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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ633

「POM3キラー作動」トン、トン、トン、トン、トン・・・「反応なし」新潟市内で陸上自衛隊はイギリス軍から秘密裏に供与された人工的に人間が歩く振動を発生させてロシア軍の対人地雷POM3を誤作動させる通称・POM3キラーを試しているが期待したほどの効果はなく少なからぬ損害を出していた。
「仕方ない足踏みしよう。村上市内では何度か作動したんだろう」「と思っていますが周りに歩いていた隊員もいましたからね」バシュッ。バーン。隊員からの報告を受けて中隊長と先任陸曹が次善策を話し合っていると中隊長の表情が固まり、数秒遅れて銃声が聞こえ、その後で両膝をついて崩れ落ちた。
「狙撃だ。その場に伏せ」先任陸曹が大声で命じると周囲の隊員たちは住宅の盛り土のコンクリート製の枠に身を寄せて伏せた。しかし、小銃を構えて反撃しようにも銃声が遠過ぎて目標が特定できない。弾丸の命中と銃声が届いた時差から考えて700メートル以上の距離がある。狙撃銃の性能が飛躍的に向上した現在の狙撃兵は2000メートルの距離の敵を射殺するのは常識だ。アフガニスタンを舞台にして2002年にカナダ軍のロブ・ファーロング狙撃手がマクラシンTA50ライフルで2430メートル、2009年にはイギリス軍のクレイブ・ハリソン狙撃手がL115A3ライフルで2500メートルの敵兵を射殺して2017年には今も現役のため身元や銃器は公開されていないカナダ軍の狙撃手がシリアで3450メートル先の敵兵に命中させている。
またロシア軍の前身のソビエト連邦軍は独ソ戦で各所に狙撃兵を配置してナチス・ドイツ軍に多大な損害を与えたが、257名を射殺したバシリ・ザイツェフ大尉は自ら執筆した狙撃兵の教範で2人1組を原則として3ペア6人で支配地域を構成することを提唱しているので別の狙撃手がこちらを狙っていると考えるべきだろう。また309名を射殺した女性狙撃手のリュドラ・パヴリチェンコ少佐は巧妙な偽装で敵をやり過ごし、700メートル以上の距離から背後を狙撃することを常套手段としていた。今回も先任陸曹が身を沈めている脇で衛生隊員の処置を受けている中隊長は後方から銃撃されている。
「駄目です。頭部銃創で即死です。後頭部から鼻に貫通しています」第3匍匐(下半身を地面に屈して曲げた片腕で前進する)で近づいてきた衛生隊員は中隊長の防弾ヘルメットを取るとその場で首を振った。先任陸曹に示したヘルメットのフリッツ=ドイツ軍式の後頭部には穴が開き、迷彩カバーが装着してある縁からは血が滴り落ちていた。
「第3中隊の指揮を北沢2尉が執る」数分後、住宅のコンクリート製の塀を利用して近づいてきた1小隊長兼副中隊長が大声で指揮宣言した。その間に衛生隊員と先任陸曹は遺骸を引きずって住宅の盛り土の枠の下に運んでいた。衛生隊員は月明かりを頼りに中隊長の目を閉じさせていたが鼻が引き千切られた弾孔は処置のしようがない。
「それにしても夜間にどうやって照準したんだろう」1小隊長は中隊長の遺骸に手を合わせると隣で合掌している先任陸曹に質問した。確かに夜間に住宅街を捜索していても見えるのは動いている人影だけで指揮官を識別することは不可能だ。
「中隊長は暗視眼鏡で市街地図を確認しておられましたからそれを探知されたのかも知れません。赤外線式のナイトスコープであれば暗視眼鏡が赤外線を照射すれば一目瞭然です。夜間でも照準は容易でしょう」自衛隊の暗視眼鏡は市販品の転用なので秘匿性については民間の基準だ。そのため暗い中で赤外線を照射して地図や文字などを確認できる便利な機能が付いているが暗視装置で監視されていれば完全に存在を暴露する。
「それでも夜間の狙撃では射距離はあまり長くないはずだ。発砲炎を確認して戦車に砲撃させよう。中隊長の暗視眼鏡は」「これです」先任陸曹は1小隊長に形見になった暗視眼鏡を手渡した。すると1小隊長は無線で各小隊長に狙撃兵の発砲炎(=マズルフラッシュ)を監視するように指示し、同時に捜索に同行している戦車に対応を説明した。そしてコンクリート製の塀まで第1匍匐(左掌と立てた両膝で前進する)で移動すると赤外線照射のスイッチを入れた暗視装置を上に載せて片手で動かす演技を始めた。
バシュン。バーン。ドーン「いったァ」間もなく別の方向から弾丸が飛んできて暗視眼鏡を破壊し、発砲炎を暗視装置で視認していた戦車が主砲を放った。住宅が倒壊した。
  1. 2023/10/10(火) 14:32:16|
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