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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ635

ロシア軍は新潟市内での市街戦は狙撃兵と対人地雷に任せて主力は分散・潜伏させているようだ。戦車砲で破壊した家屋を捜索すると狙撃銃を持った狙撃手ではなく普通の兵士の遺骸が見つかることが多い。それでも狙撃手は全身に傷を受けていても近づいてくる自衛隊員に手榴弾を投げて最後まで抵抗してくる。昔から狙撃兵が捕まると恐怖と怨恨から残酷な殺し方をすることが多いが、やはり戦場の悪魔だ。
「ハウ・メニー・タイム・ゴー・トゥ・ニーガタ・シティ(新潟市内に行くのは何回目かな)」「トゥー・メニー・アイ・ドント・リメンバー(多すぎて憶えていません)」そんな新潟市内に第6後方支援連隊輸送隊のトラックが弾薬を届けに向かっていた。平時であれば前後を警備車両が挟んで護衛するのだが戦時なので運搬頻度が高く武装しているのは助手席のイギリス人義勇隊員だけだ。運転手の陸曹はイギリス人義勇隊員が配置されると聞いて以来、実家から高校時代はあまり開かなかった英語の教科書を取り寄せて勉強を始めてきたのでこの会話もその成果らしい。
「アー・ユー・サティスフェッド・ナウ・ジョップ(『君は今の仕事に満足しているか』のつもり)」「少し残念です」陸曹の英語が怪しくなると義勇隊員は日本語で答えた。やはり義勇隊員が志願するに当たりイギリスで励んだ日本語の勉強の方が上のようだ。
「不満があるなら言ってみろ。できることなら何とかするぞ」「日本政府の問題ですから無理です」「政治の問題は手に負えないな。自衛官は政治に関与できないんだ」陸曹の予想された返事に義勇隊員は諦めたように苦笑した。
「自分はロシアの侵略を受けた日本の戦いに参加するために志願したんです。それなのに日本政府は我々を後方支援連隊に配属して戦闘任務から遠ざけている。護身用の武器でさえ首相が倒れるまで与えなかった。このライフルと実弾を渡された時、隊長から『ネバー・シュート=絶対に射つな』と言われたからケロロ(イギリス陸軍の軍曹の略称)に『護身のためにも射ってはいけないのか』と訊いたら『セルフ・ディフェンス・オンリー、OKと答えました。隊長とケロロの認識が一致していないようです」「それは建前と本音って奴だ。隊長は幹部だから建前、現場の陸曹は本音を語ったんだよ」日本的な「建前」は相当する英語の単語が存在しないくらい特異な精神風土だが義勇隊員は日本独特の精神性として学んでいたらしく納得したようにうなずいた。
「だからジエータイもタテマエで戦っているんですね。北海道でもウォー・ロウ(戦争法=日本では戦時国際法)以上の制限で自分を縛って窮屈そうに戦っていました。新潟でもロシア軍が潜伏して出てこないんだったら空襲や砲撃で破壊して隠れ家を奪うべきでしょう。イギリス軍は紳士の軍隊って言われていますがブリティッシュ・アーミー(イギリス陸軍)のケロロの兄はアフガニスタンやシリアではヨーロッパでのイスラム過激派のテロへの報復としてかなり過激な掃討作戦を実施したそうです」「俺もそう思う。大体、治安出動で戦っていること自体が間違ってるよ」義勇隊員のイギリス陸軍の下士官と言う兄の体験談を交えた意見に陸曹も思わず同調してしまった。確かにイギリス軍は圧倒的な生産量に物を言わせた徹底的な攻撃で敵を壊滅させるアメリカ軍に比べて戦争に節度があるように感じる。やはり国土防衛を任務とする陸軍を除く海空軍にはロイヤル(王室)の名を冠しているので国王の名誉に関わるのだろう。
「今日のトラック野郎の相棒はイギリス軍か。イギリス軍の戦車砲はウチの90式には使えないぞ」新潟市内で待ち合わせた東北方面隊の混成戦闘団4科の担当者は義勇隊員の顔を見て皮肉を口にした。イギリス陸軍のチャレンジャー2戦車は同じ120ミリでもライフル弾なので滑空砲の90式戦車やNATO軍の主力・レオパルト2、アメリカ軍のM1とは砲弾の融通性・互換性がない。
「今日の帰りの積み荷は28体だ。今度は霊柩トラックになるんだな」「それじゃあ載せてくれ」帰路は戦死者の遺骸の搬送になる。開戦後は戦死者が続出して衛生隊のアンビランスでは手が回らずトラックや高機動車でここに集めたようだ。降伏した捕虜の時は監視と逃走の追跡のために数人を追加で連れてこなければならない。敵を殺す銃砲弾と敵に殺された戦死者の遺骸を同じ車両で運ぶのは妙な気分だ。
  1. 2023/10/12(木) 15:40:55|
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