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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ629

「直ちに撤収して下さい。石田総理が『警視庁に制圧させるように』と命令しました」空調室に戻り空曹が最後の8本目のタンクの液化催眠剤を注入しているのを見ていた田島3佐の任務用携帯電話に警視庁の伊藤警部から連絡が入った。田島3佐としては最後の1本が空になれば意識を失って倒れている暴徒と局員を識別しながら適切な処理を始めるつもりだった。そこに入った首相命令で普段は淡々と進める仕事の仕上げを中止させられたがこの巨大な建物を占拠している千人以上と自己申告している暴徒を強制自死させて回るには手間暇がかかり過ぎて隠密行動が困難になるのは確かだ。
「総理はクジテレビの中継で映っている人間が意識を失うのを見て官房長官に電話を入れてきたそうだ。そこで官房長官が警視庁の特殊部隊が潜入したと説明したところ『制圧もやるんだな』と念を押したらしい」伊藤警部は説明しながら何故か申し訳なさそうな口調になった。田島3佐と陸海空曹たちは有明埠頭で海中に入ってからのテレビを見ていないが、相変らず裏方の女性たちを凌辱し続けていて遂にはどう見ても還暦を過ぎた社員食堂の小母ちゃんの出番になったらしい。しかし、祖母と同年代の小母ちゃんが当たった若い暴徒は流石に男性器が稼働状態にならず、垂れた乳房を懸命に愛撫していたがそこにエアコンから催眠ガスが流入して暴徒は小母ちゃんを膝から落とすと本人も机に倒れ伏してマイクに寝息を聞かせ始めた。ところが撮影しているカメラマンも数秒遅れで意識を失ったらしく画面は多くのライトが点灯する天井を映したままになった。
「そうなると我々はお役御免、撤収ですな。しかし、警視庁が制圧するにしても外にも警備の暴徒が配置されてるんだ。実弾入りの拳銃を持っているぞ」「それなら発砲しても問題ないな。帰りも気をつけてくれ」「了解」田島3佐が携帯電話を切ると空曹は液化催眠剤の注入を終えたようでしゃがんだ姿勢で顔を見上げていた。表情はガスマスクで見えないが怪訝そうな顔をしているのは想像に難くない。
「俺たちの仕事はここまでだ。帰るぞ」「タンクはどうしますか」「否、証拠物件は残さないのが鉄則だ」空曹の確認に田島3佐は原則論で答えた。田島3佐を指揮官とする自衛隊の特殊任務組織の存在と活動は警察とも一体化しているとは言え、知っているのは双方の組織とも上層部と当事者だけだ。そのため鑑識などの現場が問題化しない程度、しても揉み消せる程度の配慮は必要だ。田島3佐はドアの外で警戒に当たっている陸曹と海曹を呼ぶと帰りは浮き輪代わりになる空のタンクを背負わせた。
「確かに4人で25階建てのビルの中を処理して回るのには無理があります」「だったら警視庁が到着する前に離脱しましょう」田島3佐がタンクを背負いながら状況の変更の概略を説明すると陸曹と海曹がマスクの中で答えた。伊藤警部は警視庁の出動は在日中国人暴徒による都心での破壊活動や犯罪を警戒して全力配備しているため通常よりも編成に時間を要すると言っていたが、それでも30分を超えることはないはずだ。
「突入する時は構造を思い出しながらの状況判断しかしなかったが、こうして見ると随分、多くの局員が殺されていたんだな」「制止しようと前に立ちはだかると即座に発砲、そのまま放置されて遺骸を片づけてももらえない」「警視庁の連中に足を滑らせないように注意するように言ってやった方が良いかも知れませんね」地上階に出て侵入した裏口に向かう廊下にも多くの局員の遺骸が転がっていた。どの遺骸からも大量の血液が出ているので倒れた後もしばらく心臓が動いていたようだ。頭部を射たれた遺骸は血液の代わりにピンク色の脳髄を撒き散らしていた。
「これは集団飛び降り自殺だ」「この娘は見たことがあるぞ。夕方のニュースを担当している女子アナだ」裏口から外に出ると窓明りに照らされた芝生の上に10人近くの女性の遺骸が倒れていた。全員が全裸であることから見て凌辱を受けた女性アナウンサーたちのようだ。放送業界で働く女性アナウンサーたちは人気商売の女優や歌手以上に今回のテレビ中継がどれ程多くの人間に視聴されるかを熟知しており、誰かが「自死」を言い出せば同調することを止める意識は残っていなかったのだ。
4人が階段で海面に下りると水上警察の警備艇の白い船体が煌々と灯るクジテレビの窓明りに照らし出された。遠くから多くのパトロールカーのサイレン音が響いてきた。
  1. 2023/10/05(木) 16:46:48|
  2. 夜の連続小説9
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