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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ635

「どうも新潟は苦戦してるみたいだな。戦力的には有利なはずなんだが」全ての新聞を読み終えて私は重い口調で呟いた。自衛隊の攻撃を肯定的に報じている3K新聞、読捨新聞と否定的なA日新聞、M日新聞では記事の論調は異なるが、自衛隊は多くの戦死者を出しながらも占領は遅々として進んでいない点は共通している。特にA日新聞は自衛隊が住宅への砲撃を始めたことに大きく紙面を割き、テレビで私を激怒させた弁護士会の会長にインタビューして「損害賠償訴訟の準備を始める」と発言させていた。
「やはり戦術に制約を受けているから思うように攻撃できないんだ。ロシア軍は伝統的に降伏しないからアメリカ軍が日本軍を攻撃したように壊滅的打撃を加えるしかない。新潟は第2次大戦で都市空襲を受けていないから今回は廃墟にしてしまえば良い」「新潟は空襲されなかったのね」「3発目の原爆の投下目標に決まってたから通常爆弾の空襲からは除外されたんだよ」梢が私の暴論を受け流すように質問したので史実を説明した。第2次世界大戦末期、沖縄も壮絶な地上戦の舞台になって沖縄本島の南半分は廃墟と化した。平和な時代になれば戦闘の舞台されたことを恨んで断罪する被害者史観が横行するが戦時におけるそれには必然性がある。第2次大戦で日本軍は敗者になったが日露戦争では勝者のつもりでも犠牲の大きさはロシア軍と遜色がない。
「コーヒー、濃かった」私が冷めかけてしまったコーヒーをすすると苦そうな顔を見咎めた梢が声をかけた。佳織と夫婦だった頃のコーヒーはハワイアン・コナが指定銘柄だったが今は若い頃に国際通りのコーヒー・ショップで買っていたトアルコ・トラジャが復活している。本当は市ヶ谷地区の売店で買ってくるJASDF(航空自衛隊)ブランドを梢も懐かしがっているのだが出入りが制限されているので思い出の味に戻った。
オランダでも色々なブランドを試したがコーヒー・ショップはマリファナ密売所の代名詞になっていて行って間もない頃に店を出ると警察官に呼び止められて紙袋の中身を確認された。また水出しコーヒーをダッチ・コーヒーと言うがオランダ人の間ではあまり一般的ではなかった。何よりもヨーロッパ人はコーヒーを濃く淹れてこれ以上溶けないくらい砂糖を入れて飲むので薄いアメリカン好みの私たちの口には合わなかった。
その点、航空自衛隊は独立後も駐留していたアメリカ空軍を師匠として創立したため帝国陸軍の亡霊が巣喰った防府の教育隊や奈良の幹部候補生学校を除けば生活習慣までアメリカ式に染められていたので、お茶代わりにコーヒーを飲む習慣も昭和29年の始まりからだった。そう言えば空曹の班長として航空教育隊で勤務した時、ドリップ式コーヒーの淹れ方を教育したが、田舎出身の隊員がコーヒー豆を挽いた粉をインスタント・コーヒーと間違えてカップに入れて溶けずに困るのは航空自衛隊では定番の失敗談だ。
「これだけ戦死者が出ると混成戦闘団本部1科も処置に大童(わらわ)だろうな。宗教儀礼を地元の佛教会に頼むにしてもロシア兵のロシア正教会は何ともならんだろう。それに自衛隊の戦死者は火葬して遺骨を遺族に送れば良いがロシア軍は遺骸のまま土葬しなければならん。日露戦争では旅順に向かう鉄道の沿線に墓標の森ができたそうだが人数が少なくても用地の確保が大変そうだ」私と梢は北海道でロシア軍の戦死者の埋葬地を見てきたが土地に余裕がある地域なので十分に間隔を保ち、整然とした雰囲気だった。今回はこのまま戦闘が長期化して犠牲が増加すればその数十倍の人数が戦死することになる。旅順要塞攻城戦で日本軍は15400人の戦死者を出したが、人数はその10分の1でも日本に樹木が生えていない空き地は少なく農地を買収するしかない。
「ロシア軍の遺骸を粗末に扱うと今度はベトナム戦争を持ち出しかねないな」私たちが小学生だった頃はベトナム戦争反対運動の最盛期だったので小中学生向けの雑誌にもアメリカ軍の北爆で犠牲になった妻の遺骸の傍らに呆然と立ち尽くす夫の姿やナパーム弾で炎に包まれる農家と背中や髪に火が点いた住人などの戦場写真が戦争への恐怖を煽るように数多く載っていた(PTSDと言う概念は存在しなかった)、中でも胸から上だけが生々しく残った北ベトナムのゲリラの遺骸を笑いながら片手で持つアメリカ兵や紐でつないだ数体の遺骸を装甲車で引き摺り、それを車上の兵士たちが笑って見ている写真はアメリカ軍の残虐性を印象付ける効果が絶大だった。
  1. 2023/10/14(土) 13:51:28|
  2. 夜の連続小説9
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