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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ588

「首相はあくまでも防衛出動を発令しないつもりらしいな」「官房長官と外務大臣、防衛大臣が閣議で説得しても全く耳を貸さないようです。もっとも釜田大臣はオン・ライン参加ですが」統合幕僚監部では陸海空幕僚長と陸空総隊司令官に自衛艦隊司令官を招集して新潟方面での攻勢作戦の思想統一の会議が開かれていた。出席者は東京大学卒の統合幕僚長以外は全員が防衛大学校出身で期別も近く、思想統一よりもむしろ多角的な視点からの作戦の再検証が会議の趣旨だった。自衛隊としては北海道に上陸したロシア軍が比較的小規模だったにも関わらず防衛出動が発令されず治安出動を根拠に警察権の行使としての武器使用に限定されたことが制圧に時間を要した原因と評価しているので釜田防衛大臣だけでなく旧加部派の立野官房長官や元防衛大臣の双木外務大臣にも嘆願しているのだが、石田内閣では主要閣僚を自衛隊の防衛行動には否定的な石田派が独占していて旧加部派は国務大臣の長官ばかりなので発言力が弱いのだ。
「双木外務大臣は石田派内で孤立してしまって派閥の継承は不可能だって言われてるよ」「日本の首相は能力で決まるんじゃあないんだよな」「それを言ったら天皇もだろう」会議の出だしの雑談が失望の披歴になったため発言が将官とは思えない暴論に及んでしまった。発言者はあえて特定しなかったが大半の出席者は小さくうなずいていた。
明治天皇は尊皇攘夷の狂気に駆られて討幕した薩長の元勲たちが「ロシアの極東進出は日本の植民地化が目的」と決めつけて開戦を前提に国策を進めている中、最終決定する御前会議で「四方の海 皆同胞と 想う世に 何故波風の 立ち騒ぐらむ」と言う御製を詠み上げて開戦の回避の意志を表明した。昭和天皇も「日米開戦止む無し」とする御前会議でこの御製を詠み上げて日米交渉の継続を促した。確かに日露戦争前のロシアの狙いは満州と朝鮮半島北部の支配権の奪取であって海を越えて日本に侵略するつもりはなかった。実際、ロシア皇帝は日本との対立を打開するため全面譲歩の調停案を示したのだが、戦争による利権を獲得を画策するアレクセーエフ極東総督が訓電を握り潰した。一方、日米開戦はヨーロッパ戦線へのアメリカの参戦を望むイギリスのチャーチル首相がアメリカのルーズベルト大統領と結託して日本を執拗に挑発した結果なので回避するには日本が日清戦争以降、国是としてきた大陸進出を放棄しなければならなかった。ただし、逆に中国からは撤退してもその戦力で東南アジアに進攻してヨーロッパの植民地を解放する壮大な戦略はあり得た。ところが今の天皇は日本が現実に侵略を受けているにも関わらず父親から吹き込まれた護憲的反戦平和を公言して石田首相が防衛出動を拒否する根拠=大御心を与えている。しかし、日本の周囲には明治天皇が御製で詠った「はらから」や日本国憲法前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義」は存在しない。
「ロシア軍は装備、兵員の輸送に失敗して抵抗する戦力がないので侵攻時に大量に持ち込んだ地雷を各地に設置しているようです。それでもヘリコプターがないのでPOM3も手作業です」話題が作戦の再確認になると陸上総隊司令官が懸案事項を説明した。北海道でも道東の根釧台地には国後島から飛来したヘリコプターが大量にバラ撒いた対人地雷・POM3によって人間の徒歩の振動で作動する特殊な機能を知らなかった陸上自衛隊が死傷者多数を出した。ところが今回は日本海を横断して来るロシア軍のヘリコプターを航空自衛隊の戦闘機や海上自衛隊の護衛艦が粗方撃墜した上、陸上自衛隊のゲリラ部隊が携帯式SAMや空港に駐機中に銃撃して在庫処分したため空を飛ぶロシア軍機は存在しなくなっている。統合幕僚監部としては繰り返し投降を呼びかけているがロシア軍上陸部隊の指揮官は回答も返信してこない。
「ところで山形から侵攻する戦車は車道を縦列で走らなければならないのか」「平原では横一線に並んで射ち合うのが戦車戦の基本だろう。農家には悪いが田圃を踏み荒らすことになるな」昭和生まれの将官たちは第2次世界大戦の北アフリカやヨーロッパ戦線を描いた戦争映画を見ているが舞台になっている平原は北アフリカの砂漠やロシアの荒野でノルマンディーに上陸した連合軍とナチス・ドイツ軍の戦車が小麦畑を踏み荒らしながら砲火を交わしている場面は記憶にない。日本映画でも「戦争と人間」にはノモンハン事件の日ソの戦車戦が少しだけ描かれていたが全くの迫力不足だった。
  1. 2023/08/25(金) 15:07:40|
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