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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ576

「ノザキ佳織と言うのは何者なんだ」「先頃、退職した陸将補です。退官時の役職は陸上自衛隊教育訓練本部の部長だったと思います」東京では石田首相が激怒して立野官房長官を問い詰めていた。石田首相としては地元・広島の国営放送が現在の自衛隊の防衛行動を「平和都市・ヒロシマ選出の石田首相が主導する戦争」と批判の度を強め、最近は東京の大手新聞まで同調し始めていることから安全保障理事会で和平協議を提案し、アメリカと韓国に停戦交渉の仲介を依頼するつもりだった。ところが派閥の継承の餌に命令に従わせようとした双木外務大臣は閣議決定さえも拒否し、釜田防衛大臣と共同で防衛行動を推進しているのだ。そんな中で突如としてノザキ佳織元将補と呼ばれる女がアメリカのマスコミに登場して石田首相が政治的影響力で海外には隠蔽させている武力抗争の経緯と戦闘の実態を暴露するだけでなく日米安全保障条約の即時発動を要求し始めた。
「本当に元自衛官なのか。女の将軍なんていたのか」ノザキ元将補は現役時代にはモリヤ姓だったが、幹部候補生学校長兼前川原駐屯地司令だった頃には「女城主」として何度もマスコミに取り上げられたことがある。何よりも陸上自衛隊では唯一だが、航空自衛隊では同じく術科学校長を兼務する基地司令の空将補が複数存在している。要するに石田首相は防衛問題に疎(うと)い以前に自衛隊に関心がなかったのだ。
「しかし、元とは言え自衛官が個人的見解を海外のマスコミで公言することは許し難い。服務規律違反として発言を禁止することはできないのか」「彼女が防衛秘密を漏らせば自衛隊法の守秘義務違反で処罰対象になりますが、現時点では国内で報道されていながら海外には発信していない内容ばかりです。彼女は通信幹部出身らしいので防衛秘密の取り扱いに関しては熟練しているのでしょう。むしろ発言を禁ずれば新潟でのイギリス人記者の殺害と拉致事件以降、関心を強めている海外マスコミの情報を隠蔽しているとの批判を激化させることになります」立野官房長官は内々に釜田防衛大臣から「モリヤ将補を退職させて海外で情報発信に当たらせる」と言う統合幕僚長の意向を聞いていて極めて特異な経歴についても説明を受けていた。
「何より彼女は退官後にアメリカに帰化して現在はハワイ日系人協会の理事になっていますからアメリカは海外ではなんです」「だからって黒紋付の喪服でインタビューを受けなくても良さそうなものだが・・・」「特例で制服の着用を認めますか。自衛官時代の自制心を思い出すかも知れませんよ」立野官房長官の返事は皮肉だった。陸将補の階級章を付けた自衛隊の制服で語ってもらえば政治的効果はむしろ強化される。
「あの女性自衛官の見解は政府の方針に反している。それが我々にとっての海外で広まるのは重大な政治問題だろう」「彼女の発言は政府の方針に反していますか。日本政府としては我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つことに全力を尽くすのが政治方針じゃあないのですか」旧加部派の立野官房長官は公的な立場上、首相の側近として意向に沿った言動を心掛けているがロシア軍が介入して一部とは言え本土が占領されても地元の反戦世論に迎合して防衛出動に踏み切らない弱腰には内心では愛想を尽かしていた。
「我が国は日本国憲法で戦争を放棄している。防衛出動は降伏との二者択一の最終手段だ」「それを記者会見で国民に説明しませんか」あえて感情を押し殺した立野官房長官の見放したような返事に石田首相は顔を唇を嚙んで視線を落とした。
石田首相も自衛隊の最高指揮官として防衛出動を発令して可能な限りの対処を実施させたい気持ちは僅かながら抱いている。しかし、沖縄が沖縄戦の舞台になった沖縄本島と中国の脅威に直面している八重山・先島では島民の危機意識が真逆なように被爆地の広島市と帝国海軍の鎮守府が置かれ、現在も海上自衛隊の地方総監部が所在する呉市では世論は全く違うのだが、2023年のG7サミット以降、国営放送が主導する地元マスコミは広島県全体を「平和都市」一色に染め上げようとしているため選挙区の有権者に現実を説明することすらできないでいる。前回の衆議院選挙の現職の首相とは思えない僅差での勝利は自民党本部で開票速報を見ている石田首相に直前の横浜市長選挙で自民党の候補がカジノ構想反対一色の世論に乗った大学教授に敗北したことで「落選による退陣」の前例を作ることを避けた管(くだ)首相の辞任を思い出させていた。
  1. 2023/08/13(日) 14:37:39|
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