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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ603

「ただいま」「おかえりなさい」庭から聞きなれたエンジン音が響いてくるとエレナは玄関で出迎える。そこで熱い抱擁をしてキスをするのがロシアの風習だと祖父母と両親には説明してある。確かにロシアでは世界中の男性が本音では逃げたがっている男同士の接吻があるくらいキスは日常的だが伝統的風習とまでは言えない。要するにこの夫婦がいつまでもお熱いのだ。特にエレナが長期間不在になると熱は上昇する。
「新潟で自衛隊が攻撃を始めたみたいだな」「うん、ニュースで見たわ」「今度のニュースは見応えがあるな」屯田局員はエレナと並んで歩きながら帰宅前に栗野郵便局の控室のテレビで見たニュースの話をした。エレナの自衛隊での仕事は防衛秘密になっているが、屯田局員が意気消沈し、次第に気が短くなってくるので周囲も理由は判らなくても不在になっていることは察している。おまけに自宅の地域を担当している郵便局員が庭や田畑でエレナの姿を見かけなくなると会った時に声をかけるので隠すことは難しい。
「今度は捕虜の人数が多いんでしょう。また呼ばれるのかしら」「中国地方と違って東京にはロシア語の通訳が山ほどいるから心配するな。声をかけられたら考えよう」玄関に着くまでにこの話題には結論が出た。
実は屯田局員はこれ以上、エレナを国家の任務に駆り出されないように妊娠させようと毎晩のように励んでいた。勿論、子供を望んでいるエレナも応じているが戦果は上がらない。普通、このような時には職場の先輩が冷やかし半分に余計な助言をしてくるものだが屯田局員の場合は冷凍庫のようにクールな重中局員なので業務以外の会話はない。
一方、エレナは岩国基地のアメリカ軍の病院で事情聴取の通訳をした揚陸艦に乗っていたロシア軍の兵士がこれまでのパイロットとは違って日本への侵攻に疑問を抱き、派遣を断っていながら強制動員されていることを知り一刻も早い停戦と降伏を願っていた。
「ここで再び新潟での自衛隊の反転攻勢に関するニュースです。現地に入っている篠山記者と連絡がつきました。篠山さん」「はい、篠山です。大声を出すことを控えなければならないので聞き取りにくいかも知れませんがお許し下さい」屯田局員が家での服装に着替えて台所へ行くと居間との襖が全開になっていて席に座った祖父母と両親がテレビの画面を注視していた。屯田家でも地デジへの切り替えでテレビを買い替えた時、液晶画面のスクリーンのような大型にしたので高齢の祖父母でも視聴できる。
「やはり戦場では敵に発見されるから大声を出せないんだな」「恐ろしいねェ」祖父の解説に祖母と両親は納得したがこれは勘違いだ。篠山記者を含めて日本のマスコミは同行取材を許可されていないので先ず自衛隊に見つかるのを避けているのだ。それでも自衛隊はマスコミの存在は察知していて最後尾の車両の後部に広げた段ボールに「対人地雷に厳重注意」と大書した看板を掲げて注意喚起している。
「現在、東北方面隊の混成戦闘団は戦車を先頭に進攻して村上市の市街地に到着したようです。現時点までにロシア軍と遭遇した様子はなく銃声や砲声は聞いていません。それでもかなりの頻度で爆発音は聞いており、これが対戦車や対人地雷の炸裂なのか、爆破処理したのは判りません。救急車両が動いている様子がありませんからおそらく処理でしょう」「地雷かァ、あれを踏むと戦車が吹き飛ぶんだぞ」「恐ろしいねェ」ここでも祖父が間違った解説をしてエレナ以外の家族が納得してしまった。対戦車地雷の威力では燃料タンクや弾薬庫を爆発させない限り戦車本体を破壊することはできずキャタピラを切って走行不能にするのが主たる目的だ。ただし、対米英中戦争中の日本陸軍の戦車は重機関銃の弾丸が貫通するほど装甲が薄かったのでこちらは一発で吹き飛ばすことができた。エレナはチェチェンで祖国解放ゲリラに破壊されたロシア軍の戦車を目撃したが、対戦車地雷でキャタピラを切られた後、携帯式対戦車ミサイルで攻撃されていた。
「こちらも間もなく日没になります。自衛隊がこれから市街地の掃討を開始するのか、包囲した状態で朝を待つのかは不明です」「民間の衛星画像サイトによると村上市のロシア軍は数日前から夜間に新潟方向に南下を始めましたが途中の新発田市付近で陸上自衛隊の攻撃を受けていて衛星画像でも多くの閃光が映っているようです」「自衛隊も中々やるな」この祖父の見解だけは正しかった。
か・キーラ・コルピエレナ・イメージ画像
  1. 2023/09/09(土) 15:22:55|
  2. 夜の連続小説9
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