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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ630

「何とか一件落着したようだな」「総理、もう大丈夫なんですか」警視庁によるクジテレビ暴徒鎮圧作戦の指揮を執っている首相官邸に事前連絡もなく石田首相が現れた。立野官房長官は首相官邸の通用門を警備している官邸警務官から顔写真を添付した入門許可を求めるメールが届いたので首相執務室で待っていたが、昨日の自衛隊中央病院での記者会見で担当医は「原因究明のための精密検査に少なくとも二泊三日の入院を要する」と説明していたからまだ1日早い。尤も担当医と自衛隊中央病院の上層部は今回の石田首相の意識喪失の原因を理解しているだけでなく薬物を使用する前に安全性を確認しているので病室幽閉を延長するための口実ではある。
「女房が用意していた背広に着替えて病院の前からタクシーで来たよ。病棟の看護師には重要人物が来るから1階で会うって嘘をついてね」説明しながら石田首相は悪戯っぽく笑った。石田首相の笑顔を見るのは何カ月ぶりだろうか。どちらにしても石田首相の妻は最後には夫の意向に従って脱走の共犯者になったらしい。
「警視庁の報告では現時点で死者数は投身した女性アナウンサー11名を含む312名、主に制服を着た警備員と廊下やスタジオで制止しようとした男性社員で楽屋では芸能人のマネージャーが殺害されていました」「どうしてここまで・・・」警視庁からのメールの画像を見せながらの説明を聞いて石田首相の顔は暗く沈んだ。
画像では1階の広いロビーから各階の長い廊下には敷き詰めたように男性局員の遺骸が転がり、床は流血で赤黒く塗装されていた。この様子では銃声や前方の同僚が倒れる姿にも怯むことなく侵入を阻止しようと身を挺して立ちはだかったようだ。一方、裏口の脇の芝生に倒れていた女性アナウンサーたちはスタジオがある5階から飛び降りたようで遺骸の損傷は目立たず生前に画面で輝かせていた美貌と全国に映像で晒された肢体を保っていた。やはり花も恥じらう若手が中心だった。
「中国は在日中国人に対して国家国防法を発動したようです。したがってこれは間接侵略、内乱です。建物内の暴徒は催眠ガスで意識を失っているところを逮捕しましたが、現時点で1004名と関東圏の拘置所の収容能力を超えています」「北海道の俘虜収容所は学校を使ってるんだったな」「拘置所と俘虜収容所では脱走が発生する危険度が違います。強いて言えば小笠原の人間の泳力では脱出できないような孤島を東京都内と言うことにして利用するとか・・・」「要するに島流しか」石田首相の珍妙な返答に立野官房長官は噴き出してしまったが多分、本人はウケを狙った訳ではない。
「何にしろ手段を選ばない凶悪犯罪が続発することを覚悟しなければなりません。総理には絶妙なタイミングで復帰していただきました」「ところで新潟はどうなっている。市街戦が始まっていると聞いているが」やはり石田首相は5日間の強制熟睡で頭脳の機能も回復したようだ。立野官房長官としてはクジテレビの事件以上に注視している新潟奪還作戦にも関心を示した。入院前の石田首相は自衛隊の行動から目を逸らすような言動を公然化させていて国民の関心が向いているクジテレビの事件を終息させればそれで満足したはずだ。立野官房長官は机の上のパソコンを防衛省の中央指揮所から送られてくる画像に切り替えて説明を再開した。
「新潟市内では有りったけのPOM3を使用しているようで住宅地でも頻繁に爆発しています。さらに各所に狙撃兵を配置していて指揮官が多数死亡しています」「ロシア軍としても玉砕前に最後の一花を咲かせようとしてるんだろう」石田首相にしては珍しく「玉砕」と戦時中の軍隊用語を使ったが、立野官房長官としては「最後の一花」などと美化するよりも「悪足掻き」と落としてもらいたかった。
「現地部隊としては戦車を防護壁にして前進していますが、住宅の2階の窓から狙っていると戦車砲で破壊することになります」やはり戦況報告は苦手なようでクジテレビの惨状の画像を見ている時以上に険しい顔をした。そこに秘書官が駆け込んできた。
「総理、官房長官、油槽所で強奪された燃料タンク車が首都高でガソリンを撒き散らしながら暴走しています。都心各所でも同様のタンク車が多数・・・首都高と新宿、銀座、渋谷、池袋の繁華街で火災が発生しました」これが第2弾だった。
  1. 2023/10/07(土) 14:43:48|
  2. 夜の連続小説9
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