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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ589

「このままでは総理は選挙で落選することを惧れて侵略を受けながら防衛出動を発令せず、自衛隊が勇戦敢闘しているにも関わらず無条件降伏した売国、亡国の首相として東條英機以上の悪名を日本史に刻むことになりますよ」「私も辞任して政界を引退するように勧めているんですが、加部総理が一度目の政権を持病の悪化で投げ出したことを後悔していたのを聞いたから退陣はできないって言い張ってるのです」統合幕僚監部が新潟方面での反攻作戦を決定して釜田防衛大臣を通じて立野官房長官に届けるとその足で隣接する首相公邸に向かい玄関ホールのソファーで石田首相の妻と面談した。
石田夫人は政治家の娘ではなく父親は広島県内有数の不動産経営者でマツダ=東洋工業の副社長の役員秘書を務めている時に見合い結婚した。そのため政治家を生業として育ち、他に生活の術を知らない多くの政治家の妻ほどは国会議員と言う職業や内閣総理大臣の地位に執着していない。その点は大手製菓会社の社長の娘の故・加倍元首相の妻と共通しているが、加倍元首相自身は父方の祖父は戦前の衆議院議員で母方の祖父は日米安全法条約の改定を成し遂げた「昭和の妖怪」と呼ばれる元首相、大叔父も長期政権を維持した首相、そして次期首相候補の筆頭と目されながら病に倒れた父親を持つ由緒正しい政治家家系なのに対して石田首相の父親も政治家ではなく通商産業省の官僚だった。
「兎に角、主人はロシアに『広島に2発目の核弾頭を射ち込む』と言われてからは一刻も早く戦争を止めることしか考えなくなって、おまけに前回の選挙で想定外に苦戦したから生き恥を晒す危機感も加わって地元のマスコミ、特に国営放送が言うままの考え方しかできなくっているんです」石田夫人の説明に立野官房長官は苦渋を大量に飲まされたような気分になり、出されたコーヒーを多めにすすった。
かつて加倍政権の官房長官から後任になった管(くだ)首相は選挙区の横浜市の市長選挙で国会議員を辞職して立候補した自民党県連の会長が大敗したため落選による退陣と言う恥辱を避けて唐突に辞任した。しかし、石田首相がこの危機感を語る時には昭和58年に現職の防衛庁長官が呉基地も所在する広島県2区で落選して辞任した実例がある。
「広島の国営放送はG7サミットの時の偏向報道も酷かったですが、中国地方限定の報道番組では2発目発言を利用して県民の危機感を煽り立てて原因は総理が指揮する自衛隊の敵対行動が原因と断定してるんですよね。G7サミットではウクライナの大統領が出席して軍事支援の継続に合意しましたが、8月の原爆の日に向けた特集番組では『ウクライナ政府が抵抗するから国民は多大な犠牲を強いられている。昔はソビエト連邦の一部だったんだから元に戻れば良いんだ』と広島市の要職にある者が公言していたでしょう。最近の国営放送はインタビューを受けた発言は出演者個人の見解であって番組の政治的偏向には当たらないと詭弁を弄するようになっていて、広島の自衛隊にローカル番組を監視させているんです」岸田夫人も本来は政治家の妻として選挙区での支持者の維持のために奔走しなければならないのだが日本の危機に陣頭指揮しているはずの夫を支えることを優先している。そんな苦労を理解してくれているような立野官房長官の言葉に少し目を潤ませた。
「私も女房役と呼ばれる仕事をしていますから判りますが、総理はそろそろ限界でしょう。このままでは小渕総理のようになってしまいますよ」「やはりそう感じますか。実は私も不安になってるんです」立野官房長官の指摘に石田夫人も胸の中に抱えている不安を率直に投げ返した。石田夫人にとっては選挙で落選して退陣したかつての防衛庁長官よりも2000年に現職のまま脳梗塞で倒れ、1ヶ月半意識を取り戻すことなく集中治療室で亡くなった小渕首相と同じ道を辿ることの方が切実な問題だった。
「先ほど奥さんが言われたように総理は健康上の理由での退陣は絶対に受けつけないでしょう。そうなると・・・」「私にできることがあれば言って下さい」立野官房長官の重い口調を押し返すように石田夫人は答えを求めた。
実は自衛隊の上層部からも冗談めかして5・15事件式の暗殺クーデターや移動中の事故の工作などが提案されることがある。当然、本気ではないだろうが平和都市・ヒロシマを選挙区にする首相の存在が国家を破滅の危機に陥らせているのは確かだ。
  1. 2023/08/26(土) 15:42:29|
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