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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ610

「ケンシン3、ケンシン3、こちらフキョー3(普通科教導連隊3科)、フキョー3、感明送れ」「こちらケンシン3、感明数字の5、送れ」「貴所の感明数字の5。我々はマキノ(長岡市の隠語)の合流地点に到着した。現在、テーキョー(偵察教導隊)とセンキョー(機甲=戦車教導連隊)が捜索しているがロ(ロシア軍の略称)は発見していない。送れ」12師団を中核とする東部方面隊の混成戦闘団は長岡で南魚沼市と魚沼市に駐留している普通科教導連隊と合流する。村上市を奪還した神町駐屯地の第20普通科連隊と第11戦車隊の東北方面隊の混成戦闘団は福島駐屯地の第44普通科連隊と駐屯地が空襲で破壊されてからは新発田市内に潜在している第30普通科連隊と合流するので合計6個普通科連隊と2個戦車部隊で新潟市を包囲するのだ。
前回の日露戦争で日本陸軍は無能な軍司令官が将兵=人命を消耗し続けて補充を繰り返した旅順要塞攻城戦を除けば戦力は常に劣勢だった。その点、今回は軍事の運用原則通りに守備側の3倍の戦力で攻撃できる。と言ってもその運用原則を守って攻撃したのは太平洋諸島の日本軍守備隊を壊滅していったアメリカ軍くらいで、昭和20年8月18日に千島列島の北端・占守島に侵攻したソビエト連邦軍は日本軍守備隊8480人に対して8824人で、1982年のフォークランド紛争でもアルゼンチン軍守備隊10001人に対してイギリス軍上陸部隊は10700人だった。
「そう言えば『常在戦場』は長岡藩の牧野家の家訓なんだよな」「そうなんですか。あの言葉を統率方針にしている中隊長は多いですが出所は知りませんでした」普通科教導連隊は先に到着した偵察教導隊と続いた機甲教導連隊が捜索を開始した長岡市の郊外の第2普通科連隊と第13普通科連隊の車列が下ってくる刈羽三山からの国道8号線で待っていた。その待ち時間にパジェロの車内で中隊長は同乗している先任陸曹と雑談として歴史教育を始めた。勿論、運転手の若手陸曹も聴講している。
「常在戦場」は現在では不意打ちの解散・選挙に備えて有権者の顔色を窺う衆議院議員の心構えになっているが、実際は長岡藩主の牧野家に伝わる武士として何時でも死地に赴ける物心両面の備えを説いた家訓だ。牧野家は三河武士でも東三河の領主で駿河・遠江の太守・今川家を後ろ盾にして西三河の松平家とは敵対していた。それでも家康の祖父の清康に屈服して三河統一を実現させ、森山崩れ(清康の暗殺)以降の今川家による三河支配で復活したものの家督争いに介入した家康に臣従した。それ以降は徳川四天王・酒井忠次配下の三河武士団の一員となった。ところが関ケ原の合戦では真田昌幸の挑発に乗って敗北を喫したため敗軍の将となった2代将軍・秀忠の心証を著しく害したが、大坂の陣の軍功を家康に認められて、その没年に長岡藩主になった。豊川市の牧野家の居城跡に建つ牛久保神社には家訓の碑がある。
「以前、伝記小説で読んだんですが『常在戦場』は山本五十六の座右の銘でしたね」「山本五十六は元長岡藩士の息子だからな。親父が56歳の時の息子だから五十六って名づけたんだろう。凄いな」「母親も45歳だったらしいですよ。あの頃としては高齢出産も好いところですよ」戦闘中とは思えない話題だが現実から意識を逸らして緊張を和らげるにはスケベ話が一番効果的だ。長岡の歴史談義ならば小泉純一郎首相の所信表明演説で有名になった「米百俵(戊辰戦争の激戦で廃墟と化した城下での藩士たちの窮状を見かねた支藩から届いた米百俵を売って学校を設立した)」や伝記と実像が大きく違う奇僧・大愚良寛(名主の息子なので貧乏はしていなかった)などネタは尽きないが、そこは精神教育の一線内に踏み止まっている。
「トラックのエンジン音が聞こえます。かなりの台数ですから高田からの部隊でしょう」「うん、確かに」しばらくして窓ガラスを開けて外の物音に耳をすませていた運転手が遠くから聞こえてくる大型車両のエンジン音に気がついた。中隊長も窓を開けると確かに夜明けが近づいて白々と闇が払われてきた暁の風景の奥から聞きなれた自衛隊の大型トラックのエンジン音とブレーキを踏む空気の圧縮音が聞こえてくる。長岡市の捜索は戦車を要点配置して偵察隊がバイクで走り回って実施しているが、住宅地と違ってビルが多いので上層階には普通科の足による確認が必要になる。
  1. 2023/09/16(土) 14:43:43|
  2. 夜の連続小説9
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