熊に襲われたと思われる遺骸が31体発見されています」「戦死者よりも多いんだね」私の返事に第6即応起動連隊の幕僚たちは重い表情でうなずいた。
2015年9月26日に遠軽に隣接する紋別で体重400キロを超える巨大な樋熊が射殺されているが人的被害はなく、樋熊による人間の殺傷と捕食の事件としては丁度百年前の大正4年の12月9日から道北日本海側の苫別町三毛別で始まった7名死亡、3名重傷の方が重大だった。北海道では昭和50年に樋熊を害獣に指定して冬眠から覚めて動きが鈍い個体を駆除する絶滅化政策を推進していたが社会党の道知事が保護に転換したため頭数が増加して環境保護運動の舞台になっている道東では主人のようになっている。
「網走では人間が人間の肉を喰い、道東では樋熊に人間が喰われる。ウクライナのような住民虐殺は見ないですんだが残酷劇からは逃れられないようだな」議論の締め括りは私がつけた。ライオンが人間を食べるシーンが売り物だったドキュメンタリー映画「グレート・ハンティング」は昭和50年公開、巨大灰色熊の猛威を描いた駄作の動物パニック映画「グリズリー」は昭和51年公開なのでこの中で見たのは私だけだろう。映画館通いに励んだ梢とも見ていない。
熊出没注意
  1. 2023/08/04(金) 14:15:07|
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