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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ571

「おッ、足寄(あしょろ)じゃあないか」「足寄って松山千春の出身地でしょう」根室分屯基地と矢臼別演習場に設置している第5旅団の地下司令部壕に寄ってから深い針葉樹林を抜けて帯広駐屯地に向かった。すると途中の本別町内の行先表示板には「足寄」の地名があった。私や梢の世代には「足寄」と言えばフォーク歌手の松山千春の出身地だ。私が好きなさだまさしは長崎、梢が好きな南こうせつは大分とどちらも九州出身だが北海道で勤務している同期たちは松山千春と中島みゆきの熱狂的なファンが多く、ライブのテープを借りて聴いたので歌の合間に語る地元への熱い思いは知っているつもりだ。
「足寄なんて何もなくて滅茶苦茶寒いから部屋にこもってギターを弾くくらいしかやることがなかったんだろう」「足寄町は町としては日本一広いんです。平成の大合併で岐阜県の飛騨高山市が周囲の9町村を吸収するまでは市町村でも日本一でしたが、今は6番目だったかな」後席で私と梢が盛り上がると警務隊長が水を差し、代わって運転手の陸曹が参加してきた。警務隊長は美幌駐屯地での雑談で「フォーク・ソングは反戦歌が多いから嫌い」だと吐き捨てていた。この見解は佳織と別れて縁が切れてしまった岐阜県可児市のローカルFM放送のDJ・昭和一郎こと島田信長元准尉からも聞いたことがある。
そう言えばオランダに出発する前に警務幹部を職種兼務することになって親しくなった警務隊本部の面々と飲みに行くとカラオケでは舟木一夫の「銭形平次」や野際陽子が唄っていたキーハンターの主題歌「非情のライセンス」などの捕物帳、刑事ドラマのオンパレードになった。中でもしまざき由理のGメン75のエンディング・テーマ「面影」では鼻をすする者までいた。同じ警務隊長でも大らかな増田2佐とは違って陰気と言うよりも陰湿な風貌の伊倉2佐は一人で黙って「面影」を聞いていそうな気がする。
「拘置所にしては随分開けっぴろげですね」「小中学校を間借りしてるから仕方ないだろう」帯広に開設した第5旅団の捕虜収容所はロシア軍の対人地雷の使用などを日本の国内法で刑事告発する予定なので未決囚を収監する臨時拘置所として法務省に申請している。その臨時拘置所は第2師団が旭川市内でも山間部にある江団別小中学校に開設した捕虜収容所に倣い、帯広市郊外の大野小学校と三千代中学校を借用している。ただし、江団別小中学校は同一校なので校舎は1つだったが、こちらは隣接していても校舎、校庭、体育館などは別々だ。おまけに江団別小中学校には大人の腰までの高さの安全な外柵があったが、こちらの小学校と中学校にはところどころに生け垣があるだけだ。それでも学校の周囲は見渡す限りの畑で隠れる場所がないだけに逃亡するには苦労するはずだ。管理運営しているのは旭川の第52普通科連隊の第2中隊と同じく第3中隊の即応予備自衛官なので資質や練度に格差はないと思われる。ただし、航空自衛隊の警備の神さまの我が同期・森田敬作定年2佐の息子と言う隠し玉はない。
「我々は軍の命令に従ったのであって個人的な殺意で対人地雷を散布した訳ではない。正当な戦闘行為を遂行した者を犯罪者扱いするのは捕虜の待遇に関する1948年8月12日のジュネーブ条約が禁ずる屈辱的取り扱いである」施設の見学の後はここでも捕虜の代表者と面談した。最初は別海上空で普通科連隊に携帯SAMで撃墜された攻撃ヘリコプターのパイロットの大尉で今回も梢が通訳した。
「A級戦犯のニュルンベルグ裁判と東京裁判、通常戦争犯罪者のB・C級裁判で軍人には組織の命令であっても誰もが違法と判断できる行為を拒否する義務が判例として確定している。ロシアはオタワ条約に署名していなくても日本は1998年9月30日に批准しているから平時の日本国内では対人地雷の使用は違法行為だ。ロシア陸軍の将校である君は当然、知っていたのだろう」これは国際法の運用論法としては詭弁に近いが、司法としての事情聴取ではない以上、反抗する者を叩いておいても問題はない。私は第2次大戦後の東京裁判で日ソ不可侵条約の破棄猶予期間を一方的に破って満州と樺太、千島列島に侵攻しておきながら戦勝国として日本を裁く側の席に座ったソビエト連邦=ロシアの欺瞞性を追求する準備は整えている。私としては第5旅団長の意向を受けて伊倉2佐が決断した国際法上の正当な戦闘を日本の国内法での違法行為とする司法戦術を試してみるために協力することにした。確かに国際法に携わってきた者としては興味深い。
  1. 2023/08/08(火) 14:20:44|
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