「いよいよ市街戦になるな」「先ずは偵察隊を前面に出します」山間部に末広がりになっている平地を南下して村上市内に差し掛かった東北方面隊と北海道から運んだ戦車部隊の混成戦闘団・ヨシアキでも第6師団の副師団長が指揮を執っていた。ただし、師団幕僚長は1佐でも副師団長は将補だ。第6師団は山形県の中央部の神町駐屯地に師団司令部を置くが、東北の武将と言えば実は米沢出身の独眼竜・伊達政宗であり、名君なら上杉鷹山になるはずだ。ところが山形県民の間では安土桃山から江戸初期まで米沢を除く現在の山形県全域を支配した最上義光(よしあき)の人気が根強い。その最上義光は伊達政宗と出羽国の覇権を争い、実妹で政宗の生母の義の方に毒殺を唆した悪役としてドラマや小説で描かれるため他県ではこの人気が理解されにくい。
「POM3キラーを試してみよう」「ウクライナ軍に供与するためにイギリスが開発した秘密兵器ですね」「これが我が国では初めての実用試験になります」今回、南から進攻するケンシンと北からのヨシアキには勝田駐屯地の施設学校・施設教導隊の地雷排除の専門家が派遣されている。施設教導隊はイギリス軍が義勇軍への志願者に紛れ込ませた工兵隊員からロシア軍の対人地雷POM3を誤作動させる新兵器を入手していた。POM3は人間が歩く地面や床の振動を遠隔式センサーが感知して作動するため通常の対人地雷のように信管や地面に張ってあるワイヤーを探す排除方法では発見できない。そこでイギリス軍は秘密裏に人工的に振動を発生させて誤作動させる機材を開発してウクライナ軍に供与して実戦での実用試験を繰り返していたらしい。
「イギリス軍の話では人工的な振動と実際の人間の歩調では何かが違うようで中々センサーに勘違いさせられないそうです」「まだ信頼性は低いと言うことだな」「ヨーロッパ人と日本人では歩幅と歩調がかなり違うだろう。それでも5旅団ではかなり損害を出している。厄介な兵器を開発したものだ」施設学校・移設教導隊としてはウクライナでPOM3が使われ、ウクライナ兵だけでなく文民=市民にも死傷者が出ていると言う情報を受けて調査に着手したが、アメリカ軍でさえ対人地雷の禁止が世界的風潮になっている中で国際連合の常任理事国のロシアが新たな対人地雷を開発するとは思っておらず、現物の入手に躍起になっていた。一方、イギリス軍はアメリカ軍が撤退した後のアフガニスタンでタリバーンの攻勢に苦慮したロシア軍が新型の対人地雷を使用し始めたとの噂を耳にすると持ち前の調査能力を発揮して先行的に研究を始めていたようだ。その点、陸上自衛隊は1999年3月1日に日本で対人地雷の使用、貯蔵、生産及び移譲の禁止並びに破棄に関する条約=オタワ条約が発効して以降はアメリカやロシア、中国、北朝鮮と韓国などの周辺国が調印していないにも関わらず反戦平和団体やマスコミはそれが世界が共有するようになる新たな正義のように喧伝したため対人地雷を研究することさえ許されなかった。第5旅団が出した犠牲の加害者はロシア軍だけではない。
「そう言えば柏崎市ではブービートラップ用の手榴弾も使っていたようです。隊員が割れたガラスの破片で軽傷を負いました」「ロシアは特定通常兵器禁止条約には加盟しているだろう」「はい、当時はソ連でしたが」「それが連合国としての常任理事国の矜持と責任なんだな・・・」戦闘団長=副師団長の重い所見にこちらは第6師団指揮所に併設されている戦闘団指揮所の面々も沈鬱な顔で黙り込んだ。
確かにソビエト連邦は国際連合が1945年10月24日に創設された時に連合国=戦勝国の一員として参加した責任と誇りに於いてアメリカやイギリス、ついでにフランスと対峙しながらも戦略核兵器削減条約などを推進してきたが、ロシアになってからは中国共産党と手を組んでアカラサマに第2世界大戦後の世界秩序の破壊を画策してきた。その仕上が常任理事国を目指す旧敵国=敗戦国・日本の消滅だ。
「このままいくと本当に日本への核兵器の使用があり得ますね」「新潟は3発目の核兵器使用予天地だったからな」戦闘団長の言葉はさらに重くなった。対米英中戦争戦末期、アメリカは3発の原子爆弾を完成させていた。その3発目を使用する予定地は新潟で予備は京都だった。ロシアと中国の名代の北朝鮮が通常弾頭の弾道ミサイルで破壊した若狭湾の原発銀座が京都の代わりとすれば次は新潟でもおかしくはない。
- 2023/09/07(木) 16:23:11|
- 夜の連続小説9
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