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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ647

「困ったことに現在、後方に下がらせた普通科の隊員にPTSDの発症者が続出していまして全国の自衛隊の病院から精神科の医官を派遣してもらっています」「陸海空の心理カウンセラーの講習を受けた隊員も動員しています」幕僚たちの口調は自衛官が戦場神経症に罹ること自体を恥じているようで、ましてや幹部が発症したことは精神の脆弱性を証明してしまったかのような認識らしい。
戦闘を終えた普通科連隊は制圧した地域の確保をPOM3の除去に入った施設大隊に任せて自分の駐屯地に帰っている。そこでPTSDを発症する隊員が続出していることになるが自己診断するにしても時期尚早だ。おそらく妻がテレビやインターネットでアフガニスタンやシリアでの戦闘から帰還した将兵の戦場PTSDがに続出していることを知って調べた症状に似ていたのだろう。私も梢と一緒に寝るようになって夜中に寝言を叫びながら暴れて起こされることあるがその時は沖縄時代のデモ対処の夢を見ている。佳織との別居生活の頃も同じ夢を見ていたが独り寝では気づく者がおらず、朝目覚めて「えらく寝相が悪かったな」と呆れるだけだった。
「問題なのは幹部に発症者が多発していることです。それでなくても多くの戦死者が出て大幅な欠員が生じているのに困り果てています」軍隊では将校士官は確固たる使命感で率先して任務を遂行するため死の恐怖や心身の苦痛などから超越した存在であるかのように演出しているが、神経を除去する手術を受けている訳ではないので怖いものは怖く、苦しいことは苦しいのだ。それを吐露できない立場が戦場神経症を深刻化する。
「指揮官は常に狙撃の標的にされていて実際に83名が撃たれていれば神経衰弱に陥るのは当然だよ。平成以降の日本人の精神の弱体化は病的なものがあるから自衛官も例外じゃないんだ」「モリヤ2佐は北キボールPKOで実戦を経験されていますがPTSDにはならなかったんですか」どうやら私に治癒の実例を期待しているらしい。しかし、私は前川原で一緒になった精神科医官の候補生に毎度の戦争の話をすると「死にたい症候群」と診断された患者なので症例にはならない。
「ワシの場合、坊主だから死生観(ししょうかん)は身についているし、殺した相手の供養も抜かりがないからPTSDには罹らなかったよ。尤も帰国後は刑事被告人の拘置所生活だったから自分の行為を正当化する努力をしていてPTSDになっている場合じゃアなかったな」「そうなると隊員たちにも信仰心を教育した方が良いと言うことですか」「今から修行しろと言っても手遅れだろうからせめて戦死者の慰霊、ハッキリ言えば供養は宗教を前面に出してゴンシュ(厳修)した方が良い。民政権は東北の大震災で自衛官が犠牲者に合掌することをマスコミに問題化されて遺骸安置所に線香を立てることまで全面禁止したが加倍政権は熊本の震災の時には黙認していた。今の日本は異教徒を妻にした天皇自身が国の信仰を蔑ろ(ないがしろ)にしているから家族葬なんて陳腐な行事が横行しているが、古今東西南北を問わず死者の鎮魂の儀礼は宗教色抜きには考えられない。隊員も宗教で冥福を祈ることで敵を殺したことへの後悔を解消できる。魂の存在を認識すれば死に対する恐怖を緩和できるはずだ」私が天皇への批判を口にしたため幕僚たちは一瞬目つきを険しくしたが最後の見解に重ね合わせて考え込んでしまった。
「何なら取材に来ているマスコミの前でワシが戦没者供養の読経を勤めてやろうか」「検察官も国家公務員でしょう。良いんですか」「憲法裁判になれば自衛隊の宗教活動を合憲とする判例を作ってやる」話が飛躍し過ぎてそこまでになってしまった。
「ピアノがあるわ。貴方のお経の代わりに私が死んだ兵隊たちのために弾いてあげるわ」幕僚たちとの用談を終えて食堂になっている体育館に行くと梢はピアノを見つけた。梢は教師の両親が小学校で勤めている時、音楽の授業でオルガンを弾くために家で練習をしているのを見て覚えたそうだ。オランダで時間に余裕ができたのを機にピアノの先生について練習したので今では歌の伴奏くらいはお手の物だ。
「もう泣かないで坊や、貴方は強い子でしょう、もう泣かないで坊や、ママは傍にいるの・・・」慰霊の曲は私も戦場で唄うことがある森山良子の反戦歌だった。大学を中退する時、ギター部の女子部員が泣きながら唄ってくれた曲でもある。
・純名里沙 (4)イメージ画像
  1. 2023/10/25(水) 14:20:58|
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