fc2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ613

「弾道ミサイルの空襲警報だ。地下に退避しろ」「このビルには地下がありません」「まだ数分はある。探して逃げ込め」長岡市の市街地を捜索している陸上自衛隊の第2普通科連隊、第13普通科連隊、普通科教導連隊に東部方面隊混成戦闘団本部から空襲警報が届いた。航空自衛隊の中部航空方面隊司令部が作戦支援に関する事前協定に基づいて高田駐屯地で指揮を執っている混成戦闘団本部に直接連絡したのだ。確かに指揮系統を経由しての連絡では航空総隊が発信しても陸上総隊、東部方面隊、混成戦闘団、各連隊、各中隊長、各小隊長までの伝言ゲームになり、緊急事態では手遅れになりかねない。それでも中隊長が小隊長に周知するまでに数分を要した。
「ビルの地下で大丈夫ですかね」「日本のビルは耐震性を確保しているからアメリカやヨーロッパとは比べ物にならないくらいの強度があるんだ。ましてや韓国や中国とはレベルが違う」「だから海外では震度5で市街地が崩壊してしまうんですね」歩道でビルを下りてきた小隊長が仕草で避難する場所を通知するのを確認しながら中隊長は先任陸曹と雑談を交わした。日本の建築技術は古くから頻発する地震と格闘しながら発達してきた。欧米のように石積み、煉瓦積みの建物が発達しなかったのも緯度が低く比較的温暖な気候もあるが柱と梁の木造の方が揺れや捩じれを吸収・分散・吸収する上、釘と土で止めた屋根瓦が落下すると重力が急速に減少して倒壊しにくくなる。現代の高層建築でも土台は深く杭を打ち込んで固い地盤に固定し、建物本体も鉄筋コンクリートで強度を保ち倒壊・崩落することはない。だから海外では一般的なビルの爆破撤去は導入できなかった。それでもロシア軍が核兵器を使用すればそれで終わりだ。
「よし、どちらも地下に逃げ込んだな。俺たちも行こう」「はい、中隊本部はあのビルです」中隊長の指示に先任陸曹は先に中隊本部の陸曹たちがロシア兵の仕業らしい割れたガラス製の自動ドアの中で地下への階段の前で待っている商業ビルを指差した。
普通科の幹部である中隊長にはこのビルが弾道ミサイルの直撃を受けても耐え得るだけの強度を持っているかは判らないが、このまま路上で爆発に身を晒すよりも安全なのは間違いない。仮にビルが倒壊して生き埋めになれば別のビルの地下で生き残った隊員たちが掘り起こしてくれるはずだ。そのためには目印を表示しておかなければならないが時間がない。尤もビルが倒壊すれば目印も吹き飛んでしまうはずだ。
「スマホのJアラートではそろそろですね」「地下でも電波を拾うんだな」倉庫にしているらしいビルの地下に避難した隊員が照明代わりに点けたスマートホンに内閣府が発信した瞬時警報システム=Jアラートが入った。地下とは言わず新潟県内は県境付近を除けば停電していて携帯電話も不通のはずだが不思議な現象が起こったようだ。
ズズーン・・・ズズーン・・・ズズーン。間もなく地上から凄まじい爆発音が響き、数秒はない間隔で続発した。これは弾頭部の火薬の爆発よりも音速をはるかに超える高速度で大気圏外から突入してくる弾道ミサイルが地上に衝突する威力のようだ。地下室も衝撃で揺れて棚に積んであった段ボール箱が崩れ落ちた。
ガラガラガラ・・・ズズズズズ・・・ズーン、ズーン「何の音だ」「ビルが崩れたんでしょう。生き埋めにされたのかも知れません」衝撃音が8回で収まると何かが地面を叩く音が続いた。この商業ビルは各階に事務所が1軒ずつ入っている縦長の5階建てで安定性が良いとは言えない。周囲に同様のビルが建て込んでいるので弾道ミサイルが直撃しない限りは倒壊するとは思えない。先ほどまでの衝撃音から見て直撃弾はなかったはずだ。それでもビルの壁が崩落するほどの威力があるとは思わず身震いしてしまう。
ロシア軍は陸上自衛隊が長岡市に3個連隊を集中させたのを見計らったように弾道ミサイルを射ち込んできた。衝撃音は8回だったが日本海に展開している海上自衛隊のイージス護衛艦隊と後を追って柏原市に機動してくる航空自衛隊の高射群のPAC3が何発かは撃破したはずだ。全弾が命中していれば長岡市は戊申戦争の河井継之助、対米英中戦争の8月2日の予告空襲に続いて3度目の惨状を呈していた。一方、3発目の原子爆弾の投下目標だった新潟市は空襲を受けていないが、昭和39年6月16日の新潟地震では壊滅的被害を受けている。
  1. 2023/09/19(火) 14:49:33|
  2. 夜の連続小説9
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<どうして日本は最低・最悪の首相の時に危機に直面するのか? | ホーム | 9月18日・「弾丸」・ボブ・ヘイズの命日>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/8683-9b1015e6
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)