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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ642

「始めからこうするしかなかったんだよ」夜、釜田防衛大臣が記者会見で「新潟地域のロシア軍を壊滅させた」と発表するとテレビのニュースは一斉に臨時番組を放送し始めた。私と梢は夜の散歩を終えてシャワーを浴び、晩酌を始めたところだったので不謹慎にも酒席のネタになってしまった。グラス1杯目の冷やの日本酒を飲み干していた私は坊主や検察官ではなく元自衛官としての軍事常識で評価した。
「戦争に勝った割に横田基地は静かだったよね」「新潟の奪還作戦が成功しただけで中国とロシアが日本への侵攻を断念した訳じゃあないんだ。それに平成からの日本はハラスメント(不快感)が最優先されるから景気づけは許されないんだろう。戦死者の遺族の気持ちを考えてと言うところだな」梢が言う通り、私たちが自宅を出発した時点では公式発表の前でもニュースは流れていた。これが戦前であれば基地内では将兵に祝い酒が振る舞われ、提灯を持った住民が外柵を囲んで万歳を叫んでいることだろう。しかし、今夜の横田基地内は平素と何も変わっていなかった。
「ロシア軍はどうして降伏しなかったのかしら。沖縄戦の牛島中将も『最期まで敢闘し、悠久の大義に生くべし』って言い遺したから日本軍は降伏できなかったけどロシア軍の司令官も同じ考えだったのかしら」「確かに沖縄の日本軍が降伏したのは9月7日だから9月2日の日本政府と陸海軍よりも遅かったな。8月29日に糸満の真栄里の鍾乳洞に籠っていた山形の歩兵32連隊が降伏して9月7日に先島の28師団長の納見中将と奄美の独立混成64旅団長の高田少将、それに沖縄から脱出して横須賀にいた参謀長の加藤少将が臨時の海軍沖縄根拠地隊司令官になって嘉手納で降伏文書に調印したんだ。尤もアメリカ軍としては沖縄本島を本土攻略の作戦拠点にしたから他の島は放置されていたんだよ。牛島中将の遺訓を守った訳じゃあないな」私の軍事蘊蓄(うんちく)は回答になっていない。梢はかえって難しい顔で考え込んでしまった。
「ロシア軍も帝政時代から『降伏はツアーリ(皇帝)に対する背信行為』として日露戦争でも降伏した旅順のステッセリ中将やバルチック艦隊のネボガトフ少将には軍法会議で死刑が言い渡された。勿論、ツアーリ・ニコライ2世の恩情で減刑されてるがな。ソ連軍もツアーリを共産党に置き換えて軍人に絶対的忠義を強要していたらしいからそれを現政権が復活させたんだな。自衛隊だって『イザとなったら降伏して捕虜になる』って公言していたのはモリヤ1尉だけだったよ」これならば回答になったはずだ。
現在の日本では対米英中戦争で日本軍が全滅しても降伏しなかったことを東條英機の「戦陣訓」の「生きて虜囚の辱めを受けず」を頑なに守ったからだと誤解しているが、戦陣訓は首相になる前の陸軍大臣時代に発布した大臣告示なので対象は陸軍のみで太平洋諸島の海軍守備隊が全滅を選択した理由にはならない。また日露戦争の奉天会戦で重傷を負って意識を失ってロシア軍の捕虜になった村上正路大佐や第2次上海作戦の同様の経緯で国民党軍の捕虜になった空閑昇少佐は帰国後、軍内だけでなく一般市民からも徹底的な指弾を受けた。空閑少佐は捕虜になった現場で拳銃自決したが、それでも「捕虜になった臆病者は腹も切れない」と揶揄されている。村上大佐は山口県、空閑少佐は佐賀県出身なので薩長土肥の狂気が醸成した日本軍の悪しき不文律なのかも知れない。
「会戦終結を受けて新潟市内では自衛隊によって日露双方の生存者の捜索と遺骸の回収が始まっています」クジテレビもこの緊急事態を報じることはマスコミの責務と社長が陣頭指揮を執り、地方支局の職員を東京に緊急動員してニュース報道を再開している。我が家でもその健気さ、懸命さに賛同するように極力視聴していた。
「そこで判明したのは新潟のソシア軍の半数近くがアジア人だと言うことです。新潟のロシア軍のアジア人と言えば現地に潜入取材していて1人が殺され、1人が拘束されたイギリス人記者が証言した北朝鮮軍の存在でしょう」やはりクジテレビの報道の切り口は同じ保守系でも巨人テレビとは鋭さが違う。私は飲みかけていたグラスを止めると画面に見入った。この男性アナウンサーは福岡から来ているらしい。
「ロシア軍が北朝鮮軍を雇っていたのはウクライナで人手不足だからだと思っていたが・・・」「見殺しにするためだったとしたら・・・」2人とも絶句してしまった。
  1. 2023/10/20(金) 14:59:15|
  2. 夜の連続小説9
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