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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ621

「各砲、RAP弾使用、方位5505、射角264、30回連続発射」射撃中隊指揮所・FOCの指示を受けて特科教導隊の各分隊は幹部学生に展示する通りに射撃準備を始めた。RAP弾と言うのは推進装置を内蔵して射程距離を伸ばす砲弾で第1・第2射撃中隊が使用しているFH70であれば通常砲弾の24キロを30キロに延長できる。ミルは特科で使用している方位と射角の数字で円周の360度を6400等分を1単位とする特殊な数値での角度の指示だ。1ミルずれると1キロ先では1メートルすれる計算になる極めて精密なものだ。一方、柏崎市から揚陸したロシア軍の自走榴弾砲と多連装対地ロケット発射装置は第30普通科連隊と普通科教導連隊のゲリラ攻撃で全車破壊されていることが航空自衛隊のRQー4グローバルホーク無人偵察機によって確認されている。このため各榴弾砲は埋設式陣地ではなく周囲に土嚢を積んで露天で射撃する。
「射撃準備よし」「射撃準備よし」「射撃準備よし」・・・「サンヒトフタ、射撃準備よし」分隊長は各榴弾砲の後方に立った指揮官が右手を上げたのを確認すると有線電話で第3中隊第1小隊第2分隊の射撃準備の完了を報告した。
「射撃10秒前、9、8、7、6、5、斉射よーい、撃て」「撃て」ドーン。河川敷から一斉に砲焔が噴き出し、砲声が響き渡り、野鳥が一斉に飛び立った。実は草むらでは狐に狸、鼬に兎などの動物も逃げ出したのだが戦闘中の自衛官には目撃者がいなかった。
「第2回、射撃準備よし」「射撃準備よし」「射撃準備よし」・・・初弾を発射すると隊員たちはこれも演習と訓練の通りに空薬莢を除き、次弾を装填して2回目の射撃準備を進めてた。ドローンが上空で確認する着弾点の誤差修正はこの次の手順だ。
「初弾、だーんちゃく今・・・第1目標県庁、庁舎中央に命中、修正必要なし。第2目標、市役所、別館に命中、59ミル修正。第3目標、新潟空港ターミナル・・・第6目標・関家中学校の校舎に命中、修正必要なし」地図上で設定・計算した着弾地点は全弾が目標の敷地内に命中した。しかし、本来は日露戦争で旅順港のロシア艦艇を砲撃するための観測点として203高地を占領したように射撃地点と目標の間の視界がよい場所に観測員を配置して着弾点を確認させるべきところをドローンで代用したため人間が双眼鏡で視認しながら連絡するようにはいかず修正に手間取ってしまっている。これはロシア軍が反撃能力を喪失していなければあり得ない。
「最終弾、だーんちゃく今」特科教導隊は攻撃目標の建物を破壊するとドローンを低空飛行させて市内でロシア軍の車両と将兵を探した。攻撃目標でも駐車場に止めてあったロシア軍の軍用車両を全滅させたが、それでも人影は見当たらなかった。
「最終弾までの戦果、第1目標、県庁庁舎に30発全弾命中、庁舎は全壊、地下まで倒壊した模様。第2目標、市役所も28発命中、庁舎は全壊、地下室も倒壊した模様。第3目標。空港ターミナルには26発命中しましたが管制塔にも損害を与えた模様・・・」ドローン観測員の報告は特科教導隊指揮所から各混成戦闘団の指揮所経由で陸上総隊司令部まで伝達された。陸上総隊としては滑走路と管制施設を無傷で残し、ロシア軍が降伏した後の輸送拠点にする計画だった。2011年の東北地区太平洋沖地震の災害派遣で陸上自衛隊は道路の復旧以外の発想を持たず、自動車専用道と主要幹線に全戦力を投入して土砂の排除に励んでいたが在日アメリカ軍は「仙台空港の機能回復こそ急務」と前例がない在日アメリカ軍の災害派遣に難色を示す民政党・缶政権を無視して海兵隊と空軍の被害復旧部隊と臨時管制隊を派遣した。その結果、仙台空港は日米の輸送機が発着して輸送拠点としてフル稼働した。陸上総隊はそれを教訓にしているようだ。
「やはりロシア軍は将兵を市内に分散潜伏させている。普通科を投入して市街戦を開始しなければならない」ドローンに続いて上空を飛行したAHー1対戦車ヘリコプターからの映像で特科教導隊の戦果を分析した陸上総隊司令部は「人的損害を与えていない」と判定した。次は戦車と普通科で市内を捜索し、制圧することになる。
それにしてもロシア軍は補給路を断たれ、逃げ場もなく包囲されている新潟市内で何のために無駄な戦闘を始めるつもりなのか。とは言え同じ状況に立たされた陸上自衛隊に「降伏」と言う選択肢があるのかは考えたことがない。
  1. 2023/09/27(水) 13:20:16|
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