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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ604

シュッ、バーン「ウワーッ」戦車を先頭にして暗夜の中、無灯火で進攻する陸上自衛隊の車列の後方を付かず離れず追跡しているマスコミが対人地雷POM3を作動させた。村上市が近づいて車列の速度が落ちたため乗っている2輪車を下りて映像を撮影しようと農道を歩いたらしい。POM3が地面から飛び上がって爆発した噴射炎と閃光、そして断末魔の絶叫は最後尾の高機動車からも見聞できた。
「シコン(士魂)03並びにトクナイ03、こちらトクナイ32、今、POM3の爆発を確認した。後続しているマスコミ関係者と思われる。救助に向かう。送れ」「こちらトクナイ03、了解、巻き込まれないように注意せよ。送れ」「トクナイ32、了解、終わり」最後尾の高機動車は第11戦車隊と第20普通科連隊の3科に車列を離れる許可を求めた。車列は田圃の間を縫うように伸びている農道ごとに幾筋も作っているので各車両に持たせている無線機の数は意外に多い。
第11戦車隊の「士魂」は帝国陸軍の戦車第11連隊が漢数字の「十一」を組み合わせて「士」としたことが発祥で、日本がポツダム宣言の受諾を通知して4日後の昭和20年8月18日に千島列島の最北端・占守島に突如、ソビエト連邦軍が侵攻してきた時、戦車第11連隊の池田末男連隊長が部下たちを集めて「武士として祖国を守る盾となるか、庶民に戻って帰郷するかを選択しろ」と意志を確認した。すると全員がすでに武装解除で主砲を外していた戦車に乗り込んで上陸してきたソビエト連邦軍と4日間にわたる熾烈な戦闘を繰り広げて北海道への上陸を阻止した歴史と精神の継承を意味している。一方、第20普通科連隊のトクナイは神町駐屯地が所在する東根市の隣の村上市出身の江戸時代の探検家・最上徳内に由来する。最上徳内は貧農の出身ながら向学心が抑え切れずに江戸へ奉公に出て独学で地理や測量術、天文学と自然科学、語学などを広く深く修得した。そして田沼意次が派遣した北海道探検隊に下男扱いで参加したことで実力が知られるようになり、やがて帝政ロシアの脅威を認識するようになった幕府に命じられて北方4島の択捉島や樺太まで踏破した北方防備の先駆者だ。
「おいッ、生きているか」「駄目だ、息をしていない」高機動車を後退させて爆発現場に到着すると路上にはオフロードの自動2輪車が倒れていて、そこから10メートルほど手前に男性が倒れていた。高機動車からは2人の陸曹が下り、ドアを開けたまま「その場足踏み」をしてPOM3の存在を確認した。仮に作動すれば即座に車内に飛び込むつもりだ。安全を確認した陸曹たちは暗視眼鏡を装着して男性の遺骸に歩み寄った。片方の陸曹が手袋を外して手の甲で呼吸を確認するともう1人が暗視眼鏡で目視確認した。男性は30歳前後でスマートホンを握ったまま仰向けに倒れている。全身に無数の孔が開き、吹き出した血で服は真っ黒(暗視眼鏡は緑と黒に映るため)に染まっていた。
「トクナイ03.こちらトクナイ32。男性の遺骸を発見、POM3で殺られたようです。やはり素人には看板で『対人地雷に注意』と言っても理解できないのでしょう。このままでは犠牲者が続いてしまいます」「了解、待て」第20普通科連隊の3科の幕僚は待機を指示して無線を切った。その間に2人は男性の脇にしゃがんで手を合わせ、掌で温めて白目を剥いている瞼を閉じさせた。
「戦闘団本部から許可が下りた。日本人のマスコミ関係者を見つければ同行させろ。今、流れているニュースは適切な内容らしい」数分後、トクナイ03から2人が期待した通りの返事が届いた。2人も開戦以来、東京のマスコミが流し続けている虚偽と悪意で塗り固めた記事とニュースには怒り心頭に達していたが、こうして危険を顧みず間もなく戦場となる場所に取材に入るジャーナリストとしてのプロ意識には自衛官と変わらぬ強烈な使命感を見て取っていた。
「この遺骸はどうしましょう」「間もなく支援連隊のトラックが来るはずだ。帰りに連れて行くように連絡しよう。何か目印はあるか」「バイクがあります。遺骸を脇に寄せてバイクを立てておきます」「その前に現場写真を撮影しておけ」連隊3科の幕僚は極めて冷静に指示を与えてくる。2人は指示通りに遺骸と周囲の写真を撮影すると遺骸を農道の脇によせて姿勢を整え、胸の前で両手を組ませた。バイクも何とか立った。
  1. 2023/09/10(日) 15:08:20|
  2. 夜の連続小説9
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