fc2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ582

「何かあったのかしら・・・横田基地が厳戒態勢になってるわ」北海道から戻ってからの防衛省・自衛隊は異様に緊張が高まっていて部外者の市ヶ谷地区への立ち入りが厳しく制限されている。OBで法務省検事の私も警務隊本部や統合幕僚監部での調査の緊急性が認められず、顔を出すだけだった本来の職場で資料の整理と分析に励むことになった。そんな中、帰宅した私に梢が待ちかねたように報告してきた。
「憲兵隊のパトカーが機関銃を載せたハンヴィーになったのよ」「それは大変だ」在日アメリカ軍では警備態勢の段階によって保安業務に当たる憲兵隊の装備や対応が変わる。平時には実弾を込めた拳銃を携帯していても服装は通常の迷彩服で頭も空軍であれば黒のベレー帽、海兵隊ならマリーン・キャップだ。それが平時として警備を強化する必要が生じると拳銃が小銃の吊れ銃になり、防弾チョッキと防弾ヘルメットを着用して巡察車両は昔ならジープ、現在ならハンヴィーになる。そして準・戦時態勢に移行するとハンヴィーの後部荷台には弾丸のベルトを付けた機関銃を載せて1名が構えたまま走行し、憲兵たちも小銃を腕に抱えて応戦可能な姿勢で行動する。
それだけでなく平時の警備の強化までは自衛隊と大差がない武器の使用権限が準・戦時態勢では戦闘行動にまで強化されて不審者に発砲することが可能になり、基地の要所には指向式散弾地雷・クレイモアが設置されてこちらも監視カメラでの状況判断で作動させることができる。実際、在日アメリカ軍は日本の国内法では事実上、平時の武器の使用は不可能なため不審者の拘束には随伴した警備犬を目の前で呻らせて威嚇しながら「抵抗せずに指示に従え。従わない場合はこの犬を放す。この犬は極めて凶暴なので君を嚙み殺すことは容易だ。尚、犬を放すのは武器使用には当たらない」と警告を与えている。確かにアメリカ軍の警備犬・ベルジャン・マラノイ=ベルギー・シェパードは顎の力が日本の警察や自衛隊が使っているドイツ・シェパードの3倍の強さで標識に嚙みついて折ってしまうこともある。さらに凶暴性と攻撃力も比較にならず猟犬として飼育しているベルギー王室では犬が獲物を捕獲・殺害してしまうため「狩猟にならない」と嘆いているらしい。
一方、アメリカ軍は日本の治安状況とは関わりなく安全保障上の理由で警備態勢を強化することがあり、9・11テロの時には世界中のアメリカ軍基地に準・戦時態勢への移行が発令され、在日アメリカ軍でも憲兵隊は機関銃を載せたジープで巡察していた。そこに何も知らない日本人が不法侵入すればクレイモアの餌食になった可能性もあった。
「ニュースです。釜田防衛大臣が囲み取材で日本海を横切っていたロシア軍の艦隊を航空機が撃沈したことを明らかにしました。状況が整理できるまで公式発表も控えるとのことです」梢が夕食の支度をしている間に点けた民放のニュースでは最近は定番になっている新潟方面の奪還作戦に関連するニュースだった。日本のマスコミは記者が危険な地域への派遣や取材を拒否している上、在日の海外マスコミからはこれまでの解説が中国やロシアの請け売りだったことが明らかになったため協力関係は破綻し、官房長官や防衛大臣の定期記者会見以外に情報源がなくなっている。そのため防衛省記者クラブに加盟している記者たちは立ち入りが許可されている本館庁舎1階のトビーに数人がたむろし、食事や雑用に向かう釜田防衛大臣を取り囲んで取材を始めるが、質問するための知識を持ち合わせていなかった。今回も日本海を横断してきた輸送艦隊が新潟方面の地上戦力の補充が目的であることには思いが至らず輸送艦の隻数や積み荷の種類と数量を確認しなかった。何よりも戦果を収めた航空機も「加害者」としか認識しておらず、所属が航空自衛隊なのか海上自衛隊なのかに興味を示さなかった。
「横田が唐突に警備態勢を強化したところを見るとロシアの輸送艦隊はアメリカ軍が殺ったのかも知れないな」「この間、志緒が言っていた義勇軍の話ね」私の大き目の独り言に台所の梢が答えた。しかし、在日アメリカ軍の義勇軍としての参戦が現実になれば無能極まりない日本のマスコミも報道するはずだ。何よりも我が家でも視聴している海外駐留アメリカ軍のAFN放送が取り上げないはずがない。
「志緒は何か知らないかな。メールしてみよう」頭の中で横田基地の臨戦態勢とニュースが結びついた私は座卓に置いてあるスマートホンを取って志緒のアドレスを打ち込んだ。
航空自衛隊怪僧記・ベルジャン・マラノイアメリカ海兵隊のベルジャン・マラノイ
  1. 2023/08/19(土) 15:00:07|
  2. 夜の連続小説9
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<8月19日・飛行船・ツェッペリン伯号が霞ケ浦に着陸した。 | ホーム | 8月19日・浜松基地が舞台・全日空アカシア号ハイジャック事件>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/8620-aa6296d8
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)