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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ637

「何だこれは・・・随分と時代錯誤な演出だな」「戦争ドラマの映像じゃあないわよね」東京のマスコミが都内の被害ばかりを放送していることに地方の視聴者からの抗議が寄せられるようになった頃、梢と食事しながら夕方のニュースを見ていると唐突に奇妙な映像が流れた。それは喪服を着て首から白い布で四角い箱を吊った若い女性たちの列が歩いていく光景だった。私も無意識に手を合わせてしまった。
「松本駐屯地の13連隊は長岡市の中心街でロシア軍の残留者を捜索中に弾道ミサイルのJアラートが発令されたため地下道と地下駐車場に避難したのですが、真上にミサイルが命中して生き埋めになり、自衛隊の土木部隊によって半数は救出されましたが多くの犠牲者が出ました。なお、マスコミ各社は今回の自衛隊の行動における死亡者の呼称を犠牲者で統一することを申し合わせました。戦死者や殉職者は用いません」画面では官舎地区の通用門にバスを止め、1人ずつ歩き出して短くはない道路を一列に並んで歩いてくる女性たちの姿を前から中継しているが解説の女性アナウンサーは余計な説明を優先した。それにしても現在の武力紛争は防衛出動ではないので戦死者を除外するのは理解できないことはないが殉職者こそ用語として適切ではないか。つまり平成の天皇が慰霊行事で戦没者を国家によって殺された犠牲者と位置付けて侮辱したように今回の自衛隊員たちも無用で不要な防衛任務の犠牲者に貶めたいらしい。
「この女性たちは陸上自衛隊が収容した犠牲者の遺骸を受けつけた長野県がトラックの荷物扱いで運ぶのを避けるために長野市と近傍の斎場で火葬した遺骨を県や長野市の女性職員が連れてきたのです。したがって犠牲者の家族ではありません」この解説でようやく異様な光景の意味と経緯が理解できた。法令上は業務ではなければトラックやライトバンなどの荷台に遺骸を寝かせて運搬することは違法ではないが(座席に座らせると体液などが漏れる可能性があるので衛生関係の規則に抵触する)心情的には納得できる。ただし、松本駐屯地の第13普通科連隊が新潟県内に出動する時、県自治労や県教組が執拗な妨害を加え、最後には県境に座り込んで人間バリケードを作ったことは聞いているのでそのような善意を理由にされても「無信全疑」だ。
「これからご家族の元にお連れしますが毎朝夕に通っていた道路と風景を見せて上げたいと言う職員たちの希望でここからの出発になりました」ここまで来ると演出過剰な気配が漂ってくる。まだ結婚しているのかも疑問な若い女性たちが恋人や家族でもない赤の他人の遺骨が入った白木の箱を黒い喪服の胸に抱き、うつむき加減に歩いてくる姿は日本の戦争映画やドラマで描かれたお涙頂戴の場面の再現であり、演出上は和服にしたかったのだろう。この見事な演技力は地元の劇団員でなければ文化祭などで演技指導する学校の教員の可能性もある。どちらにしろ反戦世論工作と見て間違いない。
「あッ、官舎の角で隊員のご家族が迎えています」無言の帰還の中継は一旦中断して他のニュースになったが官舎の建物が並んでいる区画の角で隊員たちの家族たちが迎えている光景で再開した。事前連絡を受けていた妻たちも喪服を着ているが中には女性自衛官の制服に白手をはめている妻も数人いる。妻たちは火葬する前に遺骸と対面しているので平静を保っていた。すると一番手前に立っている留守部隊の長と思われる3佐が立ち止まった列に挙手の敬礼をした。同時に隣りに不動の姿勢で立っている女性自衛官の陸曹が大声で自衛隊の「服務の宣誓」を唱え始めた。
「宣誓、私(わたくし)は我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感を持って専心職務の遂行にあたり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもって職務の完遂に勤め、もって国民の負託に応えることを誓います」昭和45年11月25日に東部総監部バルコニーで盾の会の三島由紀夫が日本国憲法を否定する演説を集まった隊員たちに聞かせたことで追加された「日本国憲法及び法令を遵守し」は省略してあった。確かにこの憲法の足枷が作戦を制約し、隊員たちに必要がない犠牲を強いた。それでも自衛官は入隊時に「身をもって職務の完遂に勤め」と宣誓しているのだから「殉職は覚悟の上だ」と言いたかったようだ。
  1. 2023/10/15(日) 15:25:13|
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