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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ641

新潟市内のロシア軍は偵察中のAHー1が地対空ミサイルで撃墜されたことを切っ掛けとする防衛大臣の命令で攻撃が再開されると数日を経ずして全滅した。その日、屯田局員が帰宅すると家の空気は何時になく暗く重苦しかった。
「新潟のロシア軍は降伏しなかったのね」「局長は昔の日本軍みたいだって言ってたよ」屯田局員も帰宅前に栗野郵便局の控室で夕方のニュースを見たが、重中局員の好みでテレビA日系のニュースだった。そうなると徹底的に破壊された新潟市内の映像をウクライナやパレスチナに重ね、陸上自衛隊がロシア兵の生存者を救護することなく遺骸を放置していることをイスラエル軍に擬(なぞら)えていた。
「ご飯が不味くなるでしょう。食事中はニュースを止めなさい」「いいえ、お願いします。見させて下さい」夕食中は祖母と母がニュースを見せまいとしたがエレナが懇願した。屯田家の好みは巨人テレビ系列なので左右・賛否のバランスを取ることができた。巨人テレビはロシア軍が最後まで降伏しなかったことに注目して日露戦争の旅順要塞では壊血病が蔓延していて戦死者よりも病死者の方が多かったと言うロシア側の内情を紹介した。それを見て旅順陥落を山口県出身の乃木希典愚将の手柄だと信じている祖父は不満そうだったが、誰も気にしていないので黙って料理に箸を伸ばした。
「CNNとBBCも記者を派遣したのね」「自衛隊が攻撃を中断していた間に東京から記者が入ったみたいだ」食事と入浴を終えて2人の部屋に来てもエレナはテレビでニュースを見た。今度は衛星放送でアメリカのCNNとイギリスのBBCだ。新潟ではこれまで日本のマスコミが隠蔽していた戦闘の実態をイギリス人記者が暴露したことに刺激を受けた若い記者たちが自ら志願して現地に潜入して戦場報道を始めている。そうなればアメリカやヨーロッパのマスコミが動かない訳がなく、強硬に防衛省に申し入れて許可を得ると現地部隊の制止も無視して再開した攻撃の実態を報じている。
今回の陸上自衛隊はロシア軍が発砲すると直ちに建物に砲撃を加え、戦車で接近してロシア語の投降勧告を放送しながらも普通科部隊が包囲して全滅を確認するだけだった。しかし、戦争法のハーグ陸戦条約や戦地にある軍隊の傷者及び病者の状態の改善に関する1948年10月18日のジュネーブ条約では会戦終了後に敵味方を区別しない傷者の救護を義務づけているが戦闘中は求めていない。衛生兵が実施する戦闘中の第一線救護(敵の攻撃に正当防衛として応戦しながら担架で搬送する)はあくまでも味方の負傷者を後送=戦場離脱させるための措置だ。
「追い詰められたロシア軍が毒ガスを使用しました」CNNのニュースは冒頭から刺激的だった。画面の下部には日本語の字幕で「この放送は日本のマスコミの自主規制が適用されませんから視聴者の自己判断で刺激的な画面の視聴を避けて下さい」と注意喚起している。確かにこれまでも海外のマスコミはロシア軍、自衛隊双方の血塗れの負傷者や悲惨な戦死者の姿を隠さずに放送してきた。以前は国営放送が日本の自主規制の基準を適用して編集していたが著作権の侵害として訴訟が相次ぎ、マスコミの国際NGOである国境なき記者団から「報道の自由を封殺している」と批判されて取り止めたのだ。
「ジャパン・グランド・ジエータイは化学戦に対処する装備を着用して戦闘を継続しています」日本のニュースでは報じなかったところを見ると日本人の記者とカメラマンは自衛隊に言われるままに避難したようだ。一方、アメリカやヨーロッパの記者たちは防護マスクや化学防護衣を用意していて汚染地帯での陸上自衛隊の行動を取材している。
「あッ、前方からグランド・ジエータイの戦車が来ます。と言うことはニーガタ市内の制圧は完了したのでしょうか」結局、最終場面も海外のマスコミだけが中継していた。その後、自衛隊が道路に運び出して並べた何故かアジア人も混じったロシア兵の遺骸を1体ずつ撮影していたが、日本のマスコミが報道できる訳がなかった。
「カミよ。彼らの罪を許し、魂を清らかなる御国にいざないたまえ。アーメン」「ナーム(=南無阿弥陀佛)」エレナは祖母からもらった短い数珠をコンボスキニオン(正教会のロザリオ)として手に取ると画面のロシア兵たちの死に顔から目を逸らさずに両手を組んで祈りを捧げた。隣で手を合わせた屯田局員は目を閉じて唱和した。
  1. 2023/10/19(木) 15:02:54|
  2. 夜の連続小説9
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