「ケンシン3、ケンシン3、こちらビシャモン3、ビシャモン3・・・ビシャモンは人員、装備異常なし」「こちらフキョー3、同じく異常なし」「これでミサイル攻撃は一段落ですか。送れ」「航空自衛隊からの情報では現時点で次の弾道ミサイルは探知していない。在日アメリカ軍も発射警報は発令していないようだ。終わり」8回の着弾以降、爆発音と衝撃が途絶え、地上に出た生存部隊は無線で東部方面隊混成戦闘団本部3科に連絡した。すると同じ無線が悲痛な呼びかけを始めた。
「ジョーネン、ジョーネン、こちらケンシン3、ケンシン3、感明送れ。ジョーネン、ジョーネン、こちらケンシン3、ケンシン3、感明送れ・・・駄目か」東部方面隊混成戦闘団本部の幕僚は重苦しい口調で結論を漏らした。
「ケンシン3、こちらビシャモン3、これからジョーネンが捜索していた区画の確認に向かう」「こちらフキョー3、我々も同行する。弾道ミサイルを射ち込んできたと言うことは長岡にはロシア軍がいないのだろう」第2普通科連隊と普通科教導連隊の申し出に東部方面隊混成戦闘団の幕僚は即答しなかった。仮に普通科教導連隊が言うようにロシア軍が蛻(もぬけ)の殻になった長岡市に陸上自衛隊が展開するのを見計らって弾道ミサイルを射ち込んだとすれば狙いは壊滅であり、弾道ミサイルが撃破されて戦果不十分となれば次を射ってくる可能性は高い。そうなると戦場における2次損害になる。
「それでは頼むことにしよう。次の弾道ミサイルに備えて無線は絶えず聴取しておくように。退避場所を確認しておけよ」「了解」「了解」臨時編成の東部方面隊混成戦闘団本部の3科に参加している第12師団司令部3部の幕僚の聞き覚えがある声での回答に両連隊の運用訓練幕僚は簡潔に返事をした。
「13普連の担当はこの辺りだったな」「少なくとも3発が着弾したようです。ビルが倒壊しています」13普通科連隊が捜索していた区画には着弾が集中したようで路面に大きくヒビが入って舗装が浮き上がり、店のショーウィンドウやビルの窓ガラスは全て砕け散っていた。直撃した商業ビルでは屋上から突き刺さった弾道ミサイルが中層階で爆発したらしく崩れ残った鉄筋が骨格標本のようになっていた。隣接するビルも外壁が焼け焦げ、爆発した側の壁は崩落して大きく傾いている。
「おそらく避難した地下室に生き埋めになってるんでしょう」「地下室の空間が維持できていれば生存の可能性はある。とりあえず探せ、反応を確かめろ」中隊長の指示に隊員たちは小隊長、分隊長の中継を待たずにビルの跡地に分散した。
カーン、カーン、カーン「誰かいるか」「生きていろよ」隊員たちは瓦礫の山から千切れた鉄筋の金属棒を拾うと露出している土台を叩きながら割れ間に口を近づけて大声で呼び始めた。数人は耳を当てて音を聞いている。その間に本部管理中隊の施設小隊の小型バワーシャベルを載せたトラックが到着した。
「分隊長、中で音がします。柱を叩いているようです」1時間近くが経過して捜索範囲が広がってきた頃、ここも直撃したらしいデパートの広い跡地で1階ホールだったタイル張りの床に耳を当てていた隊員が大声で報告した。
「間違いないか。こちらもリズムを変えて叩いてみろ」「はい、中島士長」駆け寄った分隊長の陸曹が指示すると隣に立っている士長が持っていた金属製の棒を手渡し、中島士長が床を叩き始めた。この金属棒は1階ホールの衣料品コーナーのハンガー掛けの支柱のようで中が空洞だけに高く澄んだ音がする。
カーン、カーン、カンカン、カーン、カン、カーン、カン「あッ、打ち返してきました」「こちらもリズムを合わせてみろ」中島士長の報告に分隊長や周囲で顔を向けている隊員たちは顔に安堵と期待を交錯させた。
カン、カーン、カン、カーン、カンカンカン、「よし、地下街に下りる階段を掘り起こせ。人力で無理なら施設小隊にも支援させよう」中島士長がリズムを合わせて叩き始めると集まってきた中隊長と小隊長は顔を見合わせてうなずいた。
地下街では第13普通科連隊の1個中隊の半数が救出された。空襲警報を受けて中隊長が確実に大人数が避難できる地下の空間がある建物としてデパートを選んだそうだ。
- 2023/09/20(水) 14:58:11|
- 夜の連続小説9
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0